
2026.1.22
大学と企業が育む、カーボンニュートラル時代の人材とサステナブルな未来
法政大学 総長 ダイアナ・コー × 東京電力エナジーパートナー株式会社 代表取締役社長 長﨑桃子
カーボンニュートラルの推進に取り組む教育機関の中で、法政大学は「カーボンニュートラル推進リーダー育成講座」の開設や電力使用量の“見える化”を実施している。これらの施策を積極的にサポートしているのが東京電力エナジーパートナー株式会社(以下、東京電力EP)だ。こうしたエネルギー視点による大学×企業の連携について、法政大学のダイアナ・コー総長と東京電力EPの長﨑桃子社長が互いの思いを語り合った。
“見える化”から始まる大学のカーボンニュートラル
2024年4月、法政大学は地球規模の環境・社会問題に取り組む人材の育成やそのためのリテラシー向上を図る一環として、カーボンニュートラル推進リーダー育成講座を授業科目として開設した。講座では、同学の教員の他、学外の企業・自治体による講義も行われ、2025年度の講義では東京電力EPも講師としてサポートした。
今回は、キャンパスのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みや、カーボンニュートラル社会をリードする人材育成で連携する両者のトップが語り合う初めての機会となった。
コー:東京電力EPさんには、リニューアルZEB※1である東京電力東尾久ビル本館を見学する貴重な機会をいただきました。この講座はフィールドワークの他にも、ディスカッションやグループ発表を行い、学生がカーボンニュートラルに関する専門知識獲得とともに、ファシリテーションやコミュニケーションスキルを磨くことができる講座です。今回、東京電力EPさんの先進的な取り組みを学生に知ってもらうことができました。
※1…ZEB(Net Zero Energy Building):快適な室内環境を実現しながら建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物

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2022年、リニューアルZEBとなった東京電力東尾久ビル本館。公益社団法人空気調和・衛生工学会の令和5年度第12回特別賞リニューアル賞などを受賞
画像提供:東京電力ホールディングス株式会社
長﨑:次世代を担う学生の皆さんがエネルギーに関心を持ち、地球にいいことをしようと考える意識が育っていることは、弊社にとっても大変ありがたいことです。今後も一緒に取り組んでいければと思います。最近の学生の皆さんのエネルギーへの関心や環境問題への意識はどうですか?

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ダイバーシティの理解と浸透を通じて、社会に貢献する学生育成に注力するコー氏

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エネルギーの安定供給と環境負荷低減の両立とともに、お客さまのカーボンニュートラル実現を推進する長﨑氏
コー:本学では環境問題に早くから取り組んでいることもあり、カーボンニュートラルの実現に高い意識を持つ学生もいますが、今はまだ学内全体へ十分に意識が浸透しているとは言えません。そのため、キャンパスのエネルギー使用量の“見える化”を行っています。具体的には大学構内の電力使用量をグラフで示し、本学全体のCO2排出量を可視化しています。こうした取り組みを通じて、学生・教職員一人ひとりが自らのエネルギー使用に関心を持ち、カーボンニュートラルへの理解と行動意識の変容を図っています。

