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全固体リチウムイオン電池の実用化目前!私たちの生活を変える新時代の電池とは?

東京工業大学 科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニットリーダー 物質理工学院応用化学系 菅野了次教授

現在、自動車や電化製品業界で新たなエネルギー源として期待を寄せられている全固体電池。昨年には、「2020年代前半に、リチウム電池に代わって全固体電池を搭載したEV(電気自動車)の実用化を目指す」とトヨタが発表するなど、実用化に向けた開発は待ったなしだ。1980年以降、リチウム電池と固体電解質の研究に携わり、トヨタとも共同開発を行う東京工業大学物質理工学院応用化学系の菅野了次教授にその未来について話を聞いた。

研究者間でも難しいと言われてきた超イオン伝導体の発見

現在主流となっているリチウムイオン液体電池の仕組みをおさらいしておくと、正極(リチウム酸化物)と負極(炭素など)の間はリチウム塩有機溶媒という液体電解質で満たされ、セパレーターというミクロの穴が開いた壁で隔てられている。放電時、負極にため込まれたリチウムイオンは電解液中に抜け出し、セパレーターを通り抜けて正極の結晶構造内に入り、リチウムに戻る。その過程で電子をやり取りすることで、外部に電流が取り出せる仕組みだ。

一方、これから実用化を目指している全固体リチウムイオン電池は、電解質が液体ではなく、文字通り固体でできている。

リチウム・すず・ケイ素・リン・硫黄で組成された実験用の固体電解質(左)。このセラミック粉末を金属容器(右)に入れ、正極、負極材料でサンドイッチすると実験用の全固体電池になる

2017年夏、従来の液体電解質に匹敵するイオン伝導率(電気の流れやすさ)を持つ、新たな固体電解質材料が発見された。スズとケイ素を組成に組み込んだ新電解質はこれまで発見された組成に比べて材料が安価で、しかも合成しやすいという特徴を兼ね備えている。

その新電解質を発見したのが、菅野教授らの研究グループだ。

「まだ、どの組成が本命になるかは決まっていませんが、これとこれを組み合わせると良い固体電池用電解質になると予測できる候補はそろってきました。無限の候補から材料を探索する段階が続いていましたが、現在は実用化を視野に入れた材料探索へとフェーズが移ってきていると感じます」

菅野教授が研究者として固体電解質、イオン伝導体の世界に足を踏み入れたのは1980(昭和55)年。リチウムイオン液体電池が初めて製品化されたころよりもさらに10年以上前のことだ。“全固体電池”という単語が一般的に知られるようになったのはつい最近だが、実に40年あまりにわたって、この分野に特化した研究を行ってきたのである。

「当時は、電解質を扱う研究者たちの間では“リチウムが面白そうだ”と盛り上がっている時期でした。それから10年近くしてソニーが世界で初めてリチウムイオン二次電池を実用化し、瞬く間に広まってスマホやEVなどの新しい製品が次々と生み出されていきました。電池自体の性能も大きく進歩しましたね。そうした変化の只中に身を置くことができたのは、研究者としてとても幸運だったと思います」

固体イオニクスと呼ばれる研究分野の第一人者として、これまで数々の成果を上げてきた菅野教授

「銀や銅など固体の中でも液体中と同じようにイオンが動き回ることができる物質、イオン伝導体があることは以前から分かっていました。

しかし、蓄電池にできるほどエネルギー密度を高められるものが見つかるかどうかは研究者の間でもかなり怪しまれていて、あくまでも“将来できたらいいね”というレベルでした。それでも固体にも液体並みにイオンがよく動き、出力を高められる物質があるはずだ、とその可能性を信じて探し続けてきたのが私の研究者としての歴史です」

これまでのリチウムイオン電池を上回る性能

菅野教授らの研究グループは、近年において3度大きな発見を成し遂げている。

2011年にゲルマニウムを用いた組成の固体電解質では液体電解質に匹敵するイオン伝導率を達成。さらに2016年には塩素を組み込んだ材料を発見し、液体電解質の2~3倍という高いイオン伝導率を示した。そして昨年のスズ、ケイ素を含む新組成の発見で、より安価で合成しやすい、つまり実用化に適した全固体電池の材料を見いだした。

