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畑の隣で魚の養殖を実現! 琉球大学が挑むサステイナブルな“陸の養殖”とは

琉球大学 理学部教授・資源循環型共生社会実現に向けた農水一体型サステイナブル陸上養殖のグローバル拠点プロジェクトリーダー/竹村明洋【前編】

世界をけん引してきた日本の水産業は、資源や担い手の不足により緩やかに減少を続けている。一方で世界の魚介類消費量は年々上昇し、2017年時点では「半世紀前の2倍」まで上昇していると水産庁が令和元年度の水産白書で発表している。こうした中、沖縄県の琉球大学が進めている陸上養殖の研究に国内外から熱視線が注がれている。今回は、そのプロジェクトリーダーを担い、未来の水産業研究の最前線に立つ琉球大学理学部の水産学博士、竹村明洋教授に話を聞いた。

世界をけん引してきた日本の水産業の現況

竹村明洋教授は現在、「JST共創の場形成支援プログラム」(COI-NEXT)の一つである「資源循環型共生社会実現に向けた農水一体型サステイナブル陸上養殖のグローバル拠点」プロジェクトにおいて、プロジェクトリーダーと研究開発課題リーダーを務めている。

「本プロジェクトは、簡単に言ってしまえば陸上養殖の研究です。長いプロジェクト名ですが、沖縄発の陸上養殖のモデル作りということで『沖縄モデル』と呼んでいます」

※SDGsに基づく未来社会の実現に向けたバックキャスト型研究開発と、産学官共創システムの構築を一体的に推進するプログラム。2020年度に国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)が発足させ、全国で42のプロジェクトが始動している

竹村教授をはじめ琉球大学が研究を行うプロジェクト拠点の「一般社団法人 中城村養殖技術研究センター(通称:NAICe)」の外観

画像提供:琉球大学

まずは「沖縄モデル」を深掘りする前に、日本の水産業の現況を知っておきたい。

日本の水産業は戦後、経済を立て直す過程で大きく成長。戦前の1927(昭和2)年に香川県でハマチの養殖に成功したのが始まりとされる養殖も、沿岸・遠洋漁業と共に盛んになっていった。

しかし、1977(昭和52)年の200海里水域の設定を契機に日本の水産業は遠洋漁業からブレーキがかかり徐々に衰退。戦後から近年まで長らく漁獲量世界一だったが、今やトップ10からも漏れてしまうほど落ち込んでいる。

「落ち込みを見せる日本に対し、世界では漁業は若者たちも注目する魅力あふれる産業になっています。日本の食卓でもなじみのあるノルウェー産のサーモンは、世界で人気がとても高く、ノルウェーの漁業従事者にはミリオネアも多数いることから勢いのある産業として認知されています」

共に漁業が盛んな日本とノルウェーの違いは、日本では少子高齢化による働き手不足や後継者不在も背景にあると言えるだろう。

「沖縄モデルはこうした働き手不足をはじめ、海の天然資源の減少を抑えるなど、水産業が抱える社会問題の解消を目指しています」

陸上養殖が享受する“農業との親和性”

これまでの養殖(海面養殖)は、漁業権に制約された海の一部でしか行えず、飼料の大量投入などで海という天然資源に負荷をかけ、自然災害や赤潮の影響で生産量を左右される恐れもあった。

陸上においては、こうした問題を軽減・解消することができるそうだ。

NAICe内部。再生可能エネルギー(以下、再エネ)を活用した陸上養殖施設の研究開発、魚や海洋生物の成長、成熟を促進する養殖技術の研究開発が行われている。現在は熱帯・亜熱帯海域に生息する高級魚・ヤイトハタ(ミーバイ)を養殖している

画像提供:琉球大学

「沖縄の場合、台風がよく通るため比較的穏やかな内湾でしか養殖を行うことができません。国内に目を向けると、広島などは穏やかな瀬戸内海に面しているため、カキの養殖が盛んですが、すでに養殖できるスペースがなくなってきているそうです。これが陸上では耕作放棄地など養殖に利用できるスペースが結構あるのです。

また、飼料の投入についても、海面養殖の場合は養殖対象の魚が与えている餌をきちんと食べているか、餌以外のものを食べていないかを把握することができませんが、陸上であれば、養殖場を外部から隔離できるため、飼料や生育状況の管理が行いやすい=トレーサビリティを確保できます」

「トレーサビリティの確保が可能ということは、その魚が何を食べて育ち、どういう栄養素を摂取したかを、より明記できるようになり、食の安全・安心を守ることにもつながります」(竹村教授)

さらに、例えばパイナップルを栽培している畑の隣で魚介類を養殖するなど、耕作放棄地を活用した農・水の循環兼業を行う生産者が登場し、「地元の産業として雇用の活性化にも貢献できるかもしれません」と竹村教授は期待を寄せる。

そして、「農業ならではの視点を水産業に組み込めるという大きなメリットもあります」と竹村教授は説明する。

「農作物は光の照射量、時間で大きさや味が変化しますが、魚介類も生育環境で変化が見られます。海水魚の場合、体内に入ってきた塩分を体外に排出するためにエネルギーを使っています。これを適正な塩分濃度を設定することで、海産魚は塩分の排出に使っていたエネルギーを成長に廻すことができます。沖縄モデルでは、農業のナレッジも取り入れ、研究を進めています」

全ての循環を再エネで

陸上養殖は、サステイナブル視点のメリットがあふれるものの普及に向けては課題もある。

まず、陸上養殖は海面養殖と異なり、養殖水槽内の水の循環、浄化を人工的に行い続ける必要がある。

「魚や餌が増えるほど、水は汚れていくため、常にろ過を行います。これらの過程で電力供給が必要となります。沖縄モデルではこれを再エネで、かつ地産地消で賄います」

また、水槽内の水循環にポンプを用いず傾斜で水をくみ上げる仕組み、微生物を利用したろ過システムの開発など、消費電力を低減させる研究にも余念がない。

竹村教授は「全てを再エネで実現する」ことを目標の一つに掲げている。

NAICeは再生可能エネルギー研究エリアを併設。太陽光発電に関する研究をはじめ、風力や温度差発電など再エネを活用した陸上養殖施設の実現に取り組んでいる

画像提供:琉球大学

「人件費の捻出や、若者に興味を持ってもらうにはどうすればよいか。餌やりなど単純労働は機械で自動化すればよいと考え、人がやるべきは、養殖した魚介類の販売方法やマーケティングなどクリエーティブな部分だけに絞る。課題はいろいろありますが、電力、人手を可能な限り減らして実現できるモデルを目指しています」

現在、沖縄モデルには多くの企業、団体、研究者が参入、参画しているが、これまで水産業と関係を持ったことがない企業なども多数参画しているという。「実はこれも陸上養殖だからこそのメリットの一つです」と竹村教授は語る。

「沖縄モデルは当初、研究者が考えるような面白くないビジョンでした。プロジェクトを固めていく段階で沖縄水産高校の生徒にも参加していただいたのですが、彼らとの交流をきっかけに、それまでは漁業などの水産業と農業を分けてプロジェクトを考えていたことに気付かされました。沖縄モデルにおける陸での養殖は、いわば温室を造るようなイメージ。これまで分けられていた水産業と農業の垣根を取り払うことでプロジェクトは膨らんでいきました」

後編では、世界中で通用するシステムを目指す沖縄モデルのビジョン、そして、そのビジョンに共鳴した人々、団体とどのようにプロジェクトが膨らんでいったかを掘り下げていく。



<2023年8月28日(月)配信の【後編】に続く>
産業を超えた共鳴が生産物のブランド化などプロジェクトを進化させる

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