2018.6.27
減速時に生じる電力を蓄電!小田急がエネルギーの高効率化を担う装置を新導入
環境への負荷低減と安全性の向上を実現
近年、鉄道業界のトピックになっている「回生ブレーキ」。これは、電車がブレーキをかけた際に失われる運動エネルギーでモーターを発電機として作動させ、電力に変換。架線を介してほかの電車で有効活用するというものだ。今回、新宿と箱根・片瀬江ノ島などを結ぶ首都圏きっての大動脈である小田急線を運行する小田急電鉄株式会社も、各鉄道会社が導入を進めている「回生電力貯蔵装置」の運用開始を発表した。鉄道業界で進むエネルギーの高効率化に向けた動きをご紹介する。
ブレーキで発生した電力を走行時に応用
小田急電鉄は、東京都渋谷区にある小田急小田原線上原変電所で「回生電力貯蔵装置」を5月19日より導入した。
ハイブリッド(HV)自動車にも採用される回生ブレーキの原理を利用する本装置の仕組みは、
1.電車がブレーキをかけたとき、減速によって熱として捨てられる運動エネルギーを電気エネルギーに変換(電力の創出)する
2.発生した回生電力を変電所に設置した蓄電池(リチウムイオン電池)に一時的に充電(貯蔵)する
3.貯蔵した電力を停車している車両に供給し、発車や加速時など走行に必要なエネルギーとして使用(再利用)する
というもので、いわばエネルギーの循環システムだ。
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回生電力の循環図
この装置最大のメリットは、運動エネルギーから回生電力を生産、再利用することで運転にかかる総電力量が削減できること。そして安全性能の向上だ。
回生ブレーキをはじめとする電気ブレーキは、発生した電力を何らかの形で消費する(エネルギーが失われる)ことにより制動力を得ている。逆説的に言えば、消費できない電力があった場合、その分のエネルギーがなくならないため、制動力は低下してしまう。これまでの回生ブレーキは、発電した電力の消費は相手(対向車両)次第のため、結果としてこの制動力にバラつきが生じていた(ちなみに、不足分は摩擦ブレーキで補っていた)。
今回導入された回生電力貯蔵装置は、変換装置と蓄電池盤の間で高速充放電が可能なため、発電した電力を最大限に消費(充電)できる。これにより安定して回生ブレーキ力を生み出せるようになり、車両停止位置精度の向上や機械式ブレーキの摩耗低減による揺れの減少など、安全面を改善するという。
つまり、省エネと安全運行の両立が期待できるというわけだ。
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回生電力は、災害時などの緊急電源としても期待されている
大規模停電など非常時の電源供給機能の検証も
さらに、電力を安定して貯蔵できるので、停電時の電源供給能力を担うこともできる。
今後、複々線地下区間(代々木上原駅~梅ヶ丘駅間)における大規模停電の発生を想定し、駅間に停車した車両を最寄り駅まで移動させるなど、本機能の検証試験を行っていくという。
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小田急電鉄が採用する省エネ車両の仕組み
小田急電鉄では、回生ブレーキシステムを採用した4000形の省エネ車両導入を2007年より順次進めている。2017年度末時点では、全体の98.8%が旧型車両と比較して約半分(46.8%)の電力で走行できる省エネ車両に切り替わっているとのこと。
また、上り線と下り線の架線をジャンパー線(離れた電気回路間をつなぐ電線)で結び、上下線を問わずに回生電力を使用できる「上下一括き電方式」を一部区間で採用。同一方向に走る車両にのみ回生電力を供給していた従来の仕組みと比べて、電車間の距離が離れていても利用できるなど、回生電力の効率的な使い方にも取り組んでいる。
今回の運用事例は、鉄道施設や車両を保有する鉄道事業者に対して、省エネ設備などの導入促進やCO2排出の抑制を目指す事業に国が補助金を交付する、環境省・国土交通省の「エコレールラインプロジェクト」事業の一環として導入されたものだ。
一度に多くの人を目的地まで運ぶ鉄道輸送のエネルギー効率が向上することで、環境に優しい省エネ社会の実現にまた一歩近づくのかもしれない。
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回生ブレーキシステムを搭載した4000形の車両
tarousite / PIXTA(ピクスタ)
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text:安藤康之