
2025.10.29
世界初! 商船三井が発電船から電力供給する洋上データセンターを英国発電船事業会社と共同開発
生成AI需要に対応するデジタルインフラ提供へ始動
株式会社 商船三井(以下、商船三井)は、世界最大級の発電船事業などを手掛ける英国Karadeniz(カラデニス)Holding 傘下のKinetics technologies (キネティックス・テクノロジーズ)holdings limited (以下、Kinetics)と、発電船から電力供給する「洋上データセンター」の共同開発に向けた基本合意書を締結した。発電船からの電力供給で洋上データセンターを運用する世界初の事業モデルの構築を目指す本プロジェクトについて解説する。
データセンターを取り巻く世界事情
昨今、生成AIの利活用が急速に広がり、データセンターの需要が世界的に急増。その一方で、データセンターを設置・供給する企業は都市部での電力不足と土地不足、加えてサーバー冷却に利用する水不足が顕在化している。
例えば、50~100メガワット級のデータセンターでは1万~3万世帯分の電力が必要になるなど、AI需要の拡大が電力不足を深刻化、また、AIサーバーの冷却には大量の水が必要となるため、地域の飲料水と競合してしまう問題も発生している。
実際、アメリカでは電力会社側の供給が追い付かず、データセンターの運用開始までに5年以上を要するケースも生じている。グローバルなデータセンターの市場規模は、2021年時点で552億米ドルと推定され、2030年には1241億米ドルまで拡大すると見込まれているのだ。
こうした資源不足を解消し、商船三井とKineticsは洋上データセンターと発電船の統合事業に共同で取り組み、生成AIの普及とともに社会に不可欠な新たなデジタルインフラの迅速な提供を目指す。

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商船三井は、日本各地の主要港を結ぶフェリー「さんふらわあ」などを定期運航している。画像は2023年1月就航の日本初のLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」
画像提供:株式会社 商船三井

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Kineticsは、トルコを拠点とする多角的エネルギー企業Karadeniz Holdingが、浮体式LNG資産、蓄電池システム、データセンターなどエネルギーインフラの新分野へのグループ展開を目的に設立
画像提供:株式会社 商船三井
プロジェクトでは2027年の運用開始に向け、商船三井が同社の中古船を再利用し洋上データセンターを建設、Kineticsの発電船から電力を供給し、急増するデータ処理ニーズに対応する事業モデルの確立を目指すに至った。
洋上データセンターを建設するメリット
本プロジェクトではまず、洋上データセンターと発電船の統合コンセプト設計の評価など、技術的検証を行っていく予定だ。
洋上データセンターには、地上データセンターと比較しいくつかのメリットが挙げられる。
まず、初期投資および運用コストが軽減できる点だ。建設コストは、中古船に既存の空調、取水、発電機などのシステムを活用することで、初期投資の削減が見込まれる。また、海水を活用した水冷システムはエネルギー効率がよく、サーバーの冷却にかかる電力消費を抑制し、運用コストを削減する。
ちなみに、床面積約5万4000m2の自動車運搬船は延べ床面積ベースで日本最大級の陸上データセンターに匹敵し、ローコストで広範なスペースのデータセンターを確保できるのも大きなメリットだ。既存船体を活用することで、原材料の採掘・加工から生じる環境負荷を低減させる。
次に、発電船と組み合わせることで地域電力から独立運用できる点だ。電力逼迫(ひっぱく)地域でも電力会社が発電・送電設備を備えるのを待つことなく、独自の電力源から即時にデータセンターの運用を開始することが可能だ。
地上に比べて建設期間を大幅短縮できるメリットもある。これは都市圏周辺での大規模な土地の確保、および土地の取得コストが不要となるためである。

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洋上データセンターの改造工事は1年程度で、従来の陸上データセンター開発と比較して最大3年、開発期間を短縮できる見込みであり、AI需要の増加にも対応できる ※画像はイメージ
画像提供:株式会社 商船三井
さらに、洋上データセンターは施設自体が移設できる。中古船をベースとする浮体式のため、需要の変化に応じて稼働場所の変更が可能。条件により通常の船のように洋上を航海しながらの運用も行える。
商船三井では、同社グループのアセットと船周りのノウハウを生かしつつ、環境負荷を抑えながら迅速にデジタルインフラを構築できるプロジェクトの実現を、強力なパートナー企業と共に目指す。
また、同社グループでは今後も海運業を中心にさまざまな社会インフラ事業を展開。環境保全をはじめとした変化する社会のニーズに技術とサービスの進化で挑む。

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text:サンクレイオ翼





