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海洋プラスチックごみ問題解決策の切り札! 群馬大学発の新しい海洋生分解性プラスチック

摩耗スイッチ搭載海洋生分解性プラスチック(微生物埋込型プラスチック)を開発

手軽で耐久性に富み、安価に生産できることから、現代社会には欠かせない材料となっている「プラスチック」。一方、これらは最終的に海へと大量に流入し、海洋プラスチックごみとなって海の生物を傷つけたり、環境を汚染したりすることが世界的な問題となっている。こうした状況下で2023年7月、群馬大学は新しい海洋生分解性プラスチックの開発に成功したと発表。海洋プラスチックごみ問題解決の切り札になり得るという、その正体とは。

現状の生分解性プラスチックの弱点

昨今話題のSDGsでも問題視され、全世界的な課題となっている海洋プラスチックごみ。この問題解決策の一つとして注目されているのが、生分解性プラスチックだ。生分解性プラスチックは、環境流出時に微生物によって無害な化合物にまで分解される性質を持つ。

生分解性プラスチックの分解の様子(環境水中で培養開始から0、1、3、5、10日後)

海洋環境で生分解性プラスチックを分解させる仕組み

しかし、現在市販されている生分解性プラスチックの種類は限られており、普及はしていない。というのも、まだまだプラスチックでは「生分解性」という性質と、「丈夫であり成形しやすい」といった一般的な特徴との両立が難しいからだ。

また、現状ほとんどの生分解性プラスチックは、土壌では分解が始まるものの、海洋での分解開始は遅いものが多い。そのため、結局のところ海洋環境においては十分に分解されず、いつまでも残り続けてしまうといった問題がある。

こうした問題を克服すべく、例えばプラスチックに分解しやすい構造を組み込むなど、これまでさまざまな手法が検討されてきた。

微生物を埋め込んだ新たな生分解性プラスチック

そこへ新たな一手として2023年7月に発表されたのが、群馬大学大学院理工学府分子科学部門兼食健康科学教育研究センターの粕谷健一教授・センター長および鈴木美和助教らの研究グループによる「摩耗スイッチ搭載海洋生分解性プラスチック(微生物埋込型プラスチック)」だ。

これは、海洋で生分解速度が遅いという一般的な生分解性プラスチックが持つ欠点を克服するために、あらかじめ生分解性プラスチックに、分解酵素を生産する微生物を埋め込むというもの。微生物を休眠状態で封じ込めることで、しばらくは分解活動をせず通常のプラスチック同様に丈夫であり、使用しているうちに摩擦によってすり減り、劣化し始めたタイミングで材料内部の微生物が目覚めて増殖。分解酵素を生産し、急速に生分解が進むのだ。

この微生物は休眠状態では熱に対して高い耐性があるため、プラスチックを溶かしながら練り込むことも可能。研究グループは同様の技術により、土壌中での生分解性向上に効果があることを実証し、特許を取得している。

微生物埋込型プラスチックの生分解メカニズム

分解微生物の練り込みにより材料の海洋生分解性を高めた研究は、今回が初めての例なのだとか。研究グループは引き続き、分解タイミングの制御など研究を進め、本技術の社会実装を目指している。具体的には、例えばマルチシートなど環境流出がある程度見込まれるプラスチック環境資材や漁具などへの応用が考えられるという。

この技術を用いれば、プラスチックごみは海洋に流出した後に安定して生分解、無害化される。まさに理想的な材料として、海洋プラスチックごみ問題の解決に大いに役立つことが期待される。

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