
2025.2.28
ADEKAと群馬大学が世界最軽量の「リチウム-硫黄二次電池」を開発
次世代二次電池の可能性を、大学在籍研究者×卒業生の産学連携で切り開く
群馬大学大学院理工学府と株式会社ADEKAは共同で、硫黄変性ポリアクリロニトリル(SPAN)ファイバーを用いた「リチウム-硫黄二次電池(Li-SPAN電池)」の開発に成功。産学共同研究により実現した、セル重量エネルギー密度750Wh/kg超の世界最軽量の次世代二次電池の開発について解説する。
次世代の超軽量二次電池の社会実装へ産学が連携
充電と放電を繰り返して使用できる二次電池(蓄電池、充電池、バッテリー)。
内部の化学反応により充電・放電し、スマートフォンやノートパソコンなどの小型モバイル機器、電気自動車(EV)やドローンなどの移動体、および電力貯蔵システムなどに用いられる次世代二次電池の需要は増え続け、軽量・小型化の研究開発が世界的に進められている。
今回の発表も、新たなテクノロジーを産学連携で融合。軽量の二次電池の研究・開発の一環によるものだ。
-
群馬大学工学部同窓記念会館にて。ADEKA 撹上健二室長(左)と群馬大学 撹上将規准教授(右)
画像提供:群馬大学・ADEKA
マテリアルメーカーであるADEKAは、環境材料本部・電池材料開発研究所の撹上(かきあげ)健二室長の下、次世代二次電池の社会実装と効率的なエネルギー活用に向けた研究開発に注力。次世代二次電池材料であるSPAN の合成やSPANを用いた超軽量二次電池の実証を行っている。
なお、撹上室長自身は、2023年「第36回 独創性を拓く 先端技術大賞」社会人部門の最優秀賞「経済産業大臣賞」を受賞。産業技術総合研究所と共に硫黄系電池事業創出研究会の設立も行うなど、硫黄系二次電池開発の第一人者として活躍している。
一方、撹上室長の出身校でもある群馬大学では、高分子材料を専門とする大学院理工学府分子科学部門の撹上将規(かきあげ まさき)准教授が、織都・桐生から新たな高強度・機能性繊維材料の開発に取り組んでいる。
そこで、両者の技術を融合し、SPAN“ファイバー”を二次電池のセル設計に導入することで高密度かつ超軽量の二次電池を開発できないか、という着想から、共同研究にて多孔質SPANファイバーを開発。Li–SPAN電池のセル試作が行われた。
-
リチウムイオン二次電池(LIB)、リチウム金属負極二次電池(LMB)、リチウム-硫黄二次電池(Li-S)のセル重量エネルギー密度マップ。本研究のLi-SPAN電池(図中のOur Works)は、世界最高値となる750Wh/kgを超えるセル重量エネルギー密度を実証
電池試作と評価で社会実装の実現性も実証
試作されたLi-SPAN電池はセル重量エネルギー密度において750Wh/kg超を計測。この値は市販のリチウムイオン二次電池や開発中の次世代・革新二次電池のエネルギー密度を大幅に上回り、学術誌「“Communications Engineering” (Nature Portfolio)」に研究成果が報告された。
-
多孔質SPANファイバーの走査電子顕微鏡(SEM)写真とエネルギー分散型X線分光法 (EDX)によるファイバー断面の硫黄元素マッピング、および多孔質SPANファイバーを適用したSPAN正極の充放電サイクル特性
資料提供:群馬大学・ADEKA
-
試作されたLi-SPAN電池(群馬大学工学部同窓記念会館にて撮影)。日常的に用いられるカード類よりも一回り小さい。非常に軽く、ドローンなどの飛行体やモバイル機器などへの実装が大いに期待できる
画像提供:群馬大学・ADEKA
両者は試作されたLi-SPAN電池のドローンフライト実証、セル安全性試験も実施し、社会実装への可能性を提示。
2025年2月現在、世界最軽量(両者調べ)となる重量エネルギー密度810Wh/kgを達成するなど、今後の共同研究により画期的な次世代二次電池の創出と普及を推進する。
群馬大学の卒業生と在籍研究者の共同研究が、世界のエネルギーデバイスに本格的な革新を起こす日も、そう遠くはなさそうだ。
-
この記事が気に入ったら
いいね!しよう -
Twitterでフォローしよう
Follow @emira_edit
text : サンクレイオ翼