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周波数帯域が狭く低速がむしろいい! ナローバンドでつなぐIoTの可能性

ファーウェイ・ジャパン 技術戦略本部 部長 郭宇【前編】

高速で大容量のデータを送受信する“ブロードバンド時代”に、「低速で最低限の情報が行き来できれば十分」と、“ナローバンド”で一歩先を行く企業がある。日本ではスマートフォン市場で存在感を見せるファーウェイだ。同社は多くの企業とのパートナーシップによって、今、世界中のIoTを加速している。

見直されるナローバンドの価値

「IoT(Internet of Things)を媒介にした『ヒトとモノ』『モノとモノ』の接続数は、2025年に1000億に達する」。

ファーウェイは、世界銀行、国際電気通信連合、そして携帯通信事業者の業界団体であるGSMA(GSM Association)のデータを基にデジタル変革における世界各国の進捗度を分析した同社の年次レポート「世界接続性指標報告書」の2014年版で、未来の通信世界像について調査。上記のような報告を行っている。

この1000億というIoT接続数は、同調査結果が公表された2016年当時比で約5.8倍の数となる(総務省「平成29年版 情報通信白書」より)。ただ、あらゆるヒト・モノがインターネットに接続されるためには、さまざまな課題をクリアしなければならない。その一つが、「IoT時代に適した通信ネットワークシステム」の拡充だ。

大容量・高速データ通信で言えば、「第5世代移動通信システム」(以下、5G)が注目を浴びているが、一方で「コンスタントに少しずつ、数年間にわたり1日1回などの一定間隔でデータを送信する」通信環境を必要とする端末や機器も数多く存在する。またIoT端末が、土中やコンクリートの内部に設置されたり、地下に潜ったりすることもあり得るため、低電力で広く深いカバレッジ(通信範囲)を持つ通信技術や規格も必要になってくるのだ。

「今後、世の中に流通するデータの量が増えることもあり、IoT端末の通信環境は『ブロードバンド化』することが求められています。しかし、例えば水道・ガス・電気などに使われるスマートメーターは、一度に送るデータがそれほど大きくありません。加えて、点検・整備効率などを考えると、電池を変えずとも10年ほど正常に稼働する必要があり、通信していないときは極力“省エネ状態”であることが好ましいとされています。そのような特徴を持ったIoT端末群に、5G用の通信モジュールを使うことももちろんできますが、運用コストや維持費のバランスは非常に悪くなる。われわれとしては、IoT端末のタイプによって、ブロードバンドとナローバンドを使い分けていく必要があると考えています」

そう話すのは、通信機器メーカー、ファーウェイ・ジャパンの技術戦略本部、郭宇(かく・たかし)部長。来るべき時代を見越してファーウェイは同社を含む通信業界各社で標準規格として定めた、ある意味でロースペックな通信規格「NB-IoT」(ナローバンドIoT)の普及に努めている。

技術戦略本部の郭宇部長。日本だけでなく、本社のある深圳(シンセン)をはじめ、世界中を飛び回っている

ナローバンドをスマートメーターやセンサーに活用

ここで少し、用語の定義を整理しておきたい。NB-IoTとは、「LPWA(ローパワー・ワイドエリア)」に属する通信規格の一つだ。LPWAは、「消費電力が少ない」ながらも「広範囲に設置」されているIoT端末や機器をサポートするための通信技術の総称である。

「2025年にIoT接続が1000億になると予測した当社のレポートでは、これから爆発的に増えていくであろうIoT端末の約7割に、LPWAの通信技術が必要になるという予測も示しています。先ほど申し上げたスマートメーターやセンサー類も、その約7割の中に含まれます。ファーウェイは世界各国の通信事業者と協力し、それらIoTネットワーク市場において需要が最も高くなると見込まれるLPWAの規格の一つ、NB-IoTのサービス実用化を進めているのです」

なお、LPWAには他の規格もあるが、NB-IoTは「ライセンスバンド」(無線局免許を必要とする周波数帯)を使用しているという特徴がある。その最大通信距離は、基地局などを中心に半径数㎞から数十kmあり、コンクリートの壁2枚ほどであれば、滞りなく通信が可能だそうだ。

「通信事業者の立場からすると、ある通信システムをなくす、もしくは新たに設置するということはすなわち、その分コストが発生することを意味します。そこでIoT接続に関する通信規格については、すでにある大きな仕組みをうまく使えないかと考えたのです。なので、NB-IoTが利用する周波数帯域は『LTE(Long Term Evolution)帯域』の一部。LTE技術の延長線上にある拡張的な技術なのです」

