1. TOP
  2. トピックス
  3. “振動”をよりリアルに体感!産総研らが触覚再現技術「双方向リモート触覚伝達システム」を開発
トピックス

“振動”をよりリアルに体感!産総研らが触覚再現技術「双方向リモート触覚伝達システム」を開発

人間の触覚を計測し、編集、調整、再生するハプティック技術

スマートフォンやゲーム機で活用されている「ハプティック技術」。バイブ機能などによって、デバイスが使用者に対して物理的な感触を提供することで、より没入感のある体験を与えてくれるものだが、このたび、さらなる体感を生み出す技術が開発された。2024年3月、国立研究開発法人 産業技術総合研究所などによる研究チームが、人間の体感を再現する「双方向リモート触覚伝達システム」を発表。VRやARでの体験がよりリアルなものになるかもしれない。

バイブ機能を超える触覚伝達システムが誕生

さまざまなデバイスで利用されている「ハプティック技術」は、触覚による情報伝達を可能にするもので、デバイスが使用者に対して物理的な感触を提供することを指す。この技術は、スマートフォンのバイブレーション通知やゲームコントローラーの振動フィードバック、さらには仮想現実(VR)や拡張現実(AR)でのリアルな触感体験の実現など、多岐にわたる分野で応用されている。ハプティック技術によって、ユーザーは視覚や聴覚だけでなく、触覚を通じても情報を得ることができ、より直感的で没入感のあるインタラクションが可能となるのだ。

しかし、課題はある。スマートフォンや家庭用ゲーム機などの振動機能には、従来から「LRA型振動発生素子」が利用されている。LRA型振動発生素子とは、磁石とコイルの相互作用によって動くアクチュエーターの一種。内部の磁石がコイルから生み出される磁場の効果を受けて前後に直線移動し、この動きを振動の生成に利用している。

ただ、LRA型振動発生素子は、利用できる振動帯域が限られること(150~250ヘルツ程度)や、振動発生のみの単機能であること、実装スペースの確保が必要であることなどの課題があった。また、コンテンツ作成の際に必要となる「体感振動計測」においても、既存のソフトウエア技術では、計測時に本来伝えたい振動信号のほか、運動によるノイズや身体に由来する心臓の鼓動音などの振動も含まれてしまうことで振動信号が不明瞭になってしまうという課題もある。

そうした中、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研) センシングシステム研究センター ハイブリッドセンシングデバイス研究チームの竹井裕介研究チーム長、竹下俊弘主任研究員、東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻・人間-ロボット情報学の昆陽雅司准教授、筑波大学 システム情報系 応用触覚研究室の蜂須拓助教、株式会社Adansonsの中屋悠資取締役CTOの研究チームが、極薄ハプティックMEMSによるハプティックデバイスを活用した「双方向リモート触覚伝達システム」を発表した。

新感覚の触覚伝達システムとは?

「双方向リモート触覚伝達システム」は、触覚デバイスと触覚信号編集技術を組み合わせることで、幅広い周波数帯域の触覚信号を体験できる技術。実際に体感する側が指先で触れる操作や握手などの触覚情報を手首に装着した「体感記録デバイス」で計測し、情報を連携する「体感再生デバイス」の装着者に同じ触覚情報を伝えることができるというものだ。

「双方向リモート触覚伝達システム」の仕組み

画像提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

このシステムには、産総研「極薄MEMS素子によるハプティックデバイス」、東北大学「体感振動の強調・変調技術(ISM)」、筑波大学「オンラインコミュニケーションにおける触覚情報の伝達システム」、株式会社Adansons「独自AIによるデータ抽出」という4つの技術が使われている。

産総研の「極薄MEMS素子によるハプティックデバイス」は、振動させるだけでなく計測をすることができるデバイス。厚さ10マイクロメートルと薄くて軽い「極薄MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)素子」(マイクロメートル単位の微細な電子機械システムのこと)に、振動センサーと振動発生素子という2つの働きを担わせているため、素子サイズを変えることなく双方向の触覚共有を可能とする。

「リストバンド型」「ネイル型」「指輪型」「ペン型」など、使用者のニーズや用途に合わせたさまざまな形態の小型デバイスが作製可能で、リストバンド型であれば手指が拘束されないため、「スマートフォンを持ちながら触覚による演出を楽しむ」などのシーンで活用できるようになる。

ハプティックデバイスの活用例。指輪型、ネイル型(左)、ペン型(右)

画像提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

東北大学の「体感振動の強調・変調技術(ISM)」は、接触振動や音響振動などの高周波信号に対し、触感を保ちながらデバイスで再生しやすい低周波の信号に変換する技術。これにより、小型の振動子でもより広帯域な体感振動が再現でき、「ユーザーが感じやすい振動体験」を創出可能となる。

リストバンド型デバイスによる「切削加工」の触覚共有イメージ

画像提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

これまで、産総研のセンシングシステム研究センターは、オムロン株式会社エレクトロニック&メカニカルコンポーネンツビジネスカンパニーと共同で、極薄MEMSを実装した世界最薄・最軽量のハプティック用フィルムを開発してきた。今回の発表では、そのハプティックフィルムを搭載したデバイスに各種の信号処理技術を適用することで、振動によるリアルな体感・体験の共有を実現している。

今回の研究により、産総研の「極薄MEMS素子によるハプティックデバイス」、東北大学の「信号強調・変換技術」、筑波大学の「非言語的行動・反応のデフォルメ生成技術」、株式会社Adansonsの「参照系AI」を組み合わせることで、人間が感じることのできる全ての周波数帯域の振動が表現可能であり、伝えたい振動を強調できる触覚共有システムが誕生した。

今後、産総研などは同技術が多分野で活用されるよう、技術面だけではなくコンテンツ創出にも取り組む予定だ。体感振動はエンターテインメント分野のみならず、非言語的な技術継承がなされてきたハンドメードによる作業現場での導入、スポーツ中継などでプレーヤーの心理状態を観戦者に伝える新規コンテンツなど、振動による「心理」「技術」「体感」の3方向を軸に広がる可能性がある。この先、あらゆるシーンで振動の価値が見直されるかもしれない。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. トピックス
  3. “振動”をよりリアルに体感!産総研らが触覚再現技術「双方向リモート触覚伝達システム」を開発