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東京外環全通を目指して!日本最大規模の道路トンネル工事が着工中

関越道─中央道─東名高速を結ぶ首都圏の新たな大動脈建設現場で、エネルギー効率の高い日本最大規模の“シールドマシン”が活躍

東京都心に向かう道路の慢性的な渋滞の解消や災害に強い街づくりを目指して、幹線道路網の重要な骨格となる環状道路が急ピッチで整備されている。都心から約15km圏域をぐるりと結び、現在開通区間が約4割の東京外かく環状道路(以下、外環)。未開通区間のうち、東京都下にあたり、住宅密集地となる関越自動車道(以下、関越道)の大泉JCT(ジャンクション)~東名高速道路の東名JCT(仮称)間では、地下40mの位置で約16kmにわたりトンネル建設が進行中だ。3本の高速道路を結ぶ大動脈の建設を担当するNEXCO中日本 東京支社 東京工事事務所 内田美範(よしのり)工務課長らに話を伺った。

関越道から東名高速までをトンネルでつなぐ一大プロジェクト

ことしの3月23日、大きなニュースが飛び込んできた。

それは、「東京外かく環状道路(三郷南IC<インターチェンジ>~高谷JCT)がことし6月2日(土)に開通」するというものだ。これにより外環の約6割が完成し、5つの放射道路(東関東道・京葉道・常磐道・東北道・関越道)が接続。首都圏に流入する路線の渋滞緩和などが期待され、関東圏において流通にかかるエネルギーの効率アップにもつながる。

そもそも外環とは、都心部から約15km圏を環状に連絡する長さ約85kmの道路のこと。完成により、首都圏の渋滞緩和、環境改善など円滑な交通ネットワークが実現されると見込まれている。これまで関越道と交差する大泉JCTから三郷南ICまでの約34kmが開通。先述の三郷南ICから高谷JCTまでの約16kmが、今まさに開通を待っている状態だ。

これで残るは、東京の西側部分のみ。関越道と接する大泉JCT(練馬区大泉町付近)、中央道と接する中央JCT(仮称/三鷹市北野付近)、東名高速と接する東名JCT(仮称/世田谷区宇奈根付近)を結ぶ、延長約16kmの工事が本格的に始まっている。今回はその区間の中で東名JCT(仮称)から発進する、「北行トンネル」の工事を担当しているNEXCO中日本に話を伺った。

「関越道から東名高速までの約16kmについては、国土交通省、NEXCO東日本、そしてNEXCO中日本が共同で事業を進めています。大きな事業なだけに、非常にやりがいがありますね。現状、(一般道の)環状8号線を使うと大泉JCTから東名JCT(仮称)まで約60分かかっていますが、外環が開通すれば約12分での到着を見込めるというデータがあります。この数字が示すように、外環を整備することで都心部への流入を抑制し、渋滞の解消につながる。そのことこそがわれわれのモチベーションになっています」

そう語る内田氏は続けて、今回の工事の大きな特徴である日本最大径のトンネル工事について教えてくれた。

「この大泉JCT~東名JCT(仮称)区間は1966(昭和41)年、東京都によって都市計画が決定しました。元々は、いわゆる“高架方式”での高速道路建設という計画でしたが、用地取得をめぐる問題など、大小さまざまな壁が立ちはだかったのです。時は流れて2007年、地上部への影響を抑えるべく地下方式へと計画が変更されました。

そして当初の計画からおよそ50年たった2017年2月19日、ようやく本線トンネルを掘削する工事が始まりました。今回、最大の特徴が“日本最大径のシールドトンネル”を使用するということです。トンネル外径が15.8m(マシン外径16.1m)。これは世界的に見ても相当な大きさです(東京湾アクアライン…外径13.9m、スペイン・マドリード環状道路…外径14.7m)。これを大泉JCT~東名JCT(仮称)区間で同時に掘削している『北行トンネル』『南行トンネル(発注者:NEXCO東日本)』で用いています。完成すると片側3車線、合計6車線の道路となります」

