2023.9.20
パナソニック ホールディングスが農産物の成長を加速させる新素材を開発!
葉っぱに散布するだけで生産力向上と脱炭素貢献を実現
世界的な異常気象により、ますます必要性が高まるカーボンリサイクルの実現と、増え続ける世界の人口に対して必要な食糧不足への危惧。この2つの社会的課題の同時解決を目指して研究・開発を進めている、パナソニック ホールディングス株式会社の新しい素材がいま注目を集めている。
(<C>カルーセル画像:トマト大好き / PIXTA<ピクスタ>)
CO2を原料に農作物の収穫量を増やす、夢のような技術とは
2023年は多くの国で最高気温の記録が更新され、観測史上最も暑い年になる可能性があるといわれている。この気候変動や紛争、世界人口の増加などを要因とした世界的な食糧危機も話題を集めており、国際連合世界食糧計画(WFP)協会は今年、世界で3億4500万人が高いレベルの食料不安に直面すると推定している。
このような状況の中、CO2を資源として捉え、分離・回収してさまざまな製品や燃料に再利用することでCO2排出を抑制するカーボンリサイクルや、効率的な食料生産の技術開発が求められている。
パナソニック ホールディングスはこうした社会課題に、大気中のCO2を原料の一部に使用し、農作物の成長を促す植物成長促進分子「ノビテク」を開発。2024年度に商品化すると発表した。
植物の成長に必要不可欠な光合成は、細胞小器官である葉緑体の働きによって行われ、植物に栄養が供給されるが、同研究・開発では、この葉緑体の進化を模倣したシアノバクテリア(光合成を行う微生物の一種)を改良して行われた。
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葉緑体の進化を模倣したシアノバクテリアを改良。光、水、 CO2から植物成長を刺激・補助する生体分子を合成する
資料提供:パナソニック ホールディングス株式会社
具体的には、まずシアノバクテリアの外膜構造維持に関わる遺伝子の発現を抑えた、外膜脱離型シアノバクテリアとして独自に改良。
続いてCO2変換リアクタで、この外膜脱離型シアノバクテリアにCO2を含む空気や光、水、無機養分を付与して培養し、有機炭素を抽出した。
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CO2変換リアクタの構成(左)と、植物成長増進の結果(右)。植物成長促進分子により作物の光合成代謝が活性化される
資料提供:パナソニック ホールディングス株式会社
有機炭素の中には植物の成長を刺激、もしくは補助する成分が大量に含まれており、ノビテクはこれらを活用して開発されたもの。
ノビテクは農作物の葉っぱに散布するだけで成長を加速し、野菜の収穫量が増加したという成果が報告されている。
脱化学肥料、脱農薬を実現させる天然由来物質として期待
ノビテクの実地実験は全国の農地で実施されており、品目によりバラつきはあるものの、多品目で収穫増を記録している。
例えば、2021年度のホウレンソウ農地実証では、収穫までに葉面に1回散布しただけで、散布しなかった場合に比べて40.9%の収穫増となった。
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2021年度に実施したホウレンソウ農地実証の様子。左側がノビテクを葉面に1回散布したもの
画像提供:パナソニック ホールディングス株式会社
収穫増の要因に関する分析も進んでおり、葉面散布したものは通常栽培の場合と比べ、スクロース(ショ糖)の代謝に寄与する触媒酵素である酸性インベルターゼの活性が上昇していることを確認。その結果、光合成の収率が向上して植物の成長を促したと考えられている。
収穫増が確認されたものはホウレンソウの他、ミニトマト(10~40%増)やナス(20%増)、トウモロコシ(20~50%増)などがあるが、一方でキクやバラといった植物では差がないことも確認されている。
このように効果が見られた植物と、見られなかった植物の差についての分析はまだこれからだという。
分析、研究が進めば、農薬や化学肥料の使用を減らせる可能性もあると考えられている。
ノビテクは、農薬や肥料とは異なるメカニズムで植物生理に作用するものであるため、これまでにないアプローチで農作物の収穫量や品質を向上するなど画期的な天然由来物質としても注目を集めそうだ。
特に現在は、化学肥料の価格高騰が農家の経営を圧迫しているため、化学肥料を効率的に使う手段として期待したい。
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text:木村敬(ウィット)