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発電するゲル誕生! NIMSらが「ゲル-エレクトレット」の創成に成功

軽量で柔軟な運動センサとしてウエアラブルヘルスケアへの応用に期待

ウエアラブルデバイスの進化によって、近年、ヘルスケアやロボティクスなどのソフトエレクトロニクス分野において、柔軟で軽量、さらには自己発電できる材料への期待が高まっている。そうした中、NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)、北海道大学、明治薬科大学から成る研究チームが、多くの静電荷を内部に安定的に保持できるゲル材料「ゲル-エレクトレット」を開発した。

発電できるゲル材料誕生の背景

医療技術や電子材料技術の発展に伴い、ヘルスケアやロボティクスなどのソフトエレクトロニクスに適用できる柔軟かつ軽量なソフト材料の開発が近年重要視されている。そのような機能性材料として、これまで機能性π共役色素部位を有するゲル化剤を用いて、水や有機溶媒をゲル化した「機能性ゲル」の研究が進められてきた。

しかし、このような機能性ゲルは、水や有機溶媒の揮発性のために大気中で長期間安定して利用できないことや、ゲル化剤の添加量は少量なため機能性色素部位の含有量が制限されることから実用化がほとんど進んでいなかった。

一方、NIMSはこれまでに、光・電子機能を有するπ共役色素部位と、電気絶縁性を有し柔軟な分岐炭化水素(アルキル)鎖を組み合わせた、難揮発性の常温液体「アルキル-π液体」の開発に取り組んできた。アルキル-π液体はさまざまな変形に追従できる流動性、優れた成形加工性を示しながら、超高濃度に機能性色素部位を含有できることから、次世代のソフトエレクトロニクス材料として注目されている。

アルキル-π液体は、液状のエレクトレット(電界のない状態でも、素材の表面近傍に電荷を半永久的に保持できる荷電体材料)として利用できることが見いだされており、柔軟な電極に組み込んだ素子では、低周波の振動を電圧出力としてセンシングできる。

しかし、アルキル-π液体は流体のため、液漏れや染み出しなど電極素子作製時の固定化などに課題があり、用途に応じてアルキル-π液体の弾性を簡便に調整できる手法が求められていた。また、より優れたセンサ素子を作製するために、帯電力をさらに向上させることも課題だった。

そうした背景から、NIMSナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)フロンティア分子グループ、北海道大学、明治薬科大学から成る研究チームは、アルキル-π液体をゲル化することで、「弾性が高い」「難揮発性」「大気中で長期間安定に取り扱える」「超高濃度に機能性色素部位を含有する」「帯電力に優れる」というこれまでにない新規ゲル材料が創成できると考え、多くの静電荷を内部に安定的に保持できるゲル材料「ゲル-エレクトレット」を開発した。

ゲル-エレクトレットの価値

今回研究チームは、液漏れや染み出しなどのアルキル–π液体の課題解決において、低分子ゲル化剤によってアルキル-π液体をゲル化し、貯蔵弾性率を制御することを考えた。

この前例のないアルキル-πゲルの基本的な物性を明らかにするため、π共役色素の一種であるナフタレン分子に分岐アルキル鎖を導入した液体分子(アルキル-ナフタレン液体)について詳細な検討を行った。

アルキル-ナフタレン液体に微量(1重量%程度)の低分子ゲル化剤を加え、130℃に加熱して溶解させた後、室温に冷却することで、流動性を失ったゲルが得られた。母材となる液体と比べてゲルでは貯蔵弾性率が4000万倍増加。ゲル中にはナノメートルスケールの微小な繊維構造が形成されており、この網目状繊維構造の形成が貯蔵弾性率の大幅増加に起因していることが分かった。

(a)アルキル-ナフタレン液体と(b)低分子ゲル化剤の分子構造。(c)アルキル-ナフタレン液体とそのゲルの写真と貯蔵弾性率。(d)ゲル中に形成された繊維構造の電子顕微鏡像と低分子ゲル化剤が組織配列した状態の模式図

画像提供:NIMS

この手法は微量の低分子ゲル化剤をアルキル-π液体に混合する容易さに加えて、比較的粘度の低いアルキル-ナフタレン液体だけでなく、粘度の異なるさまざまなアルキル-π液体をゲル化することができる汎用性の高い弾性率の制御技術だ。

従来の機能性ゲルは、機能性色素部位を含有するゲル化剤を用いて、有機溶媒や水をゲル化させたものであり、有機溶媒や水の揮発のために大気中で長期間安定的に扱うことができない難点があった。また、ゲルとしての柔軟性を損なわないためには添加できる機能性ゲル化剤の量に制約があり、機能性色素部位の含有率は数重量%程度にとどまっていた。

一方、アルキル-π液体は常圧で195℃以上まで揮発せずに液体として安定に存在できる。また、アルキル-πゲルは大気中で10カ月以上にわたってゲル状態で保存できることが確認されている。さらに、母材であるアルキル-π液体自体が高濃度で機能性色素部位を含有し、同時に優れた柔軟性・変形性を有することから、ゲル化した後も柔らかさを損なうことなく、超高濃度に機能性色素部位を含有するこれまでにない機能性πゲルとなった。

こうしたアルキル-π液体の中で、π共役色素の一種であるピレンを分岐アルキル鎖によって液体化した分子「アルキル-ピレン液体」は、比較的大きなπ共役色素部位を有し、絶縁性の分岐アルキル鎖を多く有しており、静電荷の安定的な貯蔵において有利な液体だ。

研究チームはアルキル-ピレン液体をゲル化し、コロナ帯電処理によってゲル-エレクトレットを創成。さらに、柔軟な電極で挟んで封止することで振動センサ素子を作製した。

この素子に圧力、振動や歪みが加わると、電極間距離の変化に応じて電圧が生じることから、振動や歪みのセンシングに利用でき、エレクトレットの電荷保持量が大きいほど、大きい出力電圧が生じる。ゲル化によって、電極素子作製の際の封止や固定化が容易になったことに加え、帯電量は液体より24%増加。また、ゲル-エレクトレットを組み込んだ柔軟な電極素子では、17 Hzの振動に対し出力600 mV(液体素子より83%増大)の振動センサ機能を示した。

(a)アルキル-ピレン液体の分子構造。(b)アルキル-ピレン液体の液体状態(左)とゲル化後(右)。(c)振動センサ素子。(d)振動センサ素子の動作メカニズム。(e)アルキル–ピレン液体と(f)そのゲルを基材として作製した振動センサ素子の17 Hz振動に対する出力電圧

画像提供:NIMS

ゲル-エレクトレットのこれから

このゲルを組み込んだ自由変形可能な電極は、人体の運動などで生じる低周波の振動を電圧シグナルとして出力するセンサ機能を示すことから、ウエアラブルヘルスケアなどへの応用が期待される。

今後研究チームは、帯電特性(帯電量、帯電寿命)とゲル強度をさらに高めて素子性能を向上させることで、微弱な振動やさまざまな歪み変形に追従可能なウエアラブルセンサとしての実用化を目指していく。

また、この研究では、一度エレクトレットとして使用したアルキル-πゲルを回収することで、振動センサ素子への再利用も可能なことが確認されており、サーキュラーエコノミーの観点でも有益な材料であることが実証された。

今回開発されたゲル材料は、超高濃度にπ共役色素部位を含有することから、高性能な光電子機能性材料として期待されているものだ。現在検討されているヘルスケアなどの分野以外にも、今後の研究開発によってさまざまなエレクトロニクスへの広がりに可能性がある。新たな材料の誕生が、人類の生活をさらに進化させるかもしれない。

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