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法政大学全体の電力使用量を示したグラフ。1日単位で市ケ谷、多摩、小金井の各キャンパス、付属の中学高校、第二中・高、国際高校を含む6カ所の使用量が“見える化”されていて、外部からも確認が可能
資料提供:法政大学
長﨑:“見える化”は人に例えると健康診断のようなもので、現状把握においてとても重要です。カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの一丁目一番地であり、そこから施策を検討していく流れは王道のステップだと思います。この他、弊社から実質再エネ電気を購入していただいていますよね。実質再エネ電気は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)により得られた電力の環境価値を証書化し、化石電源を含む全電源の電気に組み合わせることで、実質的に再エネ由来として取り扱われる電気です。キャンパスの使用エネルギーが実質再エネであることは、学生の皆さんにも周知されているのでしょうか?
コー:現状は十分に周知できていませんが、カーボンニュートラルへの意識向上のための環境づくりが大事だと思って取り組んでいます。私たちは、気付きを与えられる環境づくりと人材育成をセットで進めることが重要だと考えており、その拠点として「カーボンニュートラル推進センター」を開設しました。開設後には学生からペットボトルの使用量の削減を目的に「学内にウォーターサーバーを設置してほしい」という提案があるなど、学生の自発的な活動がみられました。同様の動きとして、ダイバーシティを重視した大学運営を目的に「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンセンター(DEI※2センター)」を設置しています。DEIについても学生目線のさまざまな提案があり、今後もこうした学生の提案が増えることを期待しています。
※2…DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン):多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包摂性(Inclusion)の3つの概念を組み合わせたもので、「性別、年齢、国籍、価値観などの違いを認め合い、一人ひとりが公平な機会とサポートを受け、その能力を最大限に発揮できる環境をつくること」を目指す考え方。法政大学では、多様な背景を持つ構成員の修学、服務上の妨げを取り除き、インクルーシブな環境を整備することで、安心して創造的に学び、働き、それぞれの個性を伸ばせる場になるよう取り組んでいる
学生たちに広がるESG※3の意識
長﨑:近年、世界では一部で環境意識の減退傾向や鈍化も見られますが、日本は地球環境を守ろうという姿勢を崩していません。弊社もアクセルを緩めるつもりはありませんし、お客さまと接していても環境意識の減退は感じられません。
コー:そうした中で、東京電力EPさんがカーボンニュートラルを進めていく上で課題と感じられていることは、どのようなことでしょう。
長﨑:例えば、日本は国土が狭いため再エネの選択肢が限定されてしまいます。そのため、太陽光発電なら設置場所を選ばないペロブスカイト太陽電池※4などの技術開発が必須ですし、洋上風力や原子力もそれぞれに長所と短所があります。さまざまな電源を試し最適解を目指して取り組んでいる中で、重要だと考えているのが「調整力」です。お客さまの電力需要のロードカーブの一番高いところに合わせて発電設備を造ると大変なコスト増になりますので、ピーク時に使える調整力を確保することが重要だと考えています。調整力の確保は、お客さまとともに行うことも重要です。
※3…ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance/企業統治)の3要素を合わせた言葉。企業が持続可能で豊かな社会の実現を目指し、自らも長期的に成長する上で必要とされる、経営における3つの観点
※4…ペロブスカイト太陽電池:ペロブスカイト結晶構造の材料を発電層に用いた有機物半導体系の太陽電池の総称。2009年に日本の研究者が初めて作製し、軽量で柔軟性に優れた特長から次世代型太陽電池として普及が期待される

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「調整力確保のため、電力需要が少なく電気が余っているときに蓄電池やEV車に電気を貯めていただき、電力需要が多く電気が足りないときに貯めた電気を活用いただくなど、お客さまとともに電力需給バランスの最適化に取り組んでいくことを考えています」(長﨑氏)
コー:研究分野で協力できることもあると思います。例えば、CO2の吸着、ペロブスカイト太陽電池の効率向上など、学内の研究と連携できる機会があれば、ぜひお願いしたいです。
長﨑:それは面白そうですね。他にも、カーボンニュートラルが進むことでどんな経済効果が見込めるかなど、行動経済学、社会学など文系視点からの課題解決も考えられると思いました。法政大学さんではカーボンニュートラル推進やさまざまな取り組みを他大学とともに行われているようですね。
コー:いろいろな連携がありますが、特に関西大学と明治大学との三大学連携が盛んです。この三大学は「日本近代法の父」と呼ばれるボアソナード博士の薫陶を受けた若い法曹家たちが中心となり、1880年代に法律学校として設立されたという共通の背景を持っています。そうした歴史的つながりを基盤として、明治大学と関西大学、そして本学は連携協定を締結しています。現在では、三大学の学生がSDGsなどをテーマに、1年を通じてさまざまな共同活動に取り組んでいます。また、年に1回、シンポジウムも開催されています。

