特集
“クルマ”と“人”が創る新たな社会

クルマと駐車場所の双方向で連携!“クルマだけで駐車”してくれる未来

Autonomous(自動運転)の今

クルマ社会が目指す未来を示す言葉“CASE”【「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Services(共有化&サービス)」「Electric(電動化)」】の2つ目のキーワード「Autonomous」。すでに自動運転を標榜(ひょうぼう)するクルマもTVCMに登場しているが、完全自動運転の実現にはクリアしなければならないハードルは多い。今回は「自動バレー駐車」という側面から自動運転にアプローチしている企業・アイシン精機株式会社をモータージャーナリストの川端由美さんと共に訪ね、現状を体験してきた。

「自動駐車」のその先を目指して

2017年10~11月に開催された「東京モーターショー2017」では出展した多くのメーカーが将来的な自動運転の実現に言及。最近のTVCMにおいては、使用条件こそあるものの「自動運転技術搭載」をうたうクルマも登場している。さらに日産の電気自動車「リーフ」などは「自動駐車」を実用化した。

愛知県に本拠地を構える自動車関連企業・アイシン精機株式会社(以下、アイシン)が開発を進めるのは、自動駐車からさらに一歩進んだ「自動バレー駐車」だ。

ちなみに「バレー駐車」とは、ホテルなどでクルマ寄せに止めるとドライバーは降車、代わりにホテルマンなどが駐車スペースにクルマを移動させるサービスのこと。つまり、このホテルマンの役割をクルマ自身に行わせようというのが「自動バレー駐車」となる。

「自動バレー駐車」について、アイシンは3段階のステップアップを経ることで実現しようとしている。

アイシンが目指す自動駐車のステップアップ概念。2020年までに自宅などでの自動駐車、2022年までにマンションでの自動駐車、そして22年以降に完全自動バレー駐車を実現させたいとしている

第1段階は、戸建ての自宅駐車場における自動駐車だ。

これはクルマに搭載されたカメラと超音波センサーにより駐車空間や障害物を認識。停車位置はあらかじめ決まっていることから、停車位置までの経路をクルマに学習させることで駐車を行うものだ。

第2段階は、マンションなど集合住宅の大型駐車場における自動駐車。

戸建ての駐車場に比べ、複数台のクルマが止まる場所での駐車となる。しかしこちらも定位置へ停車することから、基本的な考え方は第1段階と同じ。駐車場入口から停車位置までの距離や障害物は基本的に普遍的なものとし、駐車空間などを認識・学習させることで駐車できるようにするものだ。

ただし第1、第2段階がまず目指すのは「乗車型」だ。駐車空間や普遍的な障害物はクルマが認識できたとしても、例えば、突然子供や小動物が飛び出してきたり、物が落ちていたりといった不測の事態への対応はドライバーが行う必要があるからだ。

そして第3段階が、自動バレー駐車だ。

こちらはカーシェアリングや大型商業施設などの人が入らない専用に管理された駐車場のためのものとなる。そして今回のテーマ、取材体験レポートはこの自動バレー駐車である。

アイシンの「自動バレー駐車」とは?

「自動運転というと、現在ではさまざまなセンシング技術が注目されています。しかし、われわれがまず目指しているのは“IPA(アイパ)”を商品化した延長線上の技術革新で行う『自動バレー駐車』です」

そう話すのは、アイシンの走行安全商品本部の大下守人本部長だ。

アイシンの走行安全商品本部長を務める大下常務

アイシンは2003年に世界初の自動操舵駐車支援技術「IPA」を開発。トヨタのハイブリッドカー「プリウス」に搭載した。

これはクルマを停車させた後、カーナビのディスプレーに映し出された車両後方画像の画面上に目標位置を設定。後退し始めるとステアリングが自動的に操作されるというものだった。ドライバーは安全を確認しながらブレーキ操作をすればいいだけだ。

「IPAはその都度設定しなければいけない煩わしさなどから、あまり実用的ではなかったかもしれません。しかし、IPAがあったことで現在の自動駐車につながっているのは事実です」

