2017.12.21
世界初の高速&高精度な立体降雨観測性能を持つ気象レーダの実証試験が来夏開始
マルチパラメータ機能を追加して雨量の計測精度を向上!ゲリラ豪雨が事前予測可能に
近年、頻繁に発生し甚大な被害をもたらしているゲリラ豪雨。その突発的に発生する大気現象を捕捉する新たな気象レーダが11月21日、埼玉大学建設工学科3号館に設置され、無線局免許取得に向けた性能評価がスタートした。気象の変化をいち早くキャッチして被害を最小限にとどめる──。気象エネルギーの新事情、その取り組みや性能に迫る。
現在の気象レーダでは不十分
社会問題となっている局地的大雨(ゲリラ豪雨)や竜巻。これら局所で突発的に発生する大気現象の観測に最も有効的とされているのが気象レーダだ。
現在は気象観測用に小型の「XバンドMP(マルチパラメータ)レーダ」が整備されているが、これはパラボラアンテナを機械的に回転させて降雨観測を行う方式。そのため地上付近の降雨分布観測には1~5分、降雨を3次元的に観測するのには5分以上の時間を要している。
しかし、ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲は10分程度で急発達し、また竜巻もわずか数分の間で発生し移動する。それらの兆候をより迅速に察知するためには、従来よりも短時間に、しかも詳細を観測する必要があるのだ。
この課題をクリアするため2012年に開発されたのが、配列された多数のアンテナ素子それぞれの送信・受信電波の位相を制御することで電子的にビーム方向を変更できる「フェーズドアレイ気象レーダ(PAWR)」だ。
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PAWRで観測した3次元降雨分布の例(京都府南部)
PAWRは、およそ30秒間で雨雲の3次元立体構造を観測することができ、ゲリラ豪雨などの突発的な豪雨の早期検知手法に新たな展開をもたらした。
一方で、PAWRは偏波観測機能を持ち合わせないため、雨量の観測精度の面では同機能を有するMPレーダが勝るというジレンマを抱えていた。
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気象レーダの特徴を比較した図。MPレーダとPAWRのメリットが融合したのがMP-PAWRだ
そこで、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム“SIP(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)”の「レジリエントな防災・減災機能の強化」の施策として、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)をはじめとする研究グループ(東芝インフラシステムズ株式会社、首都大学東京、名古屋大学、埼玉大学)が開発したのが「マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)」だ。
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MP-PAWRの開発コンセプト
ゲリラ豪雨観測に対する新たな一手
この新型気象レーダは「フェーズドアレイ気象レーダ(PAWR)」に導入されていた導波管スロットアレイアンテナに代えて、2次元配列した偏波共用パッチアンテナを採用。
水平と垂直の偏波を同時に送受信するマルチパラメータ(二重偏波)機能が追加されたことで、高速3次元観測性能を保ちつつ、雨量の計測精度を格段に向上させることに成功した。
加えて、10方向以上を同時に観測できるDBF(デジタル・ビーム・フォーミング)のリアルタイム処理機能を搭載している。これは気象観測専用のフェーズドアレイレーダとしては世界初になる試みだという。
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埼玉大学に設置されたMP-PAWR
このMP-PAWRの実用化により、SIPではゲリラ豪雨の早期予測・浸水予測、強風予測の情報提供が可能になることを期待している。
例えば、2020年に東京開催が決まった夏季五輪では、屋外競技の開始・中断・継続などの判断に活用することでスムーズな競技運営の実現や、浸水の危険がある場所を事前に把握することで各自治体は住民に対して余裕を持った避難指示ができるようになるという。
今後、所定の性能評価を行った後に無線局免許を取得し、2018年の夏にはMP-PAWRを用いたゲリラ豪雨の早期探知・情報提供などの実証実験が予定されている。
時に甚大な被害をもたらす気象現象の解析・事前掌握などの予防策は近いうちに実現可能となり、やがては雲の動きを予測することで天気予報そのものが変わるようになるかもしれない。
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text:安藤康之