スポーツマネジメントの極意

漂う空気を感じ取れ!ラグビー世界的名将が挙げる「強いチーム作り」の条件

ジャパンラグビートップリーグ(TL) パナソニック ワイルドナイツ監督 ロビー・ディーンズ【前編】

ラグビーワールドカップ(RWC/第9回)2019日本大会の開催までいよいよ1年を切った(2019年9月20日~11月2日開催予定)。そこで今回・次回と2回連続で、日本で指揮を執るラグビーの世界的な指揮官に登場してもらう。今回は、TLで4度の優勝を誇る強豪チームの一つ「パナソニック ワイルドナイツ」で2014-15シーズンからチームを率いるロビー・ディーンズ監督。ラグビーオーストラリア代表をはじめ、強豪国リーグの名門チームでヘッドコーチを歴任した世界最高峰の名将の一人に、チームを常勝へと導くマネジメント術を聞いた。

チームにおいて最も大切なアマチュア精神

2015年ラグビーW杯で南アフリカ代表を破るなど、確かな成長を見せているラグビー日本代表。

実はその前後から、日本代表やジャパンラグビートップリーグの各チームは、選手の強化・育成だけでなく優秀な指導者の招聘(しょうへい)に心血を注いでいた。その中で、日本ラグビー界の古豪・パナソニック ワイルドナイツが2014-15シーズンからチームに迎え入れたのが、2013年までラグビーオーストラリア代表でヘッドコーチを務めていたロビー・ディーンズ氏だ。

ディーンズ氏は監督就任前の2013年からパナソニック ワイルドナイツのスポットコーチとして指導に当たっていた

ラグビーの世界ランキングで1位(2018年10月現在)を誇るニュージーランドで生まれたディーンズ氏は、カンタベリー州のラグビー代表選手としておよそ20年間プレー。フルバックとして通算146試合に出場し、1983~85年までオールブラックスの愛称で知られるニュージーランド代表に選出されている。名実ともに世界最強とうたわれるラグビーチームで5キャップを記録するなど、超一流の実績を残してきた。

輝かしい実績を残してきたディーンズ氏だが、意外にも現役引退直後は指導者としてのオファーを断っていたという。その理由について「アマチュア」と「プロ」という表現を用いてこう話してくれた。

「現役時代はアマチュアとして自分が愛しているラグビーをやっていましたが、プロのコーチになるということは自分が好きだったものがそうでなくなる可能性があります。その部分を心配していました」

“好きなことを仕事にする”というのは、一見聞こえはいいが、若き日のディーンズ氏が考えたように好きなものが嫌いになる恐れもある。ラグビーというスポーツを本当に愛しているからこそ、嫌いになりたくないという葛藤が垣間見られる。

それでも、1991年にはかつて在籍したカンタベリー州のU-21コーチから指導者としての活動をスタートさせたディーンズ氏。以降、指導者としてのキャリアを積み重ねる中で、あることに気付いたという。

指導者になる前のディーンズ氏は、牧場経営や流通業など異業種で働いた経験も持っている

「プロとしてラグビーの指導者になったころは、一番いい選手・経営資源を持っているチームが強いと思っていたのですが、実際はそうではありませんでした。チームの強さは、組織としてのコストパフォーマンスよりも、プロとしての取り組み方や周りの人たちに対する感謝、自分たちがこの場にいられることに対して周囲をリスペクトできているチームがやはり強い。それはお金で得られるものではありませんでした」

置かれた環境に対して感謝やリスペクトする心を、ディーンズ氏は「アマチュア精神」と称した。

プロだからといって決しておごらず、常に謙虚かつ愚直にプレーできる選手がいることこそ、究極のチームスポーツであるラグビーにおいて最も大切なのだという。これは他のスポーツはもちろん、日ごろのビジネスシーンにも当てはまるのではないだろうか。

パナソニック ワイルドナイツは第4節(9月22日)、東京・秩父宮ラグビー場でヤマハ発動機ジュビロと対戦。開幕3連勝同士の対戦に15-0で快勝し、無敗を守った

選手の精神面がチームの結果につながる分岐点

ラグビーに限らず、チームが強くなっていく過程では、
1.人に頼りながらやる
2.一人でできるようになる
3.独立した人間同士がお互いを頼るようになる
といった具合にステップを踏んでいく必要がある。

