1. TOP
  2. トップランナー
  3. 隊員が近づけない特殊火災現場を最新鋭消火ロボが担う! 消防の未来
トップランナー

隊員が近づけない特殊火災現場を最新鋭消火ロボが担う! 消防の未来

「消防庁消防研究センター」特別上席研究官 天野久徳【前編】

石油コンビナートや化学薬品を扱う工場など、危険物取扱施設での火災事故が近年増え続けている。エネルギー・産業基盤が集積する地域での大規模自然災害発生によるリスクも心配される中、消防庁では特殊な火災現場で消火活動を行える消防ロボットシステムを研究開発中だ。来年度中に実戦配備される予定のこのプロジェクトを率いる消防庁消防研究センター・天野久徳特別上席研究官に話を聞いた。

現代の消防が抱える課題を解決に導く救世主登場?

消防庁が消火活動用のロボットを開発するのは、実は今回が初めてではない。過去には、隊員よりに先に現場へ進入し、偵察するロボットを開発、実際に導入もされている。しかし、今回のプロジェクトは規模も予算もかつてのものとはけた違い、消防庁の発足以来、最も多額の予算を投じているという──。

そんなプロジェクトがスタートした背景には、現代の消防活動において早急に解決しなければいけない課題があったからだ。

「石油コンビナートや化学薬品工場など爆発の危険がある火災事故では、基本的に人が現場に近づくことができません。近づけないということは、つまり消火活動が行えないということ。現場の消防隊員の中には歯がゆい思いをしてきた人が多いと思います。そうした危険な現場でも消火活動を行うことができ、被害の拡大を抑え込むことができる、そうしたシステムを目指して開発しました」

そう語るのは消防庁に勤務して四半世紀以上、情報学の博士号を持つ天野特別上席研究官。消防ロボットの研究開発ではプロジェクト全体を統括・推進する立場を務めている。

「エネルギー・産業基盤での発災は一時的な人的・物理的被害だけでなく、社会全体に与える影響が大きい」と語る天野氏

ガソリンや重油など引火性の高い液体や高圧ガス、火薬など危険物がある施設では、人の手による消火活動ができない。消防隊員の生命を危険にさらすことは、年間3万件以上も発生する火災に対応する人的エネルギーを損なう行為にほかならないからだ。その一方で、危険物施設で発災すると、被害が拡大しやすい。これが現代の消防が抱える大きな課題の一つとなっていた。

プロジェクト発足の契機となったのは、2011年の東日本大震災に関連して起きた千葉県市原市の石油コンビナート火災、そして2012年の兵庫県姫路市の化学製品工場で発生した火災。前者では鎮火後もエネルギー供給に支障が発生し、市民の暮らしにも大きな影響が出た。さらに後者の事故では死傷者36名、そのうち消防隊員に殉職者1名が出る重大な被害が発生。こうした事態を受け、消防だけでなく国全体が災害対応ロボットの開発を促すこととなった。今回のプロジェクトは、そうした政府の方針に則したものだ。

「エネルギー・産業の基盤となるような施設で火災が起きると、一般的な家屋の火災よりも規模が大きく、場合によっては周辺住民も避難しなくてはなりません。また、そうした被害規模の大きさに加えて、産業界全体への影響も大きいことに注意する必要があります。石油コンビナートのような大規模施設はもとより、小さな部品工場であっても、その産業界にとっては重要で代替不可能な製品を供給している場合がありますよね。そうした被害をできるだけ小さく抑えるためには、迅速な消火活動が求められます」

火災による一次的な人的、物的被害を最小限に抑えるのはもちろん、施設の稼働が停止することによる、産業界全体のエネルギー損失を低減し、市民の生活を守る。つまり、今回のプロジェクトは研究成果を誇示するためのものではない。火災が起きてしまったときには実際に出動し、消防活動に貢献することを目指したロボット開発なのだ。2014年から始まった研究開発は既に、来年度の実戦配備に向けた1次試作機完成・全体検証のフェーズに入っている。

4機で1チームの編成となる、消防ロボットシステム。左から飛行型偵察監視ロボット(ドローン)、走行型偵察監視ロボット、放水砲ロボット、ホース延長ロボット

二重反転プロペラ式飛行型偵察監視ロボット。ジンバル付きカメラで上空から画像を撮影し、中央システムに送信する

チームワークで消火する、最新鋭のロボットたち

システムは複数のロボットで編成される。飛行型偵察監視ロボット(ドローン)、走行型偵察監視ロボット、放水砲ロボット、ホース延長ロボットの4機だ。大きく2つのグループに分けられ、片方が偵察監視を、もう一方が消火を担う。

メンテナンスやデータ実証のため4機すべて解体されていたところ、今回の取材のため特別に組み立ててもらった走行型偵察監視ロボット。車重は230kg。システムの中で飛行型偵察監視ロボットに次いで軽量だ

通常のタイヤ走行モード(写真左上から時計回り)から、クローラーによる不整地走行モードに変形する様子。大きな段差に対してはアームごと回転させるアクションで乗り越える

走行型偵察監視ロボットの前面には、カメラや各種センサー、LiDARと呼ばれるスキャナー(レーザー照射により対象物までの距離や形状を測定する装置)などが配置される

「放水砲ロボットは1分間に4000Lという放水能力を誇っています。これは最大75m離れた場所からでも水や泡が届く、現在消防本部が所有している消火装備で最も高い放水能力を発揮できるスペックとなっています」

2017年4月に消防庁の研究施設で行われた、放水砲ロボットによるデモンストレーションの様子

石油コンビナートなどの施設では巨大なタンクの上部で発火するケースが多いため、放水砲ロボットには地上から高所まで放水できる能力が不可欠だった。

「チームの中では少々地味な存在ですが、ホース延長ロボットの開発も世界初です。火災発生現場から人が立ち入ることのできる安全な場所までは最低でも300mが必要で、曲がり角などにうまくホースを敷設するためには、どうしても専用のロボットが必要でした」

ホース延長ロボットは放水砲ロボットをカメラで捉え、一定の距離を保ちながら自動で追従する仕組み。最近の自動車に搭載されているクルーズコントロールとよく似た技術だ。

前走する放水砲ロボットと一定の間隔を保ち、ホースの長さを調節しながら追従するホース延長ロボット

エネルギー・産業基盤となる施設での消火活動を可能にするには、ロボットたちが自律して動く必要がある。そして自律させるためには各機が連携、協調する必要があった。つまり偵察監視と消火を担う4機編成こそが最適で必然的なユニットだったということだ。

人間が入っていけない領域での消火活動を可能にするロボットたち。これまで人類が立ち向かってきた火災との戦いを大きく変えうる、革新的な取り組みと言えるだろう。

後編では、連動する4機の効率的な動きや自律制御する意図、そして未来の消防活動において人間が果たす役割について、天野氏に引き続き話を聞いてみたい。

石油タンクのある施設で行った、消防ロボットシステム実証試験の様子

<2018年4月18日(水)配信の【後編】に続く>

4機のロボットの効率的な連動性、そのインターフェースに迫る!

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. トップランナー
  3. 隊員が近づけない特殊火災現場を最新鋭消火ロボが担う! 消防の未来