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1時間→1分に短縮! しかも溶液1滴で精密なナノシートを作製する技術を名大が開発

エレクトロニクス、エネルギー分野でのナノシート応用加速化に期待

酸化物、グラフェン(炭素原子からなるシート状の物質)、窒化ホウ素などの二次元物質(ナノシート)を、わずか1分ほどで基板上に隙間なく配列し薄膜を作製する新技術「高速薄膜作製法」が名古屋大学未来材料・システム研究所の研究グループにより開発された。専門知識や技術を用いず、ワンクリックで高品質かつ大面積への製膜が可能で、ナノシート製の各種デバイス製造を大きく発展させる本技術の詳細を紹介する。

ナノシート作製における大きな課題

二次元ナノシートとは、厚さ約1nm(1mの10億分の1)という極めて薄い膜のような物質の総称である。極薄の厚みに対して横サイズはミクロン単位の数千倍規模の広さ、面は薄く柔らかく接着性に秀で、高い電子・イオン移動度や高誘電性、透明性、高耐熱性といった優れた機能を有し、精密機器の基板に用いられるなど、エレクトロニクス、エネルギー分野での次世代デバイス化が期待されている。

その性能を最大限に引き出すには、薄膜を作製する際、基板表面にナノシートを隙間や重なりなく、トランプを並べるように秩序正しく配列する「稠密(ちゅうみつ)配列」の状態にすることが必須だ。

稠密配列の薄膜の作製は、これまで気液界面(気体と液体が接する境界)でナノシートのナノ粒子を集積する「ラングミュア・ブロジェット法」などが用いられてきた。だが、この方法は熟練した操作と複雑な条件設定が必要なほか、1層の製膜に1時間程度かかるため、ナノシート応用における大きなネックとなっていた。

これらの課題を解決し、ナノシートのデバイス開発・工業化を加速させるべく、名古屋大学未来材料・システム研究所の長田 実教授、施 越(し えつ)研究員らの研究グループは、ナノシートの高品質稠密配列膜をできるだけ容易に、かつ短時間で実現する新しい技術の検討を行った。

自動製膜装置は、検体や試料となるコロイド水溶液を一定容量吐出する分注器、自動ピペットによりコロイド水溶液を滴下・吸引をワンクリック操作で行うことができる

画像提供:名古屋大学未来材料・システム研究所

自動製膜装置の製膜風景(溶液滴下・溶液吸引)

画像提供:名古屋大学未来材料・システム研究所

その過程で、自動ピペットを使ってナノシートのコロイド水溶液を基板に1滴滴下した後、それを吸引する操作により、ナノシート同士が隙間なく稠密に配列し、わずか1分ほどで稠密配列単層膜の薄膜を自動作製することに成功した。

自動製膜装置のワンクリック操作で作製時間を1/60も圧縮し、コスト削減も

研究グループは、この自動製膜による最適な製膜条件、製膜機構の検討を行ったところ、エタノールを1~2%添加した希薄コロイド水溶液(エタノール濃度:0.02~0.05g/L)の利用が好適であり、コロイド水溶液の表面張力の低減、ナノシートの対流の促進により、ナノシート間の重なり、隙間の発生が抑止され、効率的な配列制御が実現することを明らかにした。

1インチSi基板上に製膜したナノシート単層膜(左)。試料の表面と探針の原子間に働く力を検出して画像を得る原子間力顕微鏡(※)による膜質評価。赤い点線で囲った部分が1枚のナノシート。ナノシートがジグソーパズルを並べたように、緻密に配列されていることが確認された(右) ※原子間力顕微鏡=真空や大気中、溶液などさまざまな環境で、無機、高分子材料の表面構造や組成、弾性率、粘弾性などの分布をナノスケールで可視化、力学的な解析を行う装置

画像提供:名古屋大学未来材料・システム研究所

さらに、この技術は単層膜の作製を繰り返すことで、ナノシートの単層膜を1枚1枚重ねて、厚さ1nm単位(層単位)で膜厚を精密に制御した多層膜のレイヤー・バイ・レイヤー構築が可能なほか、さまざまな組成、構造のナノシートに適用でき、かつ多様な形状、サイズ、材質の基材上に製膜できることも分かった。

極めて汎用性が高く、自動ピペットによる滴下・吸引が基本操作となるこの技術は、専門知識や技術も必要なく、自動製膜装置をワンクリックで始動・操作するのみで高品質なナノシートの自動製膜、併せて製造コストの大幅削減も実現させた。

今後、ナノシートの工業的な薄膜製作、ナノコーティングにおいて欠かせない技術として各種デバイス開発・発展に大いに役立てられるだろう。

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