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筑波大が微量の汗を正確に連続測定できるウエアラブルパッチを開発

先進的なウエアラブルデバイスの誕生が個別化医療の進展に貢献する

ウエアラブルデバイスの進歩によって、脈拍、心音、体温などさまざまなデータから人間の健康状態を常に計測し、モニタリングすることが可能になってきた。その一つとして着目されているのが「汗」だ。そうした中、筑波大学 数理物質系 辻村清也教授の研究チームが、活動時のみならず安静時の微量な発汗も連続して測定できる先進的ウエアラブルデバイスを開発したことを発表した。

微量な汗を抽出するウエアラブルパッチが開発された理由

皮膚からの水分の喪失には、「活動性発汗」と「経表皮水分喪失」の2種類がある。近年、汗の捕捉、収集、測定技術が進歩した結果、汗に関するさまざまな計測技術が開発されている。

しかし、これらの技術は中強度~高強度のトレーニング中のモニタリングに使用されることが多く、複雑で大型な実験装置を必要とする。ウエアラブル発汗計測デバイスも開発されているが、その多くは運動や高温、化学的刺激などによる大量の活動性発汗を計測することに重点を置いており、いずれもが活動性発汗を対象としたものだった。

経表皮水分喪失も活動性発汗と同様に重要な生理的情報を提供する。ところが、そのモニタリングはやはり大掛かりな機器が必要で、計測に時間がかかっていた。放出される汗がごく微量で、その収集に時間がかかることなどが理由であり、そもそも従来の汗モニタリング用のウエアラブルパッチでは、サンプリング中に汗が蒸発したり、汗を装置に取り込むことが難しかったりする課題があり、日常生活の中で脱水状態を連続的にモニタリングすることは困難だった。

そうした中、筑波大学 数理物質系 辻村清也教授の研究チームが2024年6月13日、活動時のみならず安静時の微量な発汗も正確に連続モニタリング可能な先進的ウエアラブルデバイスを開発したことを発表した。

微量な汗を測定する意味

人にとって体内の水分量の調節は、生命活動を維持する上で極めて重要だ。発汗は心身の健康状態とも密接に関連しているが、現在のウエアラブル技術では、日常生活において比較的多量の汗しか連続してモニタリングできない。

この研究では、安静時でも生じている体表面からのごく微量な水の蒸散(不感蒸泄性発汗)も正確にモニタリングできる、肌に張り付けるタイプの薄くて軽い、厚さ1mm、重さ1gのウエアラブルパッチを開発した。

(a)積層型ウエアラブルパッチの分解図と、(b)皮膚表面に張り付けた状態

パッチ内の流路には、植物の給水メカニズムを模倣した超親水性ポリマー製スポンジが充填されており、微量の汗(水蒸気)を迅速かつ確実に捕捉できる。また、流路に入った汗を食用色素で着色し、発汗を「見える化」することで、発汗量と発汗速度(脱水状態)を視覚的に確認できるようにした。さらに、パッチには汗の水素イオン濃度(pH)やナトリウムイオン、カリウムイオン、グルコースなどの化学成分を連続的に検出するセンサーが組み込まれており、これらの濃度変化をリアルタイムで取得可能だ。

研究チームは、このパッチを頭部など体のさまざまな部位に張り付けて日常生活を送る実験を行い、微量の発汗を計測した結果、パッチの有効性と信頼性を確認した。

発汗の見える化が人間の生活の質を向上させる

今回の研究は、脱水管理、緊張状態やストレス状態の観察、疾患診断、心身の健康管理、スポーツパフォーマンスの最適化など、幅広い分野への応用が期待されている。パッチを個人個人が装着して活用していけば、特に個別化医療の進展に貢献すると考えられる。

またこの研究で開発した発汗センサーは、従来の液体の汗だけでなく、皮膚上ですぐに蒸散する不感蒸泄による発汗を素早く収集し、発汗量と速度をモニターできる。これにより、脱水状況の検知だけでなく、安静時の発汗と代謝、ストレス、さまざまな疾患状態との関連を調べるために活用可能だ。

現代社会では、緊張やストレス、興奮などメンタル状態を連続的に可視化するニーズが高まっている。この新しい計測システムの導入により、これまで見えなかった関連性が明らかになり、人間の生活がより豊かで便利になる可能性がある。

人間の発汗量を被験者のさまざまな部位にパッチを張り付けて測定した様子

さらに、この研究で開発されたウエアラブルデバイスは、デバイス内の流路やスポンジ構造を微調整することで、異なる水分量やモニタリング期間に対応可能。これは、人間だけでなく動物にも、そして汗以外の体液にも応用ができ、例えば、植物に適用して葉からの蒸散を可視化すれば、水やりのタイミングなどを最適化し、エコ農業やエコ社会の概念に貢献する潜在的な可能性も秘めている。

この研究で開発された発汗センサーは、医学的、心理的な応用から環境保全まで幅広い分野での活用が期待される。我々の生活の質を向上させる新たなツールになるだろう。

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