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2時間→たった10分に! JAMSTECが研磨板の新開発で鏡面研磨の時短に成功

地球科学の研究や半導体、電池開発の材料分野でも活用可能な新技術

国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)の清水健二主任研究員は、岩石試料の表面を誰でも簡単に研磨できるようにする研磨板「六角研磨盤」を開発。従来は2時間を要した研磨をわずか10分ほどで仕上げることを可能にした。地球科学の研究をはじめ、半導体や電池などを開発する材料分野でも活用可能な画期的な技術について、その開発経緯と特徴を解説する。

精密な観察の結果を左右する、岩石試料の研磨の難しさ

清水氏が所属するJAMSTEC地球内部ダイナミクス領域では、鉱物中のメルト包有物※1や深海底火山ガラス※2に含まれる水を調査し、地球の水の起源や水循環を読み解く研究に取り組んでいる。研究では岩石試料の組成観察・分析を行い、鉱物の種類や結晶構造を調査するが、観察に際し、研磨は岩石試料を薄片※3(はくへん)にする上で欠かせない作業である。

岩石試料は主に、研磨フィルム※4上で動かすことで、表面が平滑に研磨される。しかし岩石には柔らかい鉱物や硬い鉱物が混在しているため、普通に研磨すると柔らかな鉱物だけが削られ、硬い鉱物の周囲が斜めになる“縁だれ”が生じ、表面が凸凹になってしまう。中でもメルト包有物は硬い鉱物に柔らかいガラスが含まれているため薄片に縁だれが残ると精度の高い分析が行えないのが実情だ。

また研磨は、薄い研磨フィルムを敷いた研磨板の上で、研究者自ら試料を手で動かして行う。その際、力み過ぎると試料が研磨フィルムに貼り付き、無理に動かすとフィルムにしわが生じ、間に挟まった研磨くずが試料を傷付けてしまう。こうした理由から岩石試料の研磨はグラインダー(回転式研磨機)の使用が難しく、時間と手間、熟練した技を要し、研究者たちを苦労させていた。

こうした状況の中「試料準備に要する時間がもったいない。分析やデータ解析に時間を使いたい」と考えていた清水氏は、誰でも簡単に、速く表面を平滑に研磨できる方法を求めて工夫を重ね、新たな研磨板「六角研磨盤」の完成に到った。

※1…鉱物が地球の深層で結晶化する際、周囲のマグマを取り込んで地表へ噴出、マグマの部分が急冷されガラス化したもの。この場合、メルトは岩石が溶けたマグマを指す
※2…水深2000m以下の深海底に噴出したマグマが、海水で急冷されてできたもの。深海底の高水圧により水がマグマから抜けずに残っている
※3…試料をスライドガラスと接着させ、30μm(マイクロメートル/1mmの1000分の1)の厚さまで薄く均一に磨いた状態。顕微鏡で観察する際に用いられる
※4…ダイヤモンド、アルミなど硬く細かい砥粒(とりゅう)をプラスチックフィルムに接着・固定したもの

六角研磨盤は研磨フィルムを貼り付けて使用。研磨は砥粒の大きさの異なる十数種類の研磨フィルムを使い分けて行われる

画像提供:JAMSTEC

正六角形が生み出す凸凹で、研磨の効率が大幅向上

清水氏が開発した研磨板は直径20cm、厚さ2mmほどのステンレスの円盤状で、表面は正六角形の島(凸部)を残すよう処理され、島の周りには約200μmほどの溝がある。

溝があることで、この部分の研磨フィルムが少したわむ。そうすると試料との間に隙間が生まれ、試料の貼り付きを防ぐことができる。また、島の形状を円にすると溝の太さが不安定になり、正六角形にすることで溝の幅を均等にする工夫が加えられた。

硬度が異なる鉱物とガラスから成る火山岩試料を従来の方法での研磨(左)、六角研磨盤による研磨(右)の順で行い表面を比較。六角研磨盤による研磨は、柔らかな部分も硬い部分も均一に削り、縁だれ(影の部分)を解消、表面がより平滑になっていることが見て取れる

画像提供:JAMSTEC

また溝の工夫により、グラインダーでも水を流しながらの研磨であれば、研磨くずは研磨フィルムがたわんだ部分を流れて排出され、試料が傷付くことも防げる。そのため研磨板は円盤状になっている。

この「六角研磨盤」を用いることで、従来は2時間を費やした研磨がたった10分で仕上がり「初めての人でも少しコツを教えれば、試料の表面を傷付けず平滑にできる」と清水氏は太鼓判を押している。

従来の研磨方法と「六角研磨盤」を用いた研磨方法の違い

資料提供:株式会社 池上精機

「六角研磨盤」は清水氏が特許を取得後、研磨機メーカーの株式会社 池上精機より商品化されている。

清水氏は「材料分野でも研磨の難しさは問題視されているが、この研磨板は半導体や電池などの材料にも使えるので、さまざまな分野で活用してもらいたい」と話している。

繊細かつ微少の差が結果を左右する研磨が、より簡単に時短されたことで、今後、地球の誕生を巡る謎の究明までの時間も大きく短縮されるはずだ。

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