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「2025年は大阪・関西万博が開催され、万博会場で学びと発信の機会に恵まれました。私も足を運ばせていただき、実際の万博にも訪れることができました」(コー氏)
長﨑:最近の学生の皆さんは意識も高いですよね。採用面接でも「社会に貢献したい」といった言葉はもちろん、「環境負荷の少ない服を選びたい」など、私たちの学生時代には考えられなかった言葉を聞くことがあります。ですから、E(Environment/環境)、S(Social/社会)、G(Governance/ガバナンス)のEだけでなく、SやGについても意識が高まっているように感じています。環境負荷を減らしつつ、日本の産業発展に尽くすことが電力事業の根幹ですので、社会貢献に対する意識の高い学生さんにとって、弊社は、就職したときに自己矛盾が少ないと感じられる企業だと思います。私も就職活動中の学生さんに「御社の魅力は?」と尋ねられた際は、「圧倒的な社会善、自分の中の志との矛盾が少ないこと」と答えています。
発信することで、地球環境や多様性への理解を深める
コー:学生の意識の高まりは、私がこれまで関わってきたDEIの分野でも見られます。
長﨑:弊社でもDEIに取り組んでおり、女性社員の構成比が約30%、女性管理職は東京電力グループの目標値である10%を超える11.1%となっています。
コー:それは素晴らしいです。法政大学は女性職員の構成比が44%と多いのですが、教員や女性管理職は目標に達していません。ただし、男性の働き方に変化が見られ、育休を取得する男性職員は80%弱(2024年度)となっています。
長﨑:弊社は出産休暇を取得する男性社員が増えていて、取得率は100%に達しています。育休の取得率も年々上昇していて、「男性の育休は当たり前」という認識が広まり、取得しやすい環境ができていると感じます。
コー:DEIに取り組む上で、そうした環境は大事です。法政大学では、女性職員のメンター制度や女性教員のネットワーキングなどに取り組んでおり、私自身も関わりながら、教職員向けにアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見や思い込み)やDEIをテーマとした研修も行っています。
長﨑:そういったアンコンシャス・バイアスやガラスの天井(企業・組織で昇進に値する人材が性別や人種を理由に不当に評価されること)などの価値観について、学生の皆さんや世の中へどのように発信されていますか?
コー:私が常務理事としてダイバーシティ推進を担当した際は、大学のWEBサイトにある「DIVERSITY COLUMN」でさまざまな問題を取り上げて発信してきました。現在は「総長コラム」があり、自分の考えを発信する場として重要視しています。ただし、最近の若者にはやはりSNSですよね。ですからInstagramやXなども活用しています。
■総長コラム
https://www.hosei.ac.jp/hosei/daigakugaiyo/socho/column/
■総長の出会いのメモ
https://www.hosei.ac.jp/hosei/daigakugaiyo/socho/memo/
■法政大学公式Instagram
https://www.instagram.com/hosei_university/
■法政大学公式X
https://x.com/hosei_pr
長﨑:Instagramでは学生さんからのリアクションもあるのですか?
コー:学生向けに発信している情報も多いので、見てもらっていると思います。そうした発信が功を奏したのか、最近キャンパスを歩いていると学生から声を掛けられたり、あいさつしてもらったりする機会が増えました。また、SNSをフォローしていると話してくれる学生もいて、とても嬉しく感じています。
長﨑:そこまでフレンドリーなコミュニケーションが取れるのですね。メディア活用による情報発信は弊社でも行っており、YouTubeに動画を掲載しています。最近では、エネルギーの安定供給や環境負荷を減らすための取り組みを知っていただくために「EP社長直行便」というタイトルで情報発信しています。
■EP社長直行便
https://www.youtube.com/watch?v=9z5BraSreXk&list=PLqDUF2hCxwuCtFd-rtsAiMbH8Ka6nMZtE
コー:長﨑さんの話を聞いていると明るい気持ちになりますし、未来に希望を持っていらっしゃる方だなと感じました。東京電力EPさんとの連携にはいろいろな可能性を感じていますので、これからもよろしくお願いします。
長﨑:法政大学さんのカーボンニュートラルやDEI、社会貢献に一生懸命に取り組んでいらっしゃる姿を知って、とても素晴らしいと感じました。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。

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text:木村敬(ウィット) edit:大場徹(サンクレイオ翼) photo:渡邊明音









