2018.1.30
道路の下で新鮮野菜を作る地下植物工場に潜入!
LED照明でレタスを栽培する「幕張ファーム vechica(ベチカ)」
未来を創る最先端の現場を訪ねる「大人の未来見学」。今回は、東京湾岸に位置する千葉県習志野市にできた地下植物工場を訪れた。地下深くで目にしたのは、まるで未来の農園だった!
地下にできた植物工場
東京から電車で約30分、取材班が降り立ったのはJR新習志野駅。
ここは幕張メッセや超大型ショッピングモールがある海浜幕張駅の隣駅で、少し歩けば東京湾を望むこともできる都市郊外の居住地域だ。
大型家具店やレジャー施設などを横目に目的の地下植物工場まで歩いて行くこと約15分、“地下工場”という言葉から、メタリックで仰々しい秘密基地のような姿をイメージしていた。
が、思いの外かわいい。
とんがり屋根の入口とプレハブ小屋が一つ。一見、この地下に植物工場があるなんて、全く考えに及ばない。
この工場、正式には「幕張ファーム vechica(ベチカ)」といい、搬送機器メーカーの伊東電機(兵庫県加西市)が運営している。
ちなみに「ベチカ」とは、ベジタブルの「ベ」、千葉の「チ」、地下の「カ」を並べた造語だそう。
長年遊休化していた県保有の地下共同溝を活用し、第6次産業を実現させようという試みで、2017年12月に自動型植物工場施設の実用化を目指す実証実験がスタートしたところだ。
搬送機器メーカーがなぜ野菜、とも思うかもしれないが、「セル式モジュール」「自動搬送システム」といった技術が採用されているそうで、同社が本業で培ってきたノウハウを野菜栽培に転用した形になっている。
では、いったいどのように地下で野菜を栽培しているのだろうか。
コンクリートと闇に包まれた空間
とんがり屋根の建物の横にある入口から、内部に潜入。そこには…
地下深く延びる階段が。
装飾気のないコンクリート打ちっ放しの壁に、鉄製のメタリックな階段、ひんやりした空気、外観からは一転、まさに“地下工場”のイメージ通りの空間が広がっていた。
地上の建物とのギャップにも驚きだが、逆に本当にここで野菜を栽培しているのか疑問符が浮かぶ。
階段を降りること10m、そこから横道をさらに数m歩くと、左右に延びる長い通路に出た。
幅約5m、高さ約3.5m、全長約1.1kmにも及ぶ空間。幕張新都心地下共同溝と呼ばれ、同施設に向かうために歩いてきた…
道路の下にある。
道路の地下に下りたことがある、という人は少ないと思うが、ここに広がる空間は想像通り。
コンクリート。
パイプ。
暗闇だ。
およそ人に見せるという意識を排除した造り。そもそも自動型植物工場であるがゆえに、栽培時にもこの場所に人が入ることはほとんどなく、ある意味で最適化されている。
先ほどの暗闇が広がる空間の逆側に、くだんの野菜工場があった。
LEDの光で育てられる新鮮野菜
ポリエチレン素材風のシートに包まれた入口を抜けると…
整然と並んだ棚。
棚。
この棚こそが、地上でいうところの畑にあたる。
幅約1m、長さ約2.4mのセルと呼ばれる栽培槽5段ひと組にした棚を縦に6台連結し、1つのユニットを構成。5段のうち4段は栽培棚、最上段の5段目は搬送用のコンベヤーが走っており、地上と地下を結ぶリフトにつながっている。
セルの内部は、まさに人工の畑。畑にある土を盛り上げた場所(うね)をイメージするといい。
各段の天井に取り付けられたLED発光プレートが植物を照らし、側部にあるチューブから養液を供給。内部に設置されたファンで風を起こし、栽培空間の温度と二酸化炭素濃度を均一化、さらに適度な気流を生み出している。
レタスを栽培する場合、地上の工場で栽培パネルと呼ばれるトレーに種をまき、育てること20日間。高さ約3cmになったら、リフトとコンベヤーで地下に搬送する。
1つの栽培パネルには24株の野菜が収納されている。1つのセルには縦に4枚の栽培パネルが収納されるため、4枚×セル6台の24枚が一列に並ぶ。1日につき1パネルが追加され、その分1パネルが押し出される仕組みになっており、24日周期で収穫できる。
現状では、このユニットを2列配しており、24株×4段×2列=192株、およそ200株が毎日自動的に収穫できることになる。
200株というボリュームは畑で生産された野菜に比べれば少ない印象だが、これが毎日、しかも自動で収穫できると考えると、そのポテンシャルは無視することはできない。
現在の実証実験では、フリルアイスやバタヴィアという品種のレタス、ベビーリーフや食用花を栽培している。同社によると、一般的な植物工場で栽培されるレタスは1株70g程度だが、ベチカのレタスは90~100g。収穫された野菜は、社会活動の子ども食堂などに無償提供されているそう。
実際に栽培されたレタスを食べてみたが、市販品に遜色なく、普通においしい。青空の下で自然の光を浴びていないとは思えないほど、緑色も鮮やかで、シャキッとした食感もみずみずしい。
「地下工場」という言葉から抱いていたマイナスイメージは、完全に払拭された。
人工光植物工場の未来
一般社団法人日本施設園芸協会が行った実態調査によると、2016年2月時点で人工光利用型の植物工場・大規模施設園芸の施設数は全国で191カ所(その他、太陽光・人工光併用型は36カ所)。2011年3月時点では64カ所であり、5年でおよそ3倍に伸びている。
延伸を後押ししたのは、初期投資はかかるものの、季節や天候の変化に左右されず、計画的かつ安定的に植物を生産できるという大きなメリットが要因の一つだろう。
さらに今回の地下植物工場は、これら従来型の野菜工場からもう一歩進んでいる。それは、生産コストの大幅低減だ。
生産コストの30~40%を占めるというエネルギーコストだが、これに効いてくるのが地下空間という立地。一般的な野菜工場の場合、気温や湿度を安定させるために施設内に空調設備が必要になり、その消費電力が大きなコストとなる。
同社によると、日産5000株を生産する従来型の植物工場は、1日あたりの消費電力量が8190kWh。それに対し同工場は2500kWhと、約3分の1の電気料金で抑えられるという。
18℃程度で気温が一定な地下空間を利用することで空調を使用しない。野菜を栽培する場所として疑問を持っていたが、これほど最適な場所もないかもしれない。
「ベチカ」の第1期検証期間は約1年。地下空間での最適な栽培条件を洗い出し、量産体制の準備、市場の開拓なども行っていく。1年後には日産2000株、2020年には日産5000株を量産できる設備に拡張すると共に、地上に栽培した野菜を出荷するインフラを整える計画だ。
食の安全性が取りざたされる昨今、スーパーに並ぶ野菜には生産地名と共に生産者の顔と名前が表示されることも多い。地下植物工場で生産された野菜が出荷されることになった場合、生産者の顔は表示されることなく、「生産地:○○市地下工場」となるのだろうか。食物の何を安全と考え、何を求めるのか。消費者に選択肢が増えることは、決して悪いことではない。
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text:中村大輔