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スポーツマネジメントの極意

理想は「監督不在」!? チームを勝利へ導く、驚きの「選手の自主性」育成メソッド

ジャパンラグビートップリーグ(TL) パナソニック ワイルドナイツ監督 ロビー・ディーンズ【後編】

ラグビー強豪国で辣腕(らつわん)を振るってきた世界最高峰の指導者の一人、ロビー・ディーンズ氏。数々の強豪チームを渡り歩いたレジェンドは今、日本のパナソニック ワイルドナイツで指揮を執る。ディーンズ流のマネジメント術、リーダー論に迫る。

「やってみせる」ことが受動的な日本人を変える

2014年にパナソニック ワイルドナイツの監督に就任するまでの間、ロビー・ディーンズ氏はスーパーラグビーに参戦するニュージーランドの名門・カンタベリー クルセイダーズの指揮を執り、世界最強のクラブチームに育て上げた。また他にも、オーストラリア代表のヘッドコーチを兼任するなど、キャリアを積み重ねてきた。

現在、日本の強豪チームを指揮するにあたり、日本人の特性についてディーンズは次のような見解を示した。

「サッカーでも同じことを言われていますが、日本人の速さや俊敏性というのはラグビーにおいても武器となります。ですが、それ以上に感じたのは規律を守る気持ちが非常に強い、強過ぎること。職業倫理感というか、練習や試合でも一生懸命に取り組もうという姿勢は素晴らしいです。ただ、同時にそれが弱点にもなり得ると感じました」

長所が短所になり得る危険性を語るディーンズ氏

ディーンズ氏はさらに続ける。

「規律があるが故に、自分の限界を超えようとしない。決められたことはやるけど、それ以上のことはしない傾向があった。だから、そこから変えていかないといけないと思いました」

そんな現状を打破するために課題となったのは言葉の壁だった。同じ指導でも、日本語と英語ではちょっとしたニュアンスが伝わりづらい。そこでディーンズ氏がエネルギーを割いたのが、“自らがやってみせる”という非常にシンプルなものだった。

「日本語が話せないときにいろいろ言葉を並べても、それは選手には伝わりにくいんです。だから、自分が何を言いたいかというのを1つだけに絞り、それを伝えるようにしました。そして、ただ言うだけではなく、やってみせることが大事です。実際に選手たちに経験・体験をさせて、その中で彼らの理解を深めなければいけません」

「自らも選手と共に汗をかく」ことこそがディーンズ流のマネジメントの一つ

かつて日本の海軍を率いた山本五十六は「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」という格言を残したが、図らずしてディーンズ氏も同じことをしていた。

時代は大きく違えど、人を動かす本質は変わっていないことが分かる。

ラグビーは15人の選手がプロテクターも何も着けずに一つのボールを前へ前へと進めていくという、まさに“シンプル イズ ベスト”なスポーツだ

「恐怖を与えての成功は短期間しか続かない」

そもそも、パナソニック ワイルドナイツはなぜディーンズ氏に白羽の矢を立てたのか? その答えとしてディーンズは自身の見解を交えてこう教えてくれた。

ワールドクラスの指導法でチームに新たな風を吹き込んだディーンズ氏

「恐らくクルセイダーズ時代に私が行っていた指導法があると思います。当時の日本はスクラムやラインアウトといったセットプレーを中心にゲームを考えていましたが、私はアンストラクチャーという、いわゆるボールが動いている状況の中でチームがどう動くかに主軸を置いて組み立てていました。

実際、ゲームの70%はボールが動いている状況で占められているので、そこからの攻撃やディフェンスをどうするか、というところにフォーカスを置いていた私に声を掛けてくれたのでしょう」

一般的に日本人が抱くラグビーのイメージといえば、スクラムなどのセットプレーだが、実際にゲームを見てみると思いのほかセットプレーは組まれていないことに気が付く。

ボールの動きは予測できないので、決められた通りになることは少ない。その中で選手たちはどう対応するか──。

それこそがディーンズ氏の指導テーマとなった。

2018-19シーズンもディーンズ氏の指導の下、ラグビートップリーグ「ホワイトカンファレンス」で混戦の中、激闘を繰り広げているパナソニック ワイルドナイツ

「われわれコーチングスタッフは試合中、スタンドに座っていて何もできません。練習からコーチが全ての指示を選手に出して、その通りにやらせる方法は当然うまくいきません。コーチがやらなければいけないことは選手たちが何を考えているのか、彼らの頭の中にどんなことがイメージがされているのか。それを聞き出して、つかみ取ったその上で選手にとって必要なことを提示していくことです」

旧来の指示を出し、ただ選手に遂行させるやり方ではなく、選手の自主性を尊重するやり方へのシフト。ディーンズ氏の言葉を借りれば「パラダイムシフト」ともいうべき変革に取り組んだ。ディーンズ氏をはじめとする首脳陣は、指示を出す指導法から選手たちに質問し、答えを引き出す指導法へと変えていった。

選手・指導者共にエネルギーを要する改革ではあったが、これが劇的にチームを変えた。さらにディーンズ氏はチームの理想像として次のように語った。

「私がやろうとしたことは、監督・コーチが必要なくなる状況を作り出すこと。選手たちが自分で考え、自分たちで答えを見いだせるような、そんな選手たちを作り出せるチームにしたかったんです。チームが継続して成長していくために、全てのチームに関わる人を成長させるということを常に考え、その中で伸びしろある選手たちをさらに成長させていくことが大事だと考えています」

選手が常に自発的に考え、答えを見いだしてプレーする。失敗したらそれを糧として成長するというまさに理想のサイクルだ。

それは最近話題になる“パワハラ”への強烈なアンチテーゼにも映った。この件をディーンズ氏に尋ねてみると、「パワーハラスメント?」とピンときていない表情を見せた。恐らく彼の中にはそもそも“パワハラ”という発想がないのだろう。“パワハラ”を説明し、理解した上でその問題点をディーンズ氏は述べた。

「選手たちが本来行うはずの貢献を抑圧してしまうので、その方法ではチームはうまく機能しないでしょう。恐怖で人を支配する、恐怖を与えて成功するということは本当に短期間しか続きません。一番は自分のモチベーションを高くして貢献してもらうこと。これ以外にありません。

そしてもう一つ大切なことは、もしもコーチと選手で考えた結果が違うのであれば、常に選手の考えの方を採用すること。なぜかというと、それは選手が自分たちで考えたことだからです」

先のことを見据えて動くのが、真のリーダー

“選手の自主性を育て、選手たち自らが考えてプレーするチームを作る”というのがディーンズ流のマネジメント術。

「コーチングは自分を中心に考えない。選手を中心に考える」という自身の信念を見事に遂行しているようにも思える。これは部下を抱える管理職の方たちにとっても大いに参考になることだろう。

最後にディーンズ氏に「監督、コーチとはどんな存在であるべきか?」と尋ねてみた。すると、いかにも彼らしい答えが返ってきた。

最後に笑顔を見せながら「選手の自主性を育て、伸び伸びとプレーさせることが重要」と語ったディーンズ氏

「監督やヘッドコーチは全ての責任が自分にかかる存在です。

選手たちが楽しんで、喜んでプレーし、良い結果を出してくれれば自分も報われますし、それがかなわなければ全て自分の責任になる。誰かに認められなければ決して成功とはいえません。そういった意味で監督やヘッドコーチも、物事を学び続けなければいけません。常に先を見ながら何が大事なのかを考えて、行動していくことが大切です。

“先のことを見越して手を打つ”

これが私のセオリーです」

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