2017.12.14
安全かつ高エネルギー密度を実現!新型電池開発が加速度UP
“絶対に発火しない!?”長寿命電池の誕生、第一歩となるか
蓄電池(二次電池)の中身である電解液が“火を消す”役割を担い、発火するリスクを極限まで抑える。さらに電池寿命は格段に延びて、既存の生産ラインはそのまま使用が可能──。待望の高性能電解液を東京大学 工学系研究科の山田淳夫教授らが満を持して発表した。今後の二次電池開発に多大な影響を与える最新研究の核心に迫る。
発火・爆発の原因が一転、安全確保の切り札に!?
充電して繰り返し使用ができ、EV(電気自動車)やスマホなどに取り入れられている二次電池。高エネルギー密度化に向けてさまざまな研究が進められる反面、可燃性の有機電解液を原因とする発火・爆発事故が数多く報告されている。
去る11月28日、このいまいましき問題をクリアし安全対策の切り札となり得る研究発表がなされた。
それが、東京大学、京都大学、国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)らの研究グループによる“火を消す”高性能電解液だ。
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これまで発火の主原因とされた有機電解液が安全性を確保する最強の切り札へと変わる、まさに発想の転換がこれだ
現在、スマホやノートパソコンなどの携帯デバイスに用いられることが多い二次電池だが、一般的に使用される有機電解液は、消防法では灯油や軽油と同じ第2石油類に属する引火性の液体(引火点40度以下)であり、電池の火災・爆発事故の主原因となっている。しかも、小型・軽量化による利便性向上のため、充放電条件や衝撃保護などのスペックは、安全面から見ると危険性をはらんだ状態で運用されていることも多いのが現状だ。※電池の火災・爆発事故が起きている現状からも分かるように
その点、この新たな有機電解液は難燃性と消火機能を備え、そもそも引火点さえ持たないという、これまでと真逆の特徴を有する。さらに、200度以上の温度上昇時に発生・拡散する蒸気も消火剤の役割を担うため、電池の発火リスクが極端に低減されている。また、既存の電解液が70度くらいで蒸発することを考えると、発火どころか電池がいつの間にか膨れてしまったり、安全弁が働いて液漏れすることすらなくなるだろう。
加えて、既存の可燃性有機電解液よりもはるかに高い電圧耐性を有し、電池寿命(長期充放電サイクル特性)の大幅な向上も可能になるという。
現状の有機電解液では、貯蔵するエネルギーが増えれば増えるほど、当然、発火するリスクが高くなる。いわば、高エネルギー密度化と安全性は相反するものといえるのだ。その中で、二次電池の市場や用途拡大にとって欠かせない“高度な安全性確保”に向けて、一筋の光を差した本研究の意義は大きい。
既存の生産ライン&今後の巨大投資も無駄にはならず
リチウムイオン電池の電解液に溶かすリチウム塩の量は1Lあたり1モル(物質量の単位)程度が最適とされ、これを前提に選ばれた特定のリチウム塩と有機溶媒の組み合わせが、リチウムイオン電池の商品化以来、実に25年以上採用され続けている。
同研究グループは、2014年にリチウム塩を1L当たり3モル程度以上にするだけで、
1.イオンや溶媒分子が交互に並ぶようになり性質がガラリと変わること
2.液体中でリチウムイオンだけが移動する理想的な状況に近づくこと
3.25年以上採用されてきた唯一無二の塩と溶媒の組み合わせ以外でも実用性能を実現できること
4.従来の電解液をはるかに上回るさまざまな性能を示すこと
など、高濃度の電解液にさまざまな未知の性質が埋もれていることを発見した。
その後、作動電圧を3.7Vから4.6Vへと大幅に引き上げ、5倍以上の充電速度(数分の充電時間)を実現するなど、これまで不可能といわれてきたことがいとも簡単に達成されてきた。
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二次電池研究開発の俯瞰図
そして今回、この特徴を利用して二次電池の中にあった燃料を全て消火液に入れ替えてしまったのである。これはもはや進化というよりも革命に近い。
このような変革は、電解液を難燃性の有機溶媒と電解質塩のみで構成し、可燃性の炭酸エステル系溶媒を一切含まないことにより初めて実現できたという。
だが、これまでは負極(陰極)の安定作動のためには炭酸エステル系溶媒が必須とされていた。開発した有機電解液中では、炭酸エステル系溶媒を含まないにもかかわらず、連続1000回以上の繰り返し充放電(時間にして1年以上)を行っても、リチウムイオン電池およびナトリウムイオン電池用炭素負極にほとんど劣化が見られないことが判明した。ここには、電解液の設計を変えたことで、負極に堆積する保護被膜も大幅に高性能化したことが効いているようだ。
さらに正極(陽極)との適合性も良好で、商用リチウムイオン電池(3.8V)を超える高電圧4.6V級リチウムイオン電池や3.2V級ナトリウムイオン電池の安定充放電にも成功。電圧耐性が十分に高いことも確認されたのだ。
このように非常に革新的な電解液であるが、現状の電解液と入れ替えるだけですぐにでも実証試験や開発ができることも重要なポイント。なぜならば、現状の生産ラインや、今後世界規模で莫大な投資が行われ続ける工場や設備も無駄にはならないからだ。
今後、EVやスマートグリッド(次世代送電網:電力の流れを供給・需要の両面から制御し、最適化する送電網)の実用化に向けた研究がさらに加速するのは間違いないだろう。
そして、完成された安全かつ高エネルギーの新型蓄電池を採用したさまざまな製品が、未来の私たちの暮らしに溶け込んでいる…そんなことを本気で想像させてくれる研究の今後に期待したい。
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text:安藤康之