その中で、「常に成長し続けられるか、学び続けることができるか」という点が重要だとディーンズ氏は説く。

「チームが強くなるために必要なことはハートである」と力強く語るディーンズ氏

「成長するために学び続けるには、とてもエネルギーが必要。でも、それができないと“グッド”から“グレート”には上がれません。ラグビーの場合はフィジカル、戦術・戦略、そしてメンタルの三要素がバランスよくそろって初めて一人前になったといえますが、その中でも最も大切なのがメンタルです。

現代のテクノロジーが発達した世の中では、テクニックや戦術については分析され、ある程度はみんなが同じことができる状況が整っていますし、トレーニング法も確立しているので同じような体作りもできるといえます。ですので、差がつくとすればメンタル面なのです」

目に見えないところこそが大事──。

つまり、チームを形成する選手たちのメンタル面の充実こそが、勝てるチームに成長する上で最も大切だとディーンズ氏は感じているのだ。しかし、その基準は自身がチームにしっかりと適応できるか、周りと協調することができるかなど、あまりにシンプルで逆に難解ともいえる。

そこで、ディーンズ氏はチームがいい状況にあるか否かを図るポイントとして、次のように付け加えてくれた。

「そこにいる選手が他のチームメイト一人一人とつながっているか、信頼関係ができているかは、その様子を見てみれば分かります。これはビジネスでも同じではないでしょうか。職場に一歩足を踏み入れたり、訪れたときに、そこで働いている人たちの雰囲気やボディーランゲージなどでいい職場か判断できると思いますが、ラグビーでも全く同じことがいえると思います」

ファーストコンタクトで浮き彫りになった日本人の問題点

そんなディーンズ氏がパナソニック ワイルドナイツと初めて接点を持ったのは2005年(当時は三洋電機 ワイルドナイツ)。自身が監督に就任する実に9年前のことだ。その当時のチームの印象を尋ねると、出てきたのは典型的な日本人のイメージそのものだった。

「選手はみんなラグビーが大好きで、非常に一生懸命に取り組む倫理観を持っていました。でも、チームとして見ると、決められたことや的確な指示に対しては完璧にこなすことはできても、スキルとしてはあまり変わらないものの、内容が少しだけ違うことを要求しただけで、突如ガラリとできなくなってしまいました」

2005年、(当時)三洋電機 ワイルドナイツがオーストラリア・ゴールドコーストで行った合宿時に初めてチームと出会ったディーンズ氏。そこでのカルチャーショックが現在のチームマネジメントにも生かされている

能動的ではなく、受動的に動いてしまうのが日本人の特徴の一つといわれているが、当時はまさに日本人的な選手が多かったのだ。ディーンズ氏は例として、当時、最新のディフェンスシステムといわれていたドリフトディフェンスを指導したときのことを挙げてくれた。

「ボールの動きに合わせて選手一人一人がスライドしていき、最後は相手を外に追いやっていくというのがドリフトディフェンスです。初めて指導した際に、『こんなすごいディフェンスがあるなんて…』と選手が驚いていたことを覚えています。

でも、このディフェンスに対する突破方法を伝えると、『なんで!?』という感じで途端に適応できなくなってしまいました。端的にいえば、状況判断能力に乏しかったからこそ、こうしたとっさの動きに反応できなかったのでしょう。ですので、このチームでまず最初に改善すべきところは、“目の前で起きていることに対して適応すること”だと思いました」

ラグビーというスポーツは、ルール順守はもちろんのこと、ある局面でとりわけ意識しなければならないルールやチームとしての決め事、戦術上の決め事などがある。特に自陣深くに攻め込まれたときによく使われる

決められたこと以外は途端にできなくなる当時のチーム状況を振り返るディーンズ氏

“決められた通りに的確にこなす”というのは日本人の長所でもあるが、一方で、アドリブ力に乏しいのが日本人の課題だとディーンズ氏は感じたという。

それを改善することで、ラグビー界の名門・ワイルドナイツがさらに強固なチームに進化していったのはいうまでもない。

次回は、いよいよディーンズ氏のマネジメント術の神髄に迫る。



<2018年10月26日(金)配信の【後編】に続く>
ディーンズ流のリーダー論とは?驚くべき「選手の“自主性”育成」メソッド

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