2017.1.31
モーターを持たない“筋肉ロボ”が高齢化社会を救う?
人工筋肉で腰の負担を軽減する「マッスルスーツ」
1月18日~20日、サービス用から産業用までさまざまなロボットを集めた展示会「第1回 ロボ デックス ロボット開発・活用展」が東京都内で開催された。そんな中で異彩を放っていたのがベンチャー企業・イノフィスが発売する「マッスルスーツ」。“人工筋肉”によって人の動きを補助する、建設や介護の現場での活用が期待される装着型ロボットに迫る。
INDEX
人工筋肉で動作補助!
高齢化による労働力不足に備え、近年“ロボット技術”を利用した動作補助装置「パワーアシストスーツ」の研究が盛んに行われている。
現在は、装着者の体幹の動きや皮膚の信号をセンサーで読み取り、モーターを回転させて動作をアシストするロボットタイプのものが多い。国内でもパナソニックの社内ベンチャー企業である「アクティブリンク」が発売する「アシストスーツAWN-03」や、大和ハウス工業の「ロボットスーツHAL」などがすでに量産化に成功している。
そんな中、センサーもモーターも持たず、“人工筋肉”を動力源とした装置がある。東京理科大学発のベンチャー企業である「イノフィス」が開発し、2月1日(水)に新型モデルが発売される「マッスルスーツ」だ。
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約10秒で装着できるリュック型
腰の負担を大幅軽減!
人工筋肉は、ゴムチューブを筒状のナイロンメッシュで包んで両端をつなげたもの。ゴムチューブの外側にメッシュが張り巡らされ、圧縮空気を入れるとメッシュの網目のパターンによって、チューブが横に膨らみながら縦に縮む構造になっている。
空気圧で人間の筋肉の動きを再現し、人間以上の力を生み出す…エネルギー効率も非常によい、まさに人工筋肉というわけだ。
人間の動きに合わせて動作するため、モーターに比べ誤作動が起きにくいこともメリット。今回発売される新型は、空気タンクやバッテリーがない軽補助タイプながら、アシスト力は最大25kg(100Nm)を実現し、人や物を持ち上げるときの腰への負担は、大幅に軽減される。
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作業内容や使用者によって異なるものの、30回ほど手動の空気入れで空気を供給し、1時間毎に5回ほど抜けた空気を補えば、連続的に作業が可能
「新型モデルは従来モデルからデザインを刷新し、装着したままでも歩きやすくするなどの改良を図っています。装着時に強い安定感が得られるタイトフィット(70万円)と、ももパッドと脚の間に“遊び”を設けたソフトフィット(80万円)の2タイプ。前者は介護サービスや重量物の持ち上げ作業に適しており、後者は製造工場や農業など広いエリアでの業務に適しています」(イノフィス広報)
実際に本誌記者も体験してみたが、実に不思議な感覚だ。床に置いた約10kgの荷物を持ち上げてみると、ほとんど力まずに自動的に腰が上がるような感覚だった。体感重量は5kgほどで、記者が当日持参したノートパソコンや書類が入ったバッグより軽く感じる。腕力は補助してくれないものの、中腰の姿勢で苦痛を感じない点は、長時間の作業の“アシスト”としては最適だろう。
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荷物の上げ下ろし作業の際に腰の負担を軽減
介護や建設現場へ展開!
ちなみに、同社のマッスルスーツは約40社の販売店やリース会社などへ卸しており、出荷済みの1500台のうち、650台は訪問入浴介護で使われているとのこと。
訪問入浴サービスを行う介護職では、ベッドから体の自由が利かない利用者を抱き上げて、バスタブに下ろす。この作業で多くの人が腰を痛めてしまい、結果的に若い社員しか働けなくなることが問題となっていた。
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介護現場で活躍中
「マッスルスーツのサポートで、50歳以上の方でも入浴補助を行いやすくなったという反響がありました。年をとっていても働けるような器具を作ることで、雇用の安定化、雇用の維持に貢献することを目指しています」(同)
また、建設会社が実証導入するなど建設現場での採用事例もある。建設作業現場でも作業員不足や高齢化が課題となっており、安全帯を装着したままでも使いやすくする改良を行うなど、建設業界への展開にも注力する方針だ。
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建設現場では中腰での鉄筋のくくりつけなどの作業にも効果的
「現在は個人向けの販売はしていませんが、『両親にプレゼントしたい』という方からの問い合わせなど、最終的には『一家に一台』になっていくと考えています。技術をさらに高め、価格を含めさらに進化したマッスルスーツを目指していきたいですね」(同)
空気圧を利用した装着型ロボットの今後に注目したい。
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text:浅原 聡