2018.2.1
割れても“治る”!世界初の自己修復ガラスを東京大学が開発
再利用できるガラス素材で持続可能な社会への貢献に期待
2017年12月15日、東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻の相田卓三教授と柳沢佑研究員らの研究グループが自己修復機能を備えた有機ガラスの開発に世界で初めて成功したと発表した。これまでガラス瓶を除いてはあまり再利用されることなく処分されていたガラスの新たな可能性を切り開く研究に、ことしは注目が集まることになりそうだ。
自己修復の概念がガラスにも広がる
家や車の窓、スマートフォンの画面など身近なものに利用されているガラス。一度割れてしまうと修復不可、新しいガラスと交換し、古いガラスのほとんどは不燃ゴミとして処理されているのが現状だ。
これは、ガラスが硬い材料で作られている構造上、一度破損してしまうとガラスを溶かすために必要な1500度以上の高温で加熱・溶接しなければ再利用することができず、ガラスの材料となる珪砂(けいしゃ/珪石を細かく砕いたもの)も資源として豊富にあるため、リサイクルするよりも一から作った方が不純物を取り除きやすく、コストも抑えられるためだ。
また、リサイクルという概念は現代社会に根付いてきてはいるものの、実はリサイクル過程では多大なエネルギーを消費しているという現実もある。
エネルギー消費を抑え循環型社会に適合する素材として、自然界の微生物などの働きで最終的には水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックや、再生可能資源であるバイオマスを原料に使用したバイオマスプラスチックも登場しているが、コストや強度の問題でまだまだ普及しているとは言いがたい。
近年では、ゲルやゴムなどの軟らかい素材については修復機能を持つ材料が誕生しているが、硬い樹脂ガラス(アクリル樹脂やポリカーボネートなどと呼ばれる透明で硬いプラスチック)などは、前述の通り、高温で加熱・溶接しない限り修復させることはできないとされていた。
しかし、同研究グループが開発した自己修復ガラスはこの常識を打ち破り、室温で割れた面を押し付けておくと修復・再利用が可能になる初めてのガラス素材だという。
ガラスを圧着修復させる特別な分子構造が明らかに
自己修復ガラスには「ポリエーテルチオ尿素」と呼ばれる高分子(多数の原子がヒモもしくは鎖状につながる大きい分子)が素材として使用されており、無機ガラスとは異なりアクリル樹脂などの有機ガラスの一種となる。
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同研究グループが開発した半透明の新素材「ポリエーテルチオ尿素」
この高分子物質は、生体分子の表面に強く接着する「分子糊」と名付けた高分子物質を合成するための中間体(化学反応の中間生成物)として開発された。しかし、その過程で硬くさらさらした手触りの表面をしていながら、破断面を互いに押し付けているとそれらが融合する特別な性質を示すということに、偶然気が付いたのだという。
そこで「ポリエーテルチオ尿素」の修復能力を検証したところ、室温付近で1~6時間程度の圧着で、破損前と同等値の強度にまで回復することが確認された。
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ガラスが自己修復する一連の流れ。2片に割り、その破断面を約30秒ほど押し当てるとガラスは見事に修復される(完全な修復には長時間の圧縮が必要)
そして検証を続けた結果、自己修復・有機ガラスの設計には以下の4つが重要であることが明らかとなった。
1.比較的短い高分子鎖を用いて局所的な分子運動性を保証する必要がある
2.短い高分子鎖で高い力学強度を実現するために、それらを水素結合(窒素や酸素など電気陰性度の高い2個の原子が水素原子を介することで結びつく化学結合)で高密度な架橋(高分子間に橋をかけたような結合)する必要がある
3.水素結合による高密度な架橋が結晶化を誘起してはならない
4.水素結合の交換を容易にする構造が重要
つまり、水素結合で破断面を結び付けようとするポリエーテルチオ尿素の性質が自己修復の鍵となっている。
今回の研究結果により、ゴムやゲル状の軟らかい高分子材料に加え、分子の設計次第では、硬い高分子材料も自己修復できる可能性を見いだしたことになる。
今後、自己修復ガラスがさまざまな製品に利用され、リサイクルにかかるエネルギーの抑制も実現可能となった場合、ガラス素材に関しても破棄から修復・再利用へと変化することになるかもしれない。それは、まさに日本人が持っている“もったいない”という文化を地で行くということではないだろうか。
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text:安藤康之