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新型のスーパー掘削機登場で“地中熱利用”がもっと身近になる?

地中熱システムの導入コスト削減を実現

地中に穴を開けて熱を取り出し、冷暖房などに利用する。新たな再生可能エネルギーとして注目される“地中熱”の利用を容易にするべく、鉱研工業株式会社(東京都豊島区)と株式会社日伸テクノ(北海道札幌市)がタッグを組んで掘削機をブラッシュアップ。低コストの施工法も新たに登場して、今後は一般家庭への普及が加速しそうだ。

作業の時短や人件費カットを叶える掘削機

そもそも“地中熱”とは「地域を選ばず利用できる低温の熱エネルギー」を意味し、火山の近くや温泉地で高温のエネルギーを利用する“地熱発電”とは区別して理解する必要がある。

そして日本では今、異常なまでの猛暑が騒がれているが、意外と知られていないのが「地中はひんやりとしている」ということ。実際に東京では、地下10mの温度は年平均気温と同じ17度程度だとか。その温度は一年を通して大きく変わらないため、地上との温度差を利用することで冷暖房などを効率よく動かすことができるのだ。

他にも、地中熱は他の再生可能エネルギーと比べると、システムの設置場所の制約が少なく、大気中へ排熱を出さない(CO2の排出量を削減できる)などのメリットがあることが知られている。

地中熱を利用した冷暖房システムは羽田空港国際線ターミナルビルをはじめ、東京スカイツリーなどで大規模施設で主に導入されている

出典:東京国際空港ターミナル株式会社

出典:東京国際空港ターミナル株式会社

しかし、家屋の屋根やビルの屋上に載せるだけで設置できるようなソーラーパネルとは異なり、地中熱を利用するためには地盤を掘って熱交換用のパイプを設置しなければならない。結果、工事は大規模となり設置コストの高さが大きな課題となっていた。

そんな中、地中熱の未来を切り開く……いや、掘り起こす救世主になり得るマシンが登場した。公的資金を財源としたNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業の一つで、掘削機器製造事業を展開する鉱研工業と、地中熱システム施工会社である日伸テクノが開発を担当。誕生したマシンの名は「FSGT-150C」だ。

「FSGT-150C」の武器は、従来機よりも低い振動数でスピーディーに地盤を掘り進めることができるバイブロヘッド(掘削機の主要構成要素の一つで、ロッドを回転させながら振動させ、高速な掘削を可能にする設備)。地中熱の利用を想定できる地層において、最大50%以上、平均でも30%以上の掘削時間の削減というエネルギーの高効率化を実現した。最適な振動制御により無駄なエネルギーを減らすことができるため、機器の損耗が少なく長寿命化も期待できるという。

地中熱利用システム専用の新型掘削機「FSGT-150C」

出典:NEDO

また、従来は3人がかりで作業していた二重管ロッド(内管・外管の2重構造になっているロッド。単管ロッドに比べて、複雑で掘削が難しい地層でも安定して掘削することができる)の補給や回収などの大部分の工程を自動化することに成功。

この結果、作業員の安全性向上に加え、作業を1人で行うことができるようになっただけでなく、作業工数も20%以上の削減が可能に。さらに、安定した掘削を進める上で重要な掘削中の孔内洗浄作業も、作業者の経験に依存することなく自動で行えるようになった。

今後は、新型掘削機を安定作動させるための改良や自動洗浄プログラムの改修に取り組み、対応可能な地層の拡大を目指すという。販売開始は2019年の予定だ。

一般家庭向けの施工法も開発が進んでいる

地中熱利用システムの課題であったコストダウンを実現するため、NEDOは掘削機だけでなく新しい施工法の開発も先導。日本大学工学部、日商テクノ、住環境設計室と共に、一般住宅向けの浅層地中熱利用システムの低コスト化技術も開発している。

基本的に地中熱利用システムは、地中熱交換器、ヒートポンプ、室内機などで構成されている。地中に設置した熱交換器を通じて地中の熱を取り出し、ヒートポンプで冷熱・温熱を作り出して、室内機で冷房・暖房を行う。しかし、従来のシステムでは熱交換器を設置するために地盤を深く掘る必要があるため、掘削コストが大きく、また地中熱交換器とヒートポンプや室内機の制御が最適化されていないため、運用コストが高いという課題もあった。

そのため、3者は、地中熱交換器で使用する鋼管を回転させながら地中に貫入させていく回転埋設工法を開発した。埋設作業と熱交換器設置作業を同時に実施する施工法となっており、大幅なコスト削減が期待できるという。

さらに、複数の地中熱交換器と冷暖房室内機を連携制御するヒートポンプシステム制御技術も開発。地中熱交換器の稼働率の適正化にも成功した。

開発した技術の概要図

出典:NEDO

実証試験の結果、新たな施工法により導入コストを40%も削減し、5kWあたり150万円で浅層地中熱利用システムを実現できるという見通しが得られた。

運用コストも従来と比較した結果、10%低減できるとのこと。これが商用化されれば、太陽光パネルと大差ない設置費用で、天候に左右されないエネルギー源を確保できるようになるかもしれない。

大きなポテンシャルを秘めた再生可能エネルギーを安全かつ安価に利用できる技術革新に関して、積極的に活用する意識を持ちたいところだ。





※太陽熱や地中熱など再生可能エネルギーを利用したエネルギープラントの開発・研究に携わる、早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科 小野田弘士教授の記事はこちら

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