2018.1.11
ごみの“都市油田化”!ごみからエタノールを生成する新技術を日本企業が開発
ごみをガス化して微生物を触媒にすることで実現
積水化学工業株式会社は2017年12月6日、米国の微生物によるガス発酵技術開発ベンチャー・LanzaTech(ランザテック)社との共同研究により“ごみをまるごとエタノールに変換”する新たなガス精製技術の開発に世界で初めて成功したと発表した(積水化学工業調べ)。可燃ごみの再利用、資源化に注目が集まる研究の詳細をお届けする。
リユースが難しい“ごみの資源化”に向けたチャレンジ
積水化学工業は、埼玉県大里郡寄居町にごみ処理施設を有するオリックス資源循環株式会社協力の下、同施設内にパイロットプラントを建設。
2014年よりおよそ3年の開発期間を経て、実際に収集した可燃性ごみを極めて高い生産効率でエタノール化することに成功したという。
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パイロットプラントによる実証実験の概要
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施設内に建設されたパイロットプラント
日本国内で年間約6000万トン排出される可燃性のごみ。そのエネルギー量たるやカロリー換算で約200兆kcalに相当するといわれるほど膨大だ。
年間約3000万トン、約150兆kcalがプラスチックとして用いられている化石資源と比べても十分に大きな量といえる。にもかかわらず、ごみの再利用はごく一部にとどまり、その大部分は焼却・埋め立て処分されているのが現状だ。
普段私たちの暮らしの中で出るごみの種類や割合はその都度変化するため、ごみに含まれる成分や組成の変動も大きくなってしまう。この不均質な“ごみの性質”がそのまま工業原料としての扱いにくさとなり、再利用化を妨げてきた。
例えば、ペットボトルのように成分や組成が一定であればリユースもしやすいが、それをごみで行おうとすれば、収集したごみを一度分別する必要が生じる。また、分別を行ったとしても当然その分のコストが発生する。このコストも障壁となり再利用化の実現を難しくさせていた。
この問題に対して積水化学工業の出した答えが、ごみの「ガス化」と微生物を用いた「エタノール変換」だ。
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ごみをエタノール化して再利用する概念図
さまざまなブレイクスルーポイントを乗り越えて技術を確立
「ガス化」については、低酸素状態でごみを加熱することで分子レベル(COやH2)に分解する方法は既に確立されていた。
ここで注目したいのは、ガス化により雑多なごみを分別することなく単一の原料に変換できるという点だ。これにより、ごみの豊富なエネルギーを損なうことなく特性の均質化を実現しているのだ。
そして、熱や圧力を使わずに目的とする物質の生成を可能にする先進技術“微生物触媒”による「エタノールの生産」。これについてはクリーン・エネルギー技術に取り組むランザテック社が保有する微生物が、原生微生物の10倍以上の反応速度を有しており、工業レベルに十分な生産速度を発現することができる……はずであった。
しかし、ごみから得られるガスには不純物である夾雑(きょうざつ)物質を多く含んでいるため、そのままでは微生物触媒に適さなかったのである。そこで積水化学工業では、この難関を突破するために新たなガス精製技術の確立を目指すこととなった。
その結果、同社は約400種にも上るガスに含まれる夾雑物質の特定に成功したのだ。これにより夾雑物質を徹底して除去したガス精製が可能になり、微生物触媒の利用を実現したのだ。
さらに、ごみに含まれる成分や組成の変動に対しては、変動に応じて微生物の生育状態を調整しエタノールを生産する「培養コントロール技術」を開発。かつ、緊急ガス停止時などごみ処理施設特有のリスクに対応する技術を確立し、安全性も高められた。
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ごみの資源化が創生する資源循環社会システムのイメージ図
今回発表された技術を用いれば、年間約6000万トンのごみからプラスチックなどの石油化学製品を約1100万トンも生産できるというから、まさに“ごみの都市油田化”といえる。
この新たな資源循環のループが普及した暁には、日本が“ごみ資源大国”として、化石資源に頼らない資源循環社会をリードしている姿を期待したい。
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text:安藤康之