2024.12.4
早稲田大学が海水とCO2のみで作製できる世界初のコンクリートを新開発
実用性の高いカーボンリサイクル製品として商用化へ前進
早稲田大学理工学術院の中垣隆雄教授と秋山充良教授の研究グループは、CO2を海水中のマグネシウムを用いて炭酸塩として固定したカーボンリサイクル材料「Waseda Magnesium-based Carbon Sequestration materials」(以下、WMaCS)の応用製品として新たにコンクリートを開発。既存のコンクリートと同等の凝結時間、建設材料として十分な圧縮強度を実現しながら、1m3あたり約20~110kgのCO2を長期間固定化できる、画期的なコンクリートの詳細を解説する。
(<C>メーン画像:Jasmin Wang / PIXTA<ピクスタ>)
海水から材料を採取、開発したカーボンリサイクル材料
CO2を分離回収し、資源として有効活用するカーボンリサイクル技術は、2021年策定の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、カーボンニュートラル社会実現のためのキーテクノロジーとして位置付けられ、中でもCO2の炭酸塩などへの固定化は、先行して実現可能な技術として期待されている。
CO2固定化材料には、酸化カルシウム(CaO)または酸化マグネシウム(MgO)が適している。カルシウムもマグネシウムも海水中にイオンとして多く含まれ、研究グループはマグネシウムを塩化マグネシウム水和物(MgCl2・2H2O)として回収、熱分解して得られるMgOを原料としたカーボンリサイクル材料「WMaCS(R)」(ダブルマックス)を開発した。WMaCSを用いて作成されたコンクリートは、1m3あたり約20~110kgのCO2を固定化することができる。
-
WMaCSの製造プロセスフロー
資料提供:早稲田大学
従来のコンクリートに用いられるポルトランドセメントの原料となるクリンカー(鉱物や無機物質が焼き固まったもの)は、CO2が固定化された石灰(CaCO3)を熱分解して得られたCaOが主成分となっている。このため加熱用の燃料をカーボンニュートラル化しても、石灰由来のCO2の発生は避けられない。
一方、ポルトランドセメントにWMaCSを混ぜただけのコンクリートはCO2を固定化できる反面、施工性が悪化しひび割れなどが生じ強度も不足するなど、実用化への課題を抱えていた。
配合比を調整し、施工性と耐久性の課題をクリア
今回の研究は、古くから使用されている非水硬性(環境中のCO2と反応して化学物質に対する最適な耐性を発揮する)のソレルセメントの技術から着想を得て、材料と配合比を変えたコンクリートを作製し、性能評価を実施した。
-
WMaCSの配合比を調整した材齢7日のコンクリート円柱供試体の圧縮強度を計測
資料提供:早稲田大学
その結果、混ぜ込むWMaCSの結晶をMgOの生成条件と炭酸塩化の条件によって制御し、ソレルセメントによって作製した粗骨材・細骨材を独自の配合比で使用することで、コンクリートに求められる1~2時間程度の凝結時間の確保と圧縮強度の両立に成功した。
この結果を受けて研究グループは露天の耐候試験を実施し、特殊添加剤が材料劣化の抑制に及ぼす影響などの検証を進めている。現段階で、製造から半年を経過したコンクリートに目立った劣化は確認されていない。
また研究グループは、水処理装置や船舶用機器などの製造・販売を行う株式会社ササクラ(大阪市西淀川区)と広島県・大崎上島の実証研究エリアにおいて20トン/日の海水を用いたカーボンリサイクル技術のパイロットスケールの試験を開始。2024年度中に同エリアにて供給される石炭ガス化複合発電由来のCO2を用い同様のコンクリートを作製する予定だ。なお、WMaCSを用いたコンクリートは消波ブロックやインターロッキングブロックなど、プレキャストコンクリート製品への展開を目指している。
-
WMaCSを使用し、多様なプレキャストコンクリート製品を作製
画像提供:早稲田大学
石灰を一切用いず、海水とCO2のみで作製できる世界初のコンクリートの実現は、コンクリートの作製過程で生じるCO2の削減を大きく前進させる成果と言える。
研究グループは、今後のさらなる実用化を通して、カーボンリサイクル技術の早期社会実装を目指す。
-
この記事が気に入ったら
いいね!しよう -
Twitterでフォローしよう
Follow @emira_edit
text:サンクレイオ翼