当時、「IPA」が使用していたのはクルマに搭載されたカメラのみ。国産車や欧州車を問わず、現在自動駐車を実用化しているクルマには、前後左右に4台のカメラと12個の超音波センサーが搭載されているのが一般的だ。

アイシンが目指す3段階のうち、第2段階まではこのクルマ側の装備で対応する。しかし第3段階の「自動バレー駐車」は、クルマの他にもう一つの要素が必要となってくる。インフラ側の装備だ。

「自動バレー駐車の特徴は、駐車場内に設置されたカメラとそれをコントロールする管制センター、そして自動駐車機能を持つクルマが連携することにあります」

管制センターには2つの役割があるという。1つは“駐車場の地図を管理し、クルマ一台一台に走行ルートを送信する”ことだ。

「自動バレー駐車を行うためには、駐車位置を示す地図をクルマが認識することが必要です。しかし、クルマ側にはその地図を作る機能がありません。だから停車位置の指示がついた駐車場の地図を、管制センターからクルマに通信することで補おうと考えています」

このアイデアには、モータージャーナリストの川端さんも「いちいちクルマが地図を作成しようと思ったら、その機能を持たせなければなりません。手間もコストも大きくなるので、インフラ側から送るというシステムは効率的ですね」と感心する。

管制センターのモニター画面。右上は自動駐車するクルマの軌跡を示す。左下はクルマに送信されるマップ。クルマは緑色でマーキングされた駐車枠を目指す

2つ目の役割は“安全の担保”だ。

駐車場に進入すると、クルマはカメラとセンサーを頼りに走行する。しかし、クルマに搭載されたカメラだけではどうしても見える範囲が限られる。曲がり角の先に不測の障害物があったとしても事前に確認することは難しい。

「それを駐車場内のカメラで検知し、その情報をクルマに送ります。この2つの役割をクルマではなく管制センターが担い、そして連携することで現状のシステムを活用しながら、一歩先の自動バレー駐車が実現できると考えています」

「自動バレー駐車」の実現に向けて

クルマと駐車場が連携することで実現しようという「自動バレー駐車」。ここで見えてくるのは、駐車場側の負担だ。

「自動バレー駐車の実現をまず目指しているのは、個人ユーザーではありません。カーシェアリングや大型商業施設の駐車場です。それゆえクルマに送信する地図も、一度作ってしまえばその後も活用できるメリットがあります。もちろんインフラ側のコストは上がりますが、このサービスを集客に役立つものと捉えていただければと思います」

アイシンではすでに幾つかの事業者と実証実験の準備をしているという。その中で事業者側のコストを抑える施策も取られる予定だ。

「駐車場内の監視はカメラだけで行おうと思っています。センサーまでは考えていません。というのも、事業者様からもカメラを使いたいという意向があるからです。理由は、防犯。録画して記録を残せるという意味でも、カメラの活用には積極的です」

確かに大型商業施設などでは、高い位置に監視カメラを設置している駐車場が見られる。川端さんは、「既存の設備を利用することで対応できるのは、設備投資の面からいっても大きなメリットですね」という。

「実用化のめどは、実証実験で可能性を見極めた上で2022年以降を目指します。ただ使い方をアレンジすること…例えば、無人の完全自動バレー駐車ではなく、乗車型とすることで実用化の実現性を高めることができるかもしれません。インフラ側から地図などの情報をクルマに伝えるのは同じ。ただし、緊急時にはドライバーに対応していただくということです」

乗車型であれば、クルマのキーの管理についても新たなシステムを導入しなくて良い。

「自動バレー駐車の完成形は、ドライバーは駐車場入口でクルマを降り、駐車場に用意された操作パネルなどから指示を出すだけ。あとはクルマと管制センターが連携しながら自走して駐車する、ということです」