郭氏によれば、LTEネットワークは5MHz(メガヘルツ)もしくは10MHzという単位で、各通信事業者に割り当てられているが、NB-IoTは、そのLTE帯域のさらに一部のみ(180kHz)を利用した通信規格だという。

「LTEのほんの一部に“乗っかる”というイメージでしょうか。ゼロではないものの、LTEに対してはほとんど邪魔をしません。例えば、ポケットに1万円があったとして、その中の10円を使ったとしても使えるお金の総額にそれほど影響はありませんよね。NB-IoTはLTEのリソースを少しだけ使うことで、新たな通信システムを一から作るために大規模なコストを投じることなく、多くのIoT端末をサポートできる通信規格なのです」

「NB-IoT」導入のメリット

マンホール、郵便ポスト、乳牛にもNB-IoT

ファーウェイでは、NB-IoT用のチップセットや対応機器を開発する傍ら、すでに各国の通信事業者と連携し、2017年5月時点で中国や欧米をはじめとする世界24エリアで、NB-IoTネットワークの構築・運用をサポートしている。では、NB-IoTは世界でどのように用いられているのか。

「NB-IoTのネットワークを実際に導入して劇的な変化をとげている街の一つが、中国・江西省鷹潭(ようたん)市です。同市のIoT接続数は、すでに10万を超えているんです」

鷹潭市は中国有数のスマートシティだ。人口 130万人の都市で、これまで「中国移動通信」「中国電信」「中国聯合通信」の通信会社3社が970余りの基地局をNB-IoTに対応させた。それら基地局により、鷹潭市全域がNB-IoTネットワークでカバーされている。

中国・鷹潭市のIoT事例。中国では同市のように街全体で取り組むところも増えつつある

そのNB-IoTネットワークを使い、水道などのスマートメーターはもちろん、駐車場、マンホール、ゴミ箱、街灯などがIoTに接続され、そこから集められたデータが日々、街の効率的な運用に生かされているという。例えば、IoT街灯ならば周囲の環境に合わせて明暗を自動調整、人が通るときだけ点灯するなどの運用を行えば、維持費用だけではなく、エネルギー消費も抑えることができる。IoTがエコや省エネにもつながるというわけだ。

「特に、マンホールをIoT端末化するという発想は、世界各地の自治体が関心を持っている話題なんです。マンホールやその付近に各種センサーを設置すれば、水位や水質、また下水の温度や臭いなどをモニタリングすることができます。場合によっては、マンホール内で行われようとしているテロの防止などにもつながるでしょう。

一方、ゴミ箱にセンサーを取り付ければ、ゴミがたまっているか否か、回収する必要があるかどうかが分かります。たまっていなければ、回収する必要はありませんし、無駄な巡回回収を省くことで人件費の削減にもつながるでしょう。ドイツでは、郵便ポストをIoT化するという活用事例がありますが、使い方としては似たような発想です。それらスマートシティの各所にある小さなセンサーやIoT端末にとって、NB-IoTはとても相性の良い規格になっています」

ドイツで実施されたポストの投函状況を監視するNB-IoT事例。この例を見ると、ゴミ収集車など活用範囲の広さが予測できる

鷹潭市などスマートシティにおける実用化もさることながら、畜産業におけるIoTの実用例も興味深い。その代表格となるのが「コネクテッドカウ」(インターネットに接続された牛)だ。世界には現在、約1億4000万頭の乳牛がいるとされているが、その効率的な乳生産のためには繁殖周期と完全に一致させる必要がある。

「乳牛の動きを感知する3次元加速度センサーを取り付けることで、精度の高い繁殖期診断が可能となります。適切な繁殖期を1回逃すと350ドルの損失が生まれ、しっかりと繁殖期を診断できた場合は1頭あたり年間420ドルの売上増が見込めるとの試算があります。そこにNB-IoTベースのIoT端末やシステムを使えば、繁殖期を逃すことなく、さらには人が管理していた部分など全体的なコストも削減できるでしょう。通信接続料のみで計算するならば、1頭5年あたり30ドルという低コストでコネクテッドカウを実現できるのです」

牛の繁殖時期を把握できるファーウェイのサービス「コネクテッドカウ」にも、期待が集まる

このように世界ではIoTを支えるLPWA、中でもNB-IoTという通信規格の普及が始まっている。では日本の現状はどうか。後編では、通信世界における日本の立ち位置を探っていく。


<2018年7月5日(木)配信の【後編】に続く>
水道・光熱費の無駄が一気に解消? NB-IoTで日本はどう変わるのか

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