「安全性の高さやエネルギー密度の高さは以前から期待されていましたが、私が2011年および2016年に発見した新材料では、出力密度についても液体のリチウムイオン電池以上に高められることを証明しました。固体電解質は抵抗が大きく、大きな出力は得られないと長年言われてきましたが、本質的にイオン伝導率を高められる、出力を増やせることを示せたのです」

二次電池の出力密度(縦軸)、エネルギー密度(横軸)を示した表。青く塗られた範囲が実験中の全固体電池で、出力、エネルギー密度とも既存のリチウムイオン電池(グレーの範囲)を上回っているのが分かる

では、電解質が固体になることでどんな恩恵があるのか──。

一つはもちろん安全性だ。リチウムイオン液体電池は他の電池に比べて出力密度、エネルギー密度とも高いため小型軽量で大きな電力が得られることが特徴に挙げられる。そのため急速に普及したが、可燃性の電解質が使われているため、液漏れや発火の危険性が内在している。全固体リチウムイオン電池ならこうした現象が構造上、発生しない。これはEVやスマホなど身近な電化製品に使われる上で大きなメリットといえる。だが、他にも特筆すべき点はたくさんあるという。

「固体なら積層が可能なので、エネルギー密度を既存のリチウムイオン電池よりもさらに高めることができます。イオン伝導率の高さから大きな出力が得られることは前述のとおりですが、これは充電も短時間で行える可能性を示しています。

さらに−30℃~100℃でも安定した性能を発揮できるなど、温度変化にも著しく強い。まだ固体電解質の特性を最大限に生かせる電極材料は何なのか、などの課題は残っていますが、以前に比べると見通しはかなり明るくなってきました。実用化された暁には、これまでのリチウムイオン電池をはるかに超えた特性が期待できるでしょう」

左(a)は2016年に発見された超イオン伝導体の温度によるイオン伝導率の変化を表したグラフ。2011年に発見した組成の2倍以上という高いイオン伝導率を示した

新しい電池を使った新しいプロダクトが生活を変える

今回の新材料発見により、全固体電池の実用化に向けて前進したのは確かだが、実際に製品化されるまでにはまだ多くのプロセスが必要になる。

「現段階では優れた特性を持つ固体電解質の組成が見つけられたのみで、ここから実際の市場に出るまでには生産性やコスト、安全性、製品としての安定性など、さまざまな要素を考慮しながら、電池として設計する、という多くの課題や長い過程が残っています。そこはもう産業の分野ですから、私たちは手出しできません。今までの歴史から考えると、材料発見から5~10年の歳月は必要でしょう。

一足飛びに完全な電池を作ろうとするのではなく、まずは全固体電池のメリットを示せる性能のものを作って市場を徐々に築いていき、使われる領域を広げながら開発を進めていく、というのが現実的なシナリオだと思っています」

ひとまず全固体電池の利点が感じられる製品を目指すなら、トヨタの目指す期限も無謀な計画ではないだろう、と菅野教授は言う。特性を最大限に生かせる構造となるとまだ時間が必要だが、市場が求めるなら研究も加速するはずだ。

それほど電池として優れているなら、現在の市場にある二次電池全てが置き換わってしまいそうだが、菅野教授の考えは異なる。

新しい電池は新しいプロダクトでこそ求められてきた、既存の電池と全面的に置き換わることは考えにくい、と語る菅野教授

「自動車のバッテリーを見てください。いまだに150年前に発明されたものと原理的に変わらない、鉛蓄電池が採用されていますよね? 安価なアルカリ乾電池もしかり。電池には出力特性以外にもコストや、長年使われてきた信頼性などさまざまなパラメーターがあって、必ずしも性能が良いから採用される、というわけではありません。全固体リチウムイオン電池についても、同じことが言えると思います。

リチウムイオン電池ができたことで、スマホやタブレットPCなどの製品が生まれ、ハイブリッド車なども実用的になりました。新しいデバイスが登場する時、その要求に応えられる新しい電池が必要になるというのが、これまで電池がたどってきた歴史です。次のデバイスが何なのかはまだ分かりませんが、スマホやハイブリッド車が人々のライフスタイルを一変させたように、全固体リチウムイオン電池を使った製品が私たちの生活に大きな変化をもたらすかもしれません。

そう期待しています」





※ソフトバンクが参入し、2025年の実用化を目指す究極の二次電池「リチウム空気電池」に関する記事はこちら

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