では、クルマのキーはいかにして管理するか。

「検討しているのは、電子的なキーのコピーを作っていただき、その権限を一時的に管制センターに預けてもらうこと。そのキーは電子的なものなので、一回の入出庫が終わると消失するようにします。ただ、そういったシステムをカーメーカー様に用意していただく必要があり、これはハードルが高いと思っています」

その意味からも、まずは乗車型から始めるのが現実的かもしれない。

「カーシェアリングやレンタカー事業者様の駐車場であれば、実際に入出庫時にキーの受け渡しが行われていますからね。親和性は高いと思います」

乗車型の自動駐車や自動バレー駐車に適した駐車場など、実現可能なところからスタートさせる。その先にさらなる進化が待っていると考えるのが良さそうだ。

自動バレー駐車の流れ。「無人による完全自動駐車には、自動運転レベル4以上のクルマが求められると思います」と大下本部長

レベル4は、SAE(米国自動車技術会)が定める自動運転の定義。詳しくはこちらを参照

自動バレー駐車の先にある「自動運転」

まずは乗車型の自動駐車から実用化を目指すアイシン。その過程でさらなる開発を進めようとしているのが、各種センサーの性能を引き上げることだ。

「乗車型ではドライバーがクルマの動きや周辺環境を監視することが必要です。ただし、そこでわれわれが考えるのは“ドライバーを監視する”こと。つまり、“ドライバーがきちんと周囲を見ているかをクルマが監視”するわけです」(大下本部長)

このドライバー監視技術について、「アイシンは2006年に車内やドライバーを監視するモニターの商品化を実現しているんです」と川端さんは語る。レクサスのフラッグシップモデル「LS」に搭載された、衝突回避支援型プリクラッシュセーフティシステムのドライバーモニターのことだ。

自動運転に関する川端さんの質問に答える藤江直文アイシン精機取締役副社長。「ブレーキ、サスペンション、パワートレイン分野において、自動運転のさまざまな商品を開発しています。走る、曲がる、止まるに関するECU(エンジンコントロールユニット/電子制御装置)とアクチュエーターを活用することで、車両運動制御を実現できると考えています」

このドライバーモニターは、ステアリングコラムにカメラを搭載。ドライバーが正面を向いていなかったり、目を閉じたりしている状態が続いていると認識し、衝突の可能性があると判断した場合、通常よりも早く警報ブザーと表示で警告する。さらに先行車両への追突の可能性が高まると、警報ブレーキを作動させるものだ。

川端さんは「実際に体験させていただいたことがあります。多少、視線を外したくらいではそれほど反応しませんでしたが、長めにあらぬ方向を向くとちゃんとアラートが鳴りました。その感度も最近は上がっていると思います」と実感を込めて語る。

「かなり視線は取れるようになっています。これは、いろいろな用途に使えると思いますよ。例えば、運転中に急病に襲われた場合の対応など。この分野は社会的要請だと思って、開発を進めています」(大下本部長)

欧州では、“デッドマンズ・コントロール”といい、ドライバーが運転中に死亡したときなど、その不測の事態を感知し、緊急停車するシステムが採用され始めている。川端さんは「アウトバーンなどの高速道路でドライバーの意識がなくなったら、周囲に及ぼす影響は甚大です。それを最小限に抑えるためにも必要なシステムで、今後は日本でも法規的な整備が検討されていくと思います」と説明する。

自動駐車を行う車両に同乗したときの1シーン。安全を担保するためにドライバーは乗車しているものの、ステアリングには一切手を触れていない

ゆえに「先進安全が最初に来て、そこから自動運転になると思うんです」と大下本部長は語る。

「まずは普及版を作ることが大事だと思っています。ハイエンドのクルマにだけ装着してもクルマ社会全体の安全を考えた場合、メリットは小さいですからね。安全に有用なものは、いかに広く普及させるかが大事。その先に自動運転という未来が開けていくんだと思います」

快適な未来は、決して突然やって来るものではない。安全への担保と地に足のついたステップアップ。それを積み重ねていくことで、自動バレー駐車も、自動運転という未来も、きっと近づいてくるはずだ。

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