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アート×デザイン。建築家・平田晃久氏が「まえばしガレリア」の設計に込めた思い

建築物を通して街に呼吸を生み出す、前橋市の新しいまちづくり

2023年5月、群馬県前橋市に住居とギャラリー、レストランが一つになった複合施設「まえばしガレリア」がオープンした。かつて地域の文化と暮らしの交流拠点だった場所に、その土地の記憶を受け継ぐ“広場”として建てられ、にぎわいを失いかけた街へ新しい風を吹き込む場所として市民からも期待されている。今回は、この施設のコンセプト段階からプロジェクトに携わり設計を担当した建築家の平田晃久氏に、まえばしガレリアの設計に込めた思いからまちづくりに至る話を聞いた。
(<C>メインおよびカルーセル画像:Shinya Kigure)

新旧の建築物が融合し、魅力的な街をつくる

大阪生まれの平田氏が最初に群馬県と関わったのは2014年、群馬県の太田市美術館・図書館の設計を担当したときだった。古くからものづくりで発展してきた太田市を体現する知と感性のプラットフォームのイメージを膨らませていったという。

そこへクライアントチームからある提案を持ち掛けられたのが、平田氏が「まえばしガレリア」に携わるきっかけとなった。

「『前橋にも太田市美術館・図書館のような魅力的なスポットをつくりたい』という話でした。『街の人が親しみを持って立ち寄りたくなる魅力的な”広場”のような場所をどのように造ったら良いか一緒に考えてほしい』という相談だったんですが、そのとき具体的に決まっていたのは『広場ですが、住居を何戸か造りたい』ということのみでした」

その後「どのような住宅が良いか?」「住宅以外には何を入れたいか?」など、クライアントチームとアイデアを出し合いながら、広場のイメージを形にしていった。こうしたプロセスについて平田氏は「風変わりな依頼でしたが、『仕事とは何か』を考えさせられるいい機会になりました」と振り返る。

「設計の仕事は、住居の数やどんな店舗が入るかなど既に決められたプログラムを形にするのが一般的です。ですがクライアントチームの依頼は、未来の建築家の仕事である、建築物に関わる人たちとコンセプト段階から一緒に作り上げていくというものでした」

前橋市は群馬県の県庁所在地だが、これまで大掛かりな再開発は行われず、どことなく古き良き街の風景が残されている。一方で、2013年に文化・芸術活動拠点を兼ねた美術館「アーツ前橋」、2020年には、廃業した老舗旅館の跡地にアートスポット「白井屋ホテル」が誕生するなど、街に新しい風を吹き込むスポットも点在する。

「前橋は古い街並みに新しい現代建築が溶け込んでいる街。そうした新旧の魅力を混ぜ合わせることができれば、『前橋市に行ってみたい』と思う人が増えるのではないかと考えました」(平田氏)

「実際に訪れ、街を構成する建物や道を眺めて歩くと、昭和の時代に造られたであろう建物をたくさん見つけることができてタイムスリップしたような感覚を覚えました。また、街のたたずまいに、人々の思い出が歴史として積み重なっている印象を抱き、ここへ新しい思い出を重ねられる建物を造りたい。そう思いを強くしました」

“閉じているけど開いている”空間

平田氏は設計に際し、“広場”からイメージを膨らませ、街に点在するアーケードに着目した。

「屋根の付いた道路の脇に商店が並ぶ。この“少し囲われた外”という立ち位置が、素案であった広場のイメージ、これからの前橋に合致するような気がしました。昔から前橋に親しみを持っている人、これから前橋の魅力を知る新しい人たち、どちらも受け入れる“閉じているようで開いている”空間のイメージが固まってきました」

