トップランナー

深海ストリートビュー誕生なるか!?カギは水中調査システムの全自動化

株式会社FullDepth 代表取締役 伊藤昌平【後編】

水中調査のハードルを格段に下げるポテンシャルを持つ「水中ドローン」。水深1000mの深海に到達する能力がありながらも、開発者の伊藤昌平氏はビジネスの可能性は“水深の浅い場所”にあるという。後編では、その真意と未来に描く壮大な夢について聞いた。

深海はまだ先? 水中ドローンが活躍できる場所

独自開発した遠隔無人探査機、通称ROV(Remotely Operated Vehicle)の潜水実験で、水深1000m到達を成功させた株式社FullDepth(フルデプス)の伊藤昌平氏。前編で語られた夢のある前日譚から一転、「ただ深度を追求しているだけではダメなんです」と相反する言葉を口にした。
※【前編】の記事はこちら

「深海における探査機の需要は生物調査のほか、今はまだレアメタルや石油などの資源開発、セキュリティや軍事利用と限られています。世界的に見ても、資源開発が進んでいる中東諸国や、軍事・国防が盛んな一部の国での需要が高いのが現状です」

水中を調査する場合、大掛かりな機器はもちろん必要だが、その前段階として水中ドローンを使ってほしいと伊藤氏。それぞれの長所を生かした協調作業が、調査の質を向上させると考えている

以前、中東で開催された展示会に出展した際、石油産業の関係者から「今すぐ必要だ」と言われたことがあったという。輸出規制の対象品目に当たり、早期の輸出はかなわなかったが、生の声を聞けたことは大きな自信につながった。

「深海調査は、海底資源を探るなどのニーズがある日本でも、今後10年以内に何らかの動きがあると考えています。そこに対してはしっかりと準備をしていきますが、当分は浅い領域に焦点を当てるべきだと判断しました」

水中調査や海中探査と聞くと“海の底”をイメージするかもしれないが、実は数十mなど比較的浅い水深にこそ需要が潜在している。水産業、河川やダムの維持管理、港や空港の建設などに水中ドローンは応用が利くという。

「多くは官需ではありますが、これまで実施された事業だけを見ても、年間250億円ほどの需要が見込めます。潜在的なニーズはもっとあるはずです」

そこで試験機『TripodFinder』をベースに、サービスインに適したモデルも再開発。容器やフレームは水深300mの環境に耐えられる素材に変えてコストカットし、推進器を4つから7つに増設して機動性を高めた。開発期間は約半年。こうして現在、事業に使用されている「FullDepth DiveUnit300」は完成した。

FullDepth DiveUnit300の上部などには、調査内容に合わせて追加ユニットなども搭載できる

中央の黒い部分は、上段にカメラ、下段にバッテリーパックが内臓。4時間の連続運転が可能で、バッテリーを交換すれば連続運転もできる

中央はカメラ部、右のファンが前後の左右と上部に計7つ搭載されている推進機

海中調査やダム点検で大きな反響

「FullDepth DiveUnit300」によるビジネスを開始すると、さまざまな業界から反響があった。

「まずは鹿児島湾(錦江湾)で海底調査を行いました。桜島の北部に広がる水深約120mの海底火山域で『たぎり』と呼ばれる火山性ガスの噴気孔や、その周辺に生息する生物の姿を撮影しました」

水中ドローンが撮影した映像は、リアルタイムでインターネット上にも配信された。これは前編で語られた、「立ち会う機会の少なさ」という深海調査における課題を解決する糸口になるかもしれない。

鹿児島湾での海底調査で撮影された海中。手前に見える煙状のものが火山性熱水噴気活動(たぎり)鹿児島湾での海底調査で撮影された海中。手前に見える煙状のものが火山性熱水噴気活動(たぎり)

