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光と音のエネルギーが共演する花火!進化の可能性に迫る

足利大学大学院教授 丁大玉【後編】

近い将来、花火はどのような進化を遂げていくのだろうか──。そして専門家から見たおすすめの花火大会とは?メカニズムの研究から江戸の花火の再現まで、多岐にわたる研究を行っている煙火学研究室の丁教授に、引き続き話を伺った。

これから花火業界で起こりうるイノベーションとは?

黒色火薬と鉄粉を中心とした原料による、だいだい一色のものだった江戸時代までの花火。古来から現在のものに至るまで、丁教授は実に多岐にわたり花火研究を行っている。
※【前編】の記事はこちら

花火の世界に大きなイノベーションが起こったのは明治時代のことだ。

「それまでの日本になかった金属化合物が欧米から輸入されるようになったことで、多彩な表現が可能となりました。硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、塩素酸カリウムといった物質は色の幅をもたらし、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウムの粉末を火薬に混ぜることで燃焼温度を上げることが可能になりました。江戸時代までの花火は明るさも限られていたため、主に近距離で鑑賞するものでしたが、新たな物質が使用されたことで、現在のように遠くから花火を鑑賞するスタイルが生まれたのです」

「花火に新たな物質が使えるようになった明治時代は、大きなターニングポイントだった」と丁教授は語る

しかし、明治時代に起こったような“大きく花火の見栄えが変わる、概念が覆る”ほどのイノベーションは当面の間難しいのではないか、と丁教授は考えている。

「これは花火に限ったことではありませんが、爆発・火薬分野においては合成・化学反応がおおむね研究され尽くしています。新たな物質が生み出されたとしても非常にコストがかかり、実用化には程遠いでしょう。研究レベルでは1g当たりの価格がゴールドと同程度の物質を実験などに用いますが、他の用途で多くのニーズが生まれなければ量産化はされません」

それでは、今後の花火は現状維持が続くのだろうか。

「既にある物質の組み合わせや割合を変化させることで、さらなる低コスト化や安全性を求めることは可能です。打ち上げ花火であれば発射時の薬量を効率化により少なくするなど、まだまだできることはあると考えます。研究の成果を業界に伝えることで、少しでも貢献していきたいと思っています」

緻密に計算されたエネルギーを利用する打ち上げ花火のメカニズム

夏を楽しむ上で欠かせない花火大会が、ことしも日本全国で開催されている。そこで伝統と職人の個性が光る打ち上げ花火の仕組みについても教えてもらった。

「打ち上げ花火の仕組みは大砲で砲弾を発射するのと同様で、打ち上げ火薬のエネルギーにより筒から発射された花火玉が上空で破裂。その結果として、光や音が発生します。打ち上げ時にきれいな円状に見える代表的な構造を『八重芯』といい、星と呼ばれる丸い火薬の間に敷き詰められているのが割薬。この割薬はもみ殻に粉火薬をまぶしたものですが、花火玉の中に一瞬で火を回し、破裂させるのに大きな役割を果たします。

割薬は花火業者がオリジナルで作るものなので、職人によって差・オリジナリティーが出る部分。隙間があるほど火の回りが早くなりますから、ちょうど最高地点で大きく花開くようにうまく調整するのが腕の見せどころになります」

打ち上げ花火の代表的な構造「八重芯」

職人による花火作りのイメージ

(c)Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

花火玉が破裂した時点から火薬が燃焼を終えるまで、このわずかな間でいかにきれいな花火を打ち上げるか。花火玉の中に工夫を施すことで職人たちは多彩な表現に挑んでいる。

「花火玉の中ほどにあまり光が出ない火薬を使用することで、一瞬消えたかのような効果を生み出したり、空気中での二次燃焼を生かして光の変化を生み出したりと多種多様です。“打ち上がる花火の目に見えない部分”を鑑賞するのであれば、花火玉の中身を想像しながら見てみるのも面白いでしょう」

続けて、環境面に配慮した工夫が進んでいると丁教授は教えてくれた。

「燃焼が終わったら打ち上げ花火の燃えカスが地面に落ちてくることになりますが、近年はここにも工夫がなされており、自然分解されやすい素材を花火玉に使用している業者も出てきています。今後は打ち上がった後の処理がスマートにできるか、といった点も課題の一つとして取り組まれるのではないでしょうか」

専門家がおすすめする、この夏訪れるべき花火大会

これまでに直接現地へ出向き、さまざまな花火をその目にしてきた丁教授。花火の専門家がおすすめする花火大会を教えてもらった。

「まず推薦したいのは、毎年8月の最終土曜日(ことしは25日)に秋田県で開催される全国花火競技大会『大曲の花火』。92回を数える伝統的な花火大会で、打ち上げ規模、種類ともに大満足できるボリュームがあります。

夏のうちに花火大会へ行けなかった、という方には毎年10月に茨城県で開催される『土浦全国花火競技大会』(第87回/10月6日<土>予定)はどうでしょうか。先に挙げた大曲と土浦、そして新潟県で開催(8月2日<木>・3日<金>)される『長岡まつり大花火大会』は日本三大花火大会といわれており、参加する花火業者も最も力の入る花火大会になります。これまで訪れたことがないという方は、ぜひ一度鑑賞していただきたいですね」

全国花火競技大会『大曲の花火』

(C)花火 / PIXTA(ピクスタ)

最後に、丁教授が考える花火の魅力について聞いてみた。

「私は日ごろ花火を研究している人間ですが、花火大会に足を運べば一般の方と同じように鑑賞して楽しみます。最も好きなのはちょうどフィナーレのあたりで、一斉にたくさんの花火が打ち上げられ、まるで昼間のような明るさになるとき。花火の爆発音を体で感じながら目にする非日常的な光景は、実際に足を運んで見る価値のあるものだと思います。

だいぶ昔の話になりますが、日本にやって来る前にはこれほど一斉に花火が打ち上がる光景を目にしたことがなく、大変驚きました。

日本の花火は世界に誇る文化。爆発エネルギーが生み出す瞬間の美を、たくさんの人に楽しんでいただきたいですね」

夏休みの研究にうってつけ!線香花火の作り方

煙化学研究所流!線香花火の作り方の図

1.硝酸カリウム45~49%、硫黄29~35%、木炭20~22%、油煙0~10%の割合で低燃速の火薬を調合する。1本あたりに必要な火薬量は約0.08~0.1gと極わずか

2.乳鉢で混合したのち、目開き150μm(マイクロメートル)のふるいにかける

3.幅2cm程度の半紙に少量の火薬をのせ、人差し指の上で転がすように巻いていく。この際、巻き方がゆるいと火花が出なくなるため注意が必要

4.完成

子どもだけでなく大人が一緒に作業することが必須条件だが、一度挑戦してみてはいかがだろうか。

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