「まえばしガレリア」の設計の原点。緑豊かな前橋のイメージから、樹冠(樹木の幹の上部にあって枝や葉の茂っている部分)というアイデアにたどり着いた

(C)akihisa hirata architecture office

閉じているようで開いている空間を“樹冠”のイメージで具現化した「まえばしガレリア」。

そのイメージは、全ての住居に備えられた広いテラスにも大きな特徴を与えた。

「樹冠は鳥や動物のすみかになっています。そのイメージを具現化するため、外や街を感じながら過ごせる広いテラスにこだわりました。また、木の下に絵が並んでいるイメージで1階にギャラリーを設置しました。部屋によってはギャラリーの展示をテラスから見ることができます」

部屋の天井仕上げをなくして天井高を一般的な住居よりも高く設計し、壁面を斜めに配するなど空間に広さを与える工夫を凝らすことで、テラス(≒自然)と調和させた住居となっている

(C)Shinya Kigure

(C)Shinya Kigure

まえばしガレリアで目指した光景を、平田氏が見かけたある出来事で実感した。

「『前橋BOOK FES』という市街の新旧スポットを巡りながら古書販売や飲食を楽しむ町おこしイベントが催され、『白井屋ホテル』などと共にアーケード街も会場の一つとしてとてもにぎわった光景を見たとき、閑散とした印象の街にも本当は人がたくさん暮らしている。ただ、街がにぎわうきっかけが減ってしまっているだけなのではと思いました。

にぎわい自体は再開発でも取り戻せるかもしれません。ですが、一時のにぎわいが取り戻せたとしても、再び落ち着いてしまっては意味がありません。それよりも、古くから培われてきた街の魅力に新しい風を吹き込んで活性化できないか。『前橋BOOK FES』で起きたにぎわいはまさにそういうもので、同じようなことができる広場を目指したのが『まえばしガレリア』なんです」

新旧の色が混ざり合う街

建設が始まった際、近隣住民からよく「楽しみにしています」などの声が寄せられたという。前橋のにぎわいの中心地だった繁華街近くに建つ新しい建物への大きな期待を平田氏は実感した。

「オープニングイベントの際は、幅広い年齢層の前橋市民の皆さんがいらしてくれました。いろいろお話しする中で、前橋が『自分の知っている街のままであってほしい』という気持ちと、他方で『新しいものも入ってきてほしい』という思いを抱かれている。そういう方々がいることを感じました。その両方の思いが溶け合う場所になればと改めて思いました」

「まえばしガレリア」中庭の光景。日中は1Fのギャラリー周りを中心に緑が鮮やかなアクセントに。夜は温かな明かりに包まれる

(C)akihisa hirata architecture office(左)/ Shinya Kigure(右)

「まえばしガレリア」は、60年ほど昔から映画館があった場所に建てられた。多くの市民が慣れ親しんだ文化施設があったこの場所には、多くの思い出が刻まれている。

「その思い出を『まえばしガレリア』に重ね合わせていただけたらうれしいです」と平田氏は話す。

「私自身、少し前までは渋谷のにぎわいが聞こえる場所に住んでいました。今は静かな環境に移り住みましたが、少し寂しい感じがあります。『まえばしガレリア』は部屋にいても街のにぎわいが聞こえてきます。静かな住居を好む人、街のにぎわいを感じたい人もいる。そういった人たちが集まり街となる。『まえばしガレリア』は街に呼吸をさせる、街にライブ感を与える建築物になってほしいとも思っています」

ガレリアとはイタリア語で「アーケード」を意味する。特に有名なミラノのガレリアは1861年にデザインされ、現在でも世界的に有名なブランドが軒を連ねる、地元民、観光客から共に愛されるスポットとなっている。ガレリアの名を冠した「まえばしガレリア」は全国で同じような課題に直面するアーケード街の再生・活性化のモデルケースとなるかもしれない。

前橋には「アーツ前橋」「白井屋ホテル」といった現代的なデザイン性に富んだ建築物も次々と生まれている。

オープン間もない「まえばしガレリア」も、こうした街に点在する建築物と共に、前橋の未来を彩る象徴になっていくに違いない。

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