画像協力:株式会社FullDepth

「また茨城県内のダムでは、点検作業に活用していただきました。多くのダムでは、水の中は3年に一度の点検、25年に一度の大規模点検を行うのが慣例で、特にダムの水中部を網羅的に点検することは、そうした大規模点検でも実施できていないのが現状でした。水中ドローンを使うことで、安全に短時間で広く調査が行えるようになります」

サービスを開始したのは、深海到達実験と同時期の2018年6月。まだ1年もたっていないが、早くも“水の中”を気軽に見ることの価値が浸透しつつあるようだ。

茨城県にあるダムの水中壁面をカメラで調査。本体と船上は通信用の光ファイバケーブルでのみつながっている

画像協力:株式会社FullDepth

広大な海の中を家で探索できる未来に

このような成果を見せる水中ドローンの運用だが、まだまだ課題もあるという。

「実証実験ではほぼ問題なかったものの、唯一マグロの養殖場でケーブルが切れるアクシデントがありました。原因は不明なのですが、関係者の方が言うには、恐らくマグロにかみちぎられたのではないかと」

これは特長であるケーブルの細さが原因ではなく、海では4tの破断強度を持つ太いケーブルでさえちぎれることもあるとか。何が起きても不思議ではないと伊藤氏は苦笑する。

「だから海では故障や不測の事態が起きないことに努めるよりも、起きた問題にどう素早く対処できるかを考えた方が良いんです」

また機能やサービス内容の精度を高める以前に、“新しさ”ゆえの壁もある。

「認知度が低いのはもちろんですが、水中ドローンの存在は知っていても活用方法が想像しにくいという問題があります。空を飛ぶドローンの場合と同じです。最初は空撮目的で使われていたものが、徐々に広がりを見せて農薬散布や航空測量、物流としての需要も出てきました。ドローンで物を配達しようなんて発想はなかなかできませんよね」

そのため、伊藤氏も積極的な用途事例を発信することによって、水中ドローン利用の活性化を促そうと考えている。

「例えば、海の中にある海底ケーブルや送水管は、船の錨で破損することがあります。修繕箇所の特定や点検などであれば、わざわざ修理専用の大型船を出動させずとも、水中ドローンで十分対応できる。また発電所にある冷却水の引き込み口は、口径4~8m、全長1kmものパイプで、中に入り込むと逃げ場がなく、人による点検はとても危険です。これも、今後はロボット活用がマストになるでしょう」

他にも、タンカーの船底点検、空港や洋上風力発電所などの建設予定地の海底の状態確認、港の管理や監視、警備など活用の場は広い。

「そして、最も重視したいのがレスキューの現場です。2018年7月に起きた中国・四国地方の豪雨災害時は、われわれも何か役に立てることがあるはずと思い、水中ドローンを持って現地に向かう準備をしていました。しかし、道が寸断されていることなどから、力になれなかった苦い経験があります。もし、現地の海上保安庁や漁業者の船舶などに水中ドローンを一台でも常備できたら、いち早く遭難者を捜索しにいけるロボットとして活用できるはずです」

今後は、取得したデータをインターネットのクラウド上で管理し、問題が起こりそうな部分を解析するプラットフォームを製作して連携を図りたいという

災害救助にも有効となる構想の一つとして、将来的に水中ドローンをはじめとする水中探査システムの全自動化も目指しているという。

「もちろん、実現するためには法整備も必要になるでしょう。現行法では、ケーブルでつながった水中ドローンは船の一部として見なされるため問題はありませんが、無線で操作したり、完全自律型になると“漂流物”という扱いになってしまうんです。やはり空のドローンのように、社会的に大きな動きにして世の中を変えていかなければならないと思っています」

社会への意義が理解され、土壌が整った先には、伊藤氏個人の夢の続きが待っている。

「最終的なゴールは、海の“googleストリートビュー”を完成させること。そして深海の映像をリアルタイムで配信して、家の中でバーチャル深海旅行を体験できるようにしたいですね」

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE