未来シティ予想図

フランスの集合住宅“白い木”が建築の未来をつむぐ!

建築家・藤本壮介氏が手掛けたプロジェクトがついに竣工

6月19日、フランス・モンペリエにて建築家・藤本壮介氏が手がけた最新作の完成式典が開催された。「L'Arbre blanc(白い木)」と名付けられた集合住宅は、各戸のバルコニーが枝のように突き出しており、まさに大木のような独創的な外見をしている。これまで国内外のプロジェクトで数々のセンセーショナルな作品を生み出してきた藤本氏が思い描く“建築の未来像”とは?

世界が注目する気鋭の日本人建築家・藤本壮介氏

1971(昭和46)年生まれの建築家・藤本壮介氏──。高さ約9mの本棚が渦巻く「武蔵野美術大学美術館・図書館」(東京都小平市)や、膨大な白いパイプとガラス板で構築された「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013」(ロンドンで期間限定展示)などが代表作だ。

日本を代表する建築家として国内外のプロジェクトに携わり、他に類を見ない独創的な作風でこれまで数々の賞を受賞してきた。

1994年に東京大学工学部建築学科卒業後、2000年に藤本壮介建築設計事務所を設立。若手建築家の国際的な登竜門である「AR awards」を2005年より3年連続で受賞し一躍注目を集める

南フランスの都市・モンペリエに竣工したばかりの「L’Arbre blanc(白い木)」も、既存の集合住宅とはひと味もふた味も違う外観の奇抜なデザインが目を引く。

地上約55m、17階建ての高層ビルの各戸にはリビングルームに見立てた巨大なバルコニーが設置されているのだ。その大きさはさまざまだが、最小7m2、最大で35m2もあるという。

「L'Arbre blanc」は、藤本氏とフランスの若手建築家たち(Nicolas Laisné、Dimitri Roussel、OXO Architectes)そしてプロジェクトマネジメントのMarie-Laure Coste-Grangeのコラボレートで建設された集合住宅

(C)Sou Fujimoto

この大胆なデザインは、“モンペリエの伝統的なライフスタイルを高層ビルで実現すること”を重視して生み出されたという。着想に至った経緯を、藤本氏に振り返ってもらった。

「地中海に面したモンペリエは、冬でも戸外のテラスでランチが取れるほど温暖な気候です。地域の方々も、何かと外に出て食事をしたり、昼寝したり、仲間と話すことが好きで、もともとインドア派ではありませんでした。そんな伝統的なライフスタイルを高層ビルで実現するために、各戸にメーンの生活空間となるような大きなバルコニーを設けることにしました。結果的に、これまでの直線的で堅いコンクリートの集合住宅とは全く異なる姿になりました」

テラスの大きさはさまざまだが、大きなものだと長さ7.5m、幅4mもある。113世帯が入居可能で、すべて売却済みだとか

(C)SFA+NLA+OXO+RSI

プロジェクトはコンペ形式で進められ、審査はモンペリエ市の市長や都市計画の担当者が行った。斬新な提案ゆえに、最初は驚かれたという。

「モンペリエという街が持つ風土や伝統を大切にしながら、新しいモノを造る。両方を高い次元で組み合わせることで、新しい街の未来につながっていく。審査の場では、そんなわれわれの思いを理解してもらうことができました。従来のヨーロッパ建築は石の壁で仕切られて閉鎖的になりがちでしたが、これからの時代はもう少し開いても良いのではないかと。人と自然、人と人がつながり合って、コミュニケーションもつながっていく。あらゆる“つながり”を生み出すことが、未来の建築に求められる要素の一つだと思っています」

パブリックに開かれたルーフテラスのある最上階にはパノラマビューのカフェが設けられている

(C)SFA+NLA+OXO+RSI

日本でも2011年に全面ガラス張りの住居「House NA」を発表するなど、藤本氏は固定観念にとらわれない作品で建築の新しい価値を生み出してきた。プロジェクトの舞台となる国や地域が変わっても、その場所の“未来”を見据えながら新たな作品を創造するスタンスは変わらない。

「われわれは決して、ただ単に変わったものを造りたいわけではありません。日本の場合も温暖化などはありますが、気候風土は昔から変わらないので、伝統的な建築から知恵をもらえることも多々あります。一方で、人々のライフスタイルは大きく変わってきているので、建築家としては『これからの建築にはどういうものが必要なのか?』ということを突き詰めて考えていかないといけません。そうして生まれてくる『新しい建築』は、今までとは異なるけれど、今まで以上に私たちの生活に寄り添っているはずなんです」

人々の価値観が多様化している中で、“いろいろ”を許容できる社会を目指す。それは建築家にかかわらず、全ての現代人に今後必要となってくる価値観なのかもしれない。

「結局、今造っている新しい建築なり都市空間が未来の子どもたちや孫の世代の世界を作っていくわけですよね。ですから、やっぱり良いものを未来に残していかなければなりません。住宅や公共施設がどんどん開かれたものになれば、いろいろな人が集まり、いろいろとつながっていきます。そんな生活環境をしっかり整えて、未来に受け渡していくのがわれわれの責任だと思っています」

東京に住む夫婦2人向けにデザインされた「House NA」。ガラスに囲まれた小部屋が高さを変えランダムに積層しているような構成

(C)IWAN BAAN

枝から枝へ飛び移る原初的な生活をイメージしており、各部屋は壁がない。壁という常識をなくすことで、立体的に暮らすという新しい価値が生まれる

(C)IWAN BAAN

“人間が本質的に求めるものとは何か”を建築家として追求する

核家族化や少子高齢化が進み、ライフスタイルも変化する中で、これからの建築は具体的にどのように多様化していくのか──。

一つのキーワードとして、藤本氏は“自然”に注目しているという。

「“自然”は一つとして同じものがないですよね。例えば、松の木でも、モミの木でも、育ち方は一本一本異なります。そういった意味では、究極の多様性は自然のものなのではないかと。建築も自然と組み合わせることで、もっともっと多様性が加速していく可能性を感じています」

実際に、近年は世界的に自然を取り入れた建造物が増えている。燃えにくい木材が開発されるなど、テクノロジーが進化したことで住友林業の「W350計画」のような木造の超高層ビルも計画できるようになった。
※住友林業が東京都心で計画している350mの木造超高層ビルに関する記事はこちら

「木造建築や、公共施設に木々を盛り込んで都市を緑化することはヨーロッパでもブームになっています。われわれも、3年ほど前に提案した「Mille Arbres(1000本の樹)」という複合施設のプロジェクトがフランスで動き始めています。パリの環状道路の上空に1000本の樹を植えた森と居住区を浮かべるという計画で、街と自然と建築を3次元的に融合させることを目指しています。技術的に解決しなければならない課題もあるので、試行錯誤しながら進めていきたいですね」

「Mille Arbres(1000本の樹)」は、藤本氏がパリの建築家Manal Rachdi氏(OXO Architectes)と共同で参加したパリ市都市再開発コンペで選ばれたプロジェクト。1000本の樹を植えた森には100戸を超える住宅(集合住宅および戸建)やオフィスビル、ホテル等が建設される予定だ

(C)SFA+OXO+MORPH

身近に緑がある生活は、なんだか心地良い……。人として本能的に感じてきた緑の効能が、最近はさまざまな統計データによって証明されてきている。

「まだまだ解明されていない部分もありますが、統計によるとオフィス空間にも緑を取り入れた方が仕事に集中できると言われています。やはり、緑は人間が本質的に求めるものだという認識が強くなっていますよね。自然を排除するのが20世紀の建築だとしたら、これからは自然との融合を目指した建築がスタンダードになる。その流れは今後も続くと思っています」

アイウェアブランドのJINSが2017年にオープンさせた会員制ワークスペース「Think Lab」は、藤本氏が空間デザインを担当。緑の分量や椅子の配列を工夫して、「最高に集中できる空間」が設計されている

20世紀は、高層ビルや集合住宅など著名な建築家が考えたビジョンがそのまま世界に広がっていくような時代だった。一方で自然との融合や緑化は、かつての“画一化”とは反対の流れだといえる。

「一つのコンセプトを標準化して、とにかく大量生産する。20世紀はそれが豊かさの基準でもありましたが、だんだん、それが退屈になってきているのも確かです。これからは、土着の文化や地域の木々を取り入れながら、それぞれの場所から多様な建築が生まれてくる時代になるはずです」

個人の住宅から公共施設、オフィスや公衆トイレまで、未来への使命感を抱きながら、藤本氏はこれまで歴史に残る建造物を手掛けてきた。今後は、街そのものを創造することにも力を入れていきたいという。

「SF映画に出てくるような超未来都市といったプロジェクトも想像が膨らむので好きなのですが、現実のプロジェクトでも、われわれは中国やフランスの小さな街で都市計画を担当させてもらっています。小規模ながら、開発が進んでいない地でマスタープランを作り、街を造っていくことに大きなやりがいを感じています。それこそ画一的に造ったら面白くないし、多様性が求められる作業です。どんな場所でも、100年後、200年後の人たちの生活を支える新しい建築を設計していきたいですね」

まさに“未来シティ”の“予想図”を作り出す設計者のようだ。

これからは氏のような設計者たちが世界各地で、アップデートされたその土地土地ならではの街づくりを見せてくれるはずだ。

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