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千葉大・理研・広島大が有機半導体の効率活用のカギとなるエネルギーの本質を解明!

精密測定の成功で、有機半導体を用いた光エレクトロニクス発展へ大きな一歩

千葉大学大学院工学研究院、理化学研究所 創発物性科学研究センター(以下、CEMS)、広島大学大学院先進理工系科学研究科による共同研究チームは、有機半導体の励起子(れいきし)束縛エネルギーの精密測定に世界で初めて成功。励起子束縛エネルギーがバンドギャップ(電子の入ることのできない禁制帯のエネルギー幅で、半導体中の電子と正孔のペアを形成するために必要なエネルギーに相当する)の1/4に比例することを発見した。光エレクトロニクスの根幹に関わり、有機半導体の光電子物性を制御するカギとなる本研究について解説する。
(<C>メイン画像:tokinoun / PIXTA<ピクスタ>)

有機半導体活用のカギ「励起子束縛エネルギー」とは

プラスチックの一種である有機半導体は、シリコンなどの無機半導体に比べて薄く軽いフレキシブルなデバイスの製造が可能で、有機EL素子材料としてテレビやスマートフォンの高性能ディスプレイに用いられている。生体との相性も良く、バイオセンサーやヘルスケア分野への展開も期待される次世代半導体材料だ。

有機半導体には他にも無機半導体とは大きく異なる性質があり、これらを捉えることが有機半導体研究における大きなテーマで、その性質の一つが「励起子」だ。

励起子は半導体が光を吸収すると、正孔(電子の抜けた穴。正の電荷をもつ粒子として扱う/プラス電荷)と電子(マイナス電荷)が電荷同士を引き合わせる力で結び付き生成される準粒子だ。太陽電池は半導体が太陽光を吸収することで励起子を生成し、電子と正孔に分ける「解離」を行うことで発電する。この励起子を解離する際に必要なエネルギーを「励起子束縛エネルギー」と呼ぶ。

励起子束縛エネルギーを制御できれば励起子の効率的な解離、つまり効率的な発電やデバイスの動作を実現できる。しかし、有機半導体では励起子束縛エネルギーの精密な測定がこれまで行われず、光エレクトロニクス分野では励起子の性質の研究が求められていた。

この課題に、千葉大学大学院工学研究院の吉田弘幸教授、融合理工学府博士前期課程(当時)の杉江 藍氏、CEMSの中野恭兵研究員、但馬敬介チームリーダー、広島大学大学院先進理工系科学研究科の尾坂 格教授による研究グループが取り組んだ。

バンドギャップの値から励起子束縛エネルギーを決定

研究グループは、吉田教授が開発した「低エネルギー逆光電子分光法(LEIPS/Low Energy Inverse Photoelectron Spectroscopy)」を用いて、有機半導体の電子親和力(半導体の正孔と電子の輸送されるエネルギー準位)を高精度で測定することに成功。測定により、励起子束縛エネルギーを従来の5倍の精度で決定する方法を確立した。

この方法で有機太陽電池材料など有機半導体42種類の励起子束縛エネルギーを決定し、結果をまとめたところ、励起子束縛エネルギーがバンドギャップの4分の1に比例する結果が得られた。

半導体に光を照射すると正孔と電子が結び付いた励起子が生成される。励起子を解離し、正孔と電子に分けるのに必要なエネルギーが「励起子束縛エネルギー」である

資料提供:千葉大学 吉田弘幸教授

42種類の有機半導体の励起子束縛エネルギーとバンドギャップの関係

資料提供:千葉大学 吉田弘幸教授

バンドギャップから励起子束縛エネルギーが導き出せるという発見は、従来の学説からは予想できない結果であり、励起子束縛エネルギーの制御には、バンドギャップを変えるのが最も効果的であることが証明された。

また、この研究から有機太陽電池が高い発電効率を得るには励起子束縛エネルギーは0.2~0.6eVと小さい数値が望ましく、一方で有機EL材料では1.0eV以上と大きい値が電荷を結合して発光に有利と考えられる結果も得られた。

今回の研究は、これまで不明だった有機半導体の励起子の性質を明らかにする大きな一歩となった。

今後、励起子の性質について基礎・応用研究が発展し、有機半導体を用いた光エレクトロニクスの材料選択やデバイス設計に役立てられることが期待される。

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