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夏の夜空を彩る花火!その解明に科学的な視点から挑む

足利大学大学院 教授 丁大玉【前編】

日本の夏の風物詩・花火──。その歴史は古く、古代中国の狼煙(のろし)が起源とされ(※諸説あり)、日本には室町時代に唐から伝来したといわれている。大きさや姿・形など、時代とともに進化を遂げてきた花火だが、その技術や火薬の配合は職人の生命線、門外不出のもので職人間でのみ共有されており、広く一般には知られていない。そんなベールに包まれた花火の世界を学術的に研究しているのが、今回お話を伺った丁 大玉教授。世界で唯一とされる花火研究室「煙火学研究室」を持つ教授が語る、爆発エネルギーの魅力とは?

爆発力学の研究から花火の世界へ

「私はもともと、中国で爆発力学の研究を行っていました。目標物に対する破壊力を計測し、“いかに安全に建物を壊すか”といったテーマに主眼を置いた研究です。これを応用する形で、民間企業と協力しながら車のエアバッグに使われるガス発生剤の研究なども行いました。『爆発エネルギー』というと、大きな衝撃とともに何かが破裂する、まさに花火や爆弾のようなものを想像するかと思いますが、エアバッグのような生活に身近な部分にも応用されているのですよ」

南京理工大学で講師を務めていた際、学術的な交流があった東京大学名誉教授 吉田忠雄氏に招待され来日した丁教授は、法政大学などで研究を続けた。その後、2006年、足利大学(旧 足利工業大学)内に世界唯一とされる煙火研究室を設立、専任教員として学生たちを教える立場に。

「煙火は花火の専門用語のことですが、今まで煙火専門の研究・教育機関は日本にはありませんでした。煙火の学問的な研究は、煙火に関心を持つ火薬学研究者が個別に行い、火薬学の研究・教育は東京大学および九州工業大学に所属する研究室が行っていました。ところが、これらの研究室も時代の趨勢(すうせい)によって存在しなくなったということで、研究を存続させるために設置された経緯があります。研究室に所属する学生は、家業として花火に携わり、将来的に引き継いでいきたいという志を持った生徒、花火の美しさに心を引かれたという学生が多いですね」

柔和な表情で取材に応じてくれた丁教授

瞬間の「美」をひもとく

花火は言うまでもなく、エネルギー物質である火薬の燃焼により光、色、音、煙などを発生させて“瞬間の美”を表現するものだ。これを研究するにあたって、どのようなプロセスが必要なのだろうか。

「やはり爆発というのは瞬間的な現象ですから、これをひもといていくには高性能な計測機器や高度な計測技術が必要になります。ハイスピードカメラや圧力計測システム、分光光度計を用いながら、各種燃焼実験を実施。実際に花火を製造することは火薬類取締法の関係でできませんので、少量のサンプルを作って実験を重ねていきます。規模の大きい実験としては、近隣の花火業者に協力をいただきつつ大学グラウンドで行う打ち上げ実験のほか、渡良瀬川上空に大輪の花火が上がる足利花火大会での計測実験があります」

実験で使用されるハイスピードカメラ「ファントム」を手にする丁教授

グラウンドでの打ち上げ実験では3号玉(直径9cm)程度の花火を打ち上げて計測する

研究室を設置して十数年。近年では研究の成果による提案が花火業者に採用されるケースも出てきているという。

「例えば花火を製造する上でポイントとなる“色の表現”に関して、きれいな青色を出すのが難しいとされています。そこで私たちがさまざまな配合を試す中で、一番よかったものを提案するなどしています。

また、花火の製造に関する安全性も重要な課題の一つ。緑色を出すために使われる硝酸バリウムという物質があるのですが、これは劇物であり、かつ固まりやすく作業効率が低下するという欠点がある物質です。代替物質として、胃のX線検査によく使われる硫酸バリウムを使用し、なんとか同等レベルの緑色を出せないかと研究を重ねたところ、2017年に成功。職人の方々に実用レベルで私たちの研究が生かされるよう、日々研究を続けています」

明文化されていない花火のイロハを後世に残す

冒頭で述べたように、花火の作り方は門外不出。そのルーツをたどろうとしてみても、正確な情報が残されていないのが現状だ。

そんな中、煙火学研究室では、数百年前の花火を現代に再現する試みも行っている。江戸時代の花火は黒色火薬が燃えるだいだい一色のみで、現在の手持ち花火に近い「大牡丹」や、ほとんど形が変わらずに現在も販売されている「トンボ」などが庶民に広く親しまれていたという。

花火作りの原料となる黒色火薬

(C)Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

「江戸時代に発行された『花火秘伝集』という文献をもとに、当時のおもちゃ花火を再現する試みを行いました。使われた火薬は黒色火薬と鉄粉のみ。その他の材料も紙や竹、ひもやのりなど、当時手に入れることが可能であった物質のみを使用しています。このような情報を資料として残していくことも、大きな意義があると思っています」

江戸初期に発行された文献『花火秘伝集』。写真左は表紙、写真右は両国納涼図

歌川国貞(豊国)・広重 江戸自慢三十六興 両こく大花火

(C)hanako / PIXTA(ピクスタ)

古来より親しまれ、“花火といえばまずこれを思い浮かべる”という方も多いであろう線香花火も、もちろん研究対象だ。

「線香花火は火花を発生させる鉄粉を原料に使用していないのが特徴です。その代わりに燃焼速度の低い黒色火薬を使用することにより、数十秒の小さなストーリーが生み出されています。

線香花火はとてもシンプルな花火ですが、実際に公開されている手順通りに作ってみても、なかなかうまくいきません。やはりそこには職人それぞれの感覚など高度なテクニックが生きているんですよね。うまく作るには、燃焼速度の低い火薬を調合することと、半紙を使って転がすようにしっかりと巻いていくのがコツです。本物の線香花火と同様のものは法律上作れませんが、代替物質を使えば簡単に自作できます。大人がしっかり見守るという条件付きなら、夏休みの自由研究にもおすすめですね」
※後編の最後に紹介するのでお見逃しなく!

後編では、今後起こりうる花火業界の変化について、そしてぜひとも訪れたい注目の花火大会について、丁教授に話を聞いた。



<2018年8月2日(木)配信の【後編】に続く>

ますます進化を遂げる「“見せる”花火」、未来への展望とは?

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