「放射状になっている高速道路を環状的な道路でつなぐという取り組みは、欧米(イギリス、フランス、ドイツなど)だけでなく、アジア(韓国、中国など)の諸外国の都市部ではすでに実践され、効果を発揮しています」と語る内田氏

外環は首都圏の慢性的な渋滞の解消、災害に強い街づくりを目指し、首都高速中央環状線、首都圏中央連絡自動車道に続く3つ目の環状道路として期待が高まっている

イメージ図提供:東京外環プロジェクト

構造を高架方式から地下トンネルへと計画変更した大きな要因の一つ、用地取得問題。東京の西側には特に住宅地が密集しているが、地下化によって問題は解決したのだろうか?

外環東名北工事長の佐野昌嗣氏が説明してくれた。

「今回の工事は、地下約40mの場所で行われています。いわゆる“大深度地下”と呼ばれるもので、2001年に施行された『大深度地下の公共的使用に関する特別措置法』による地下利用の新概念です。これによって、トンネル工事に関しては法に基づいて行うことができています。もちろん、各JCTやICに関しては、いったん地上に出なければなりませんが、その周辺の用地取得に関しては、ありがたいことに多くの方々にご協力を頂いております」

「高架ではなくトンネルにするメリットもあります。例えば、車から出る排気ガスはフィルターを通してきれいな空気にして外に放出されます。将来的に見て、環境面でも貢献できると思っています」と佐野氏

日本最大規模のシールドマシンが掘削に大活躍

このように、地下約40mの地点で行われている日本最大のトンネル工事。規格外の工事だけに、使用する重機も並大抵なものではない。今回のトンネル掘削に使用しているのは、日本最大級の“シールドマシン”。放射線状に配置されたビット(歯)が回転し土を堀削。削られた土を内部に取り込み後方へと運び出す。さらに土を削ったところにセグメントと呼ばれるパネルを組み合わせてトンネルの壁を作りながら、トンネルの壁に反力をとり、マシンを前へと推し進めていくというものだ。このマシンと“シールド工法”について、佐野氏が教えてくれた。

「シールドマシンは、直径約16mのカッターヘッドと呼ばれるものを装備しています。約10~15cmのビットが約1000個、放射状に配置され、回転することで土を削りながら掘り進めていくことができるんです。この技術によって、建設中は地表の道路交通や住民の日常生活に影響が少なく、また騒音や振動も抑えられます。さらには、トンネル全体の密閉性が高いので、地下水への影響も少ないとされています。これが“シールド工法”と呼ばれるトンネル掘削技術です」

北行のシールドマシンには「がるるん」という愛称が付けられた。カッタービット(掘削効率を上げる超硬合金の刃)は掘削場所によって粘り強さが高いタイプ、摩耗に強いタイプと異なる材質のものがはめられ、より長距離の掘進に耐えられるよう工夫されている

イメージ図提供:東京外環プロジェクト

さらにシールドマシンに関して、外環北行シールドJV工事(株式会社大林組・西松建設株式会社・戸田建設株式会社・株式会社佐藤工業・株式会社錢高組東京外かく環状道路本線トンネル<北行>東名北工事特定建設工事共同企業体)事務所所長・大井和憲氏(大林組)が補足する。

「今回使用しているシールドマシンは、あまりに巨大過ぎて運搬は不可能です(通常は完成されたマシンを縦坑より搬入)。なので、パーツにばらして陸送し、地下で組み立てるのですが、パーツ1つをとっても約25tもあります。それが約200のピースに分かれているのです。800t、500tといった(つり上げ能力を持つ)国内最大級のクレーン車を使って組み立てるのですが、それだけでも実に8カ月の月日を要しました。これらの数字だけを見ても、日本最大のものであるということが理解いただけると思います」

シールドマシンの前面に設置される土を削るカッターヘッド

写真提供:東京外環プロジェクト(撮影:土木写真家 西山芳一氏)

「より工事の透明性を高めるために、地下の掘削を行っている周辺地域の住民の方々に掲示板やHPなどで、今どこの地点にシールドマシンがあるのかというのを報告させていただいています」と大井氏

