2017.2.17
2大企業が推進する燃料電池のネクストステージ
ホンダとGMが水素燃料電池システム量産のための合弁会社設立
ガソリンやディーゼルに替わるものは何か。ハイブリッド、電気、燃料電池と試行錯誤が続けられる中、メーカーはもちろん、国家の枠も超えた試みがスタートしている。ネクストステージに進むために、業界をけん引してきた2大企業が手を組む。その背景にある強みとは?
ヒートアップする次世代自動車の開発競争
ガソリンやディーゼルといった化石燃料に替わる、モータリゼーションのためのエネルギーの研究・開発が自動車メーカーを中心に進められて久しい。その中で現在主流となっているのは、エンジンと電気モーターを搭載するハイブリッド車。トヨタの「プリウス」を筆頭に、ホンダ、日産、スズキといった多くの国内メーカーも追随し、一つの潮流となっている。
その他には日産「リーフ」やアメリカ企業テスラのような100%電気自動車、トヨタ「MIRAI」やホンダ「クラリティ フューエル・セル」といった燃料電池電気自動車も登場。自動車メーカーは、新たな動力源を持ったモータリゼーションを誕生させるための激しい競争をスタートさせている。
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2015年に開催された第44回東京モーターショーで、ホンダ初の燃料電池電気自動車「クラリティ フューエル・セル」の市販モデルを発表する、八郷隆弘本田技研工業代表取締役社長
日米のトップ企業の視野
そのような潮流の中、日米のトップ企業2社の新たな協業が、去る1月31日に発表された。その企業とはホンダとゼネラルモーターズ(GM )。自動車業界としては初めてとなる、水素燃料電池システムを量産するための合弁会社の設立だ。
実は両社の協業は今回が初めてではない。2013年7月にはすでに燃料電池電気自動車の普及と2020年ごろの実用化に向けての共同開発を行うことで、長期的な提携契約を結んでいた。次世代燃料電池システムと水素貯蔵技術の共同開発は進行中で、開発チームを統合し、燃料電池関連の知的財産を共有しながら、研究・開発に取り組んできている。
その過程で誕生したのが、2016年3月に日本国内での発売が始まった、ホンダ初の量産型燃料電池電気自動車「クラリティ フューエル・セル」だ。
二酸化炭素ゼロ、水だけを排出する究極のエコ性能と、1回の水素充填(じゅうてん)で約750kmという走行距離を誇る高効率化を実現。次世代モータリゼーションの一つのロールモデルとして注目を集めた。
この「クラリティ フューエル・セル」の例を出すまでもなく、すでにホンダとGMは、燃料電池分野で世界的なリーダー企業として認知されている。その指標となるのが、特許の数だ。
すでに両社が取得した燃料電池関連の特許は2200件以上に上るという。2002年から2015年の14年間の間に申請された燃料電池関連の特許数では、GMが世界1位、ホンダが同3位だ。
そんなリーダー企業2社がタッグを組み、次のステップに進もうというのが、今回の合弁会社設立なのだ。
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燃料電池電気自動車の実用化に不可欠なインフラ整備にも取り組む。GMとの提携には、それも視野に含まれているようだ
「研究・開発」から「量産」へ
2013年以来、ホンダとGMは一つのチームとして、専門領域のノウハウを蓄積してきた。今回の発表については、「いよいよ燃料電池を量産する段階に至った」と両社は口をそろえる。
「両社のエンジニアがチームとして小型で低コストな次世代燃料電池システムの開発に取り組んできた。その基礎を基に、お客様に新しい価値を創造することを可能とする、燃料電池システムを量産する段階になった」(神子柴寿昭本田技研工業株式会社専務執行役員 北米地域本部長 ホンダノースアメリカ兼アメリカンホンダモーターカンパニー取締役社長)
「燃料電池に関するイノベーションにおけるわれわれの協業は、燃料電池をクルマの推進力の主流へと押し上げていくでしょう」(マーク・ロイス GM上級副社長製品開発・購買・サプライチェーン担当)
新会社であるFuel Cell System Manufacturing,LLCはミシガン州デトロイトの南方にあるブラウンズタウンに設置され、2020年ごろまでに燃料電池システムの量産を開始したいという。
これによって新会社は将来的に、約100名の雇用を創出する。ことし1月以降、トランプ大統領の発言が自動車業界に波紋を呼んできた。日本企業で言えば、トヨタのメキシコ工場設立について批判されたのが記憶に新しいところだ。そんなトランプ大統領の発言の是非についてはさまざまな意見がある中、ホンダはアメリカ企業GMとの合弁会社設立という形で、アメリカ国内に新たな雇用を生み出そうとしている。
ホンダとGMの新たな取り組みは、エネルギーの使い方を変えるだけでなく、日米の未来にとっても意味を持つものになるかもしれない。
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text:長嶋浩巳