カッターヘッドを立坑内に投入する様子

写真提供:東京外環プロジェクト(撮影:土木写真家 西山芳一氏)

また、シールドマシンを使用する利便性の一つに、削られた土砂の運搬のしやすさがある。マシン前面のカッターヘッドが回転して削った土は、ヘッドの裏側にあるスクリューコンベアを通って後方へ運び、地上へと続くベルトコンベアに載せ、常時搬出することができる。作業時間を短縮し、エネルギー効率を向上させる技術だ。

「われわれは“後続設備”と呼んでいますが、前へ進むカッターの後方に、セグメントなどをトンネル先端まで運ぶ自走式の台車と、掘削により生じた土砂を後方の縦坑まで運搬するベルトコンベアを設けています」(佐野氏)

トンネルを掘り進め、同時にトンネルの壁面を造り、そして掘削した土砂を外に出す。これだけでも十分効率的だが、それをよりスピーディーに行う“知恵”がさらにあった。それが、最新鋭の技術が詰め込まれたシールドマシンの「二重カッター方式」だ。

掘削された土砂が集中しやすい内周部を、外周部の約2倍の速さで回転させ土砂の流動性を上げることで、掘削の速度とエネルギー効率を向上させようというもの。この方式を採用することで消費電力が30%減少するなど、省エネ効果にもつながっているという。

また、この土砂も埋め立てや盛土の河川事業などの公共事業に再利用されるというから、エコロジーの観点からも環境に優しい工事となっている。

シールドトンネル工事のイメージ図。東名JCT(仮称)側から約9.2km、大泉JCT側から約7kmを同時に掘削し、総延長約16kmの道路トンネルを造る。双方から掘り進め、貫通した際の誤差は数cmというから、測量の精度には驚きだ

イメージ図提供:東京外環プロジェクト

安全第一に地域や日本に貢献していきたい

そして、これだけの大工事ながら工事用の出入口は各JCTのみ。「北行トンネル」では、東名JCT(仮称)から川崎方面に1.2kmの地点に工事用の臨時出入口を設置。工事に使用するトラックでの資材や土砂の運搬を、一般道の渋滞などの影響を受けることなく、また、一般人の日常に極力影響を与えないように行っている。こちらも安全かつエネルギー効率よく作業できる工夫がなされているようだ。

工事現場の付近には、大規模な資材置き場や土砂置き場を設けて、輸送にかかる手間などを軽減させている

写真提供:東京外環プロジェクト

関越道から東名高速までを日本最大のトンネルでつなげるという大規模なプロジェクト。その先に待っているのが、延長約85kmにも及ぶ、東京外かく環状道路完成という金字塔だ。

しかしながら、規模、用地取得、予期せぬトラブルなどを考慮し、完成時期については「現時点ではっきりとした時期を見通すのは難しい」(内田氏)と言う。外環が1日でも早く完成し、実際に車で走行するその日が来ることを楽しみに待ちたい。

最後に内田・佐野両氏に、このプロジェクトに関わった率直な感想を伺った。

「外環が完成すれば、世の中的にも相当なインパクトがあると思います。特に、この事業(外環:関越~東名)が終わると、われわれが目指した渋滞緩和などの効果が、より大きな形で発揮されると信じて用意を万全にし、これからも取り組んでいきます」(内田氏)

「全ての規模がとにかく桁外れなので……現場に行くたびに思うんですよ。これほど大きなトンネルの断面を見るのはわれわれプロでも初めてだな、と。だからこそ、さまざまな知見やこれまで先輩方が培ってきた経験を結集しています。改めてこのプロジェクトに関われていることを誇りに思いながら、まず安全を第一に考え、地域の皆さん、日本社会のために貢献していければと思っています」(佐野氏)





※老朽化したトンネルを点検する新手法についての記事はこちら

※地下40mの“超巨大水路”で水都・東京を掲げる大林組の「スマート・ウォーター・シティ東京」構想はこちら

NEXCO中日本 東京外環プロジェクトメンバー(左より内田氏、佐野氏、大井氏、外環北行シールドJV工事事務所 副所長・木村勉氏)

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