2017.11.24
駅と街が一体化!鉄道会社が築く、チャレンジングな未来都市
約50年ぶりに誕生予定の山手線(品川─田町間)新駅「高輪ゲートウェイ」駅を中心とした開発プロジェクト
2020年春の暫定開業に向けて動き始めた、「高輪ゲートウェイ」駅を中心に国際的な魅力あふれる街づくりを目指す「品川開発プロジェクト」。鉄道会社が本腰を入れてつくる街とは一体どういうものなのか。本プロジェクトについて、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)総合企画本部 品川・大規模開発部の副課長、品川開発計画グループの福田久雄氏と、企画・予算グループの大野順一氏に聞いた。
きっかけは13haのJR品川車両基地跡地
プロジェクトのきっかけは、創業のころからあった東海道線のJR品川車両基地の機能を郊外に移し、13ha(東京ドーム約3個分)もの広大な土地が生まれたことだった。この地区には、羽田空港へのアクセスやリニア中央新幹線の始発駅となる品川駅、都心ターミナル駅へのアクセスに優れた品川─田町間の新駅、羽田空港や成田空港へのアクセスに優れた都営浅草線泉岳寺駅の3つの駅が隣接する。
「この土地を売却して売却益を得るという道も考えられましたが、今回は何か新しいことをしたい、チャレンジングで効果的な使い方をしたいと、社を挙げて街づくりに挑戦することになりました」(大野氏)
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品川開発プロジェクトを推進する総合企画本部 品川・大規模開発部の副課長、品川開発計画グループの福田久雄氏(左)と、企画・予算グループの大野順一氏(右)。「品川駅北周辺地区まちづくりガイドライン」を手に
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品川開発プロジェクトの対象エリアは赤の半月状の部分。泉岳寺駅は羽田空港へのアクセスがよく、2027年にリニア中央新幹線が開業すれば、名古屋・大阪方面への利便性が高まる
「上の資料を見れば分かるように、このエリアは世界へのゲートウェイであり、近い将来には、日本のゲートウェイになっていく場所です。それで『グローバル ゲートウェイ 品川』と銘打っているんですよ。日本中、世界中からこの場所に優秀な人材や企業を集め、新しいものを創造できる街にしたい、という思いで取り組んでいます」(大野氏)
品川─田町駅は山手線の駅間としては一番長い約2.2km。この間に駅を造ればもちろん利便性は高まる。しかし、ただ新しい駅ができただけでは、両側の駅を利用していた人の一部が移ってくるだけになってしまう。
「このプロジェクトは新駅を造るだけではなくて、『街づくり』をしようというプロジェクトです。街をつくり、その中心に駅がある、『エキマチ一体』というイメージですね」(大野氏)
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「エキマチ一体」のイメージ
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「ストリート型まちづくり」のイメージ(上下共に)
エキマチ一体の街づくり、始動!
今回初めて自社主導で本格的な街づくりに取り組むことになったJR東日本。鉄道会社がつくる街は、どのようなものになるのだろうか。
「具体的な部分はまだお伝えできませんが、テーマは、『移動・交流』『環境』『ジャパンバリュー』です。移動は鉄道会社である当社ならではのテーマですね。環境については後ほどお話しします。
ジャパンバリューをテーマに掲げる理由としては、日本の観光、体験、技術など、日本ならではの魅力や価値を発信する場所にしたいということです。そして、各国のさまざまな外国人の方が集まる国際交流拠点となるように、街づくりを目指しています。つくって終わりではなく、次世代のビジネスを継続的に創造する、グローバル企業やベンチャー企業など、多彩なニーズを支える場やサービスを構築していきたいですね」(福田氏)
新駅周辺は、もともと外国企業の誘致プロジェクトが進められている「アジアヘッドクウォーター特区」でもある。2020年の東京五輪時に暫定開業を迎えるにあたって、今後、さらなる国際化を目指していくことになりそうだ。
「ここをアジアの玄関にしていきたい、東京を元気にする起爆剤にしたい、という思いがあります。そのためにも、ここに来れば何でも挑戦できる、日本の技術や観光のコンテンツが分かる、そんなショーケース的な場所にしたい。そういった意味では、大企業だけでなくベンチャー企業も挑戦できるような仕掛けが必要です。便利な地の利を生かしてたくさんの人が集まるような街にしたいですね」(大野氏)
新駅のデザインは隈研吾氏が担当
多くの人を集める新しい街の中心となる新駅「高輪ゲートウェイ」駅舎のデザインを手掛けるのは、同社の渋谷駅や宝積寺駅(栃木県)でも実績のある隈研吾氏だ。駅舎は“和”を感じさせる意識をしている。そこにはどのような狙いがあるのだろうか。
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日本の伝統的な折り紙をモチーフにした大屋根は膜材を使用。ランダムに折られているので、見る角度によって表情が変わる
「隈先生には、新駅が国際交流の街づくりの拠点、中核施設となるように、象徴的な駅を造ってもらえるようお願いしています。屋根には膜材を使用し、日本の伝統的な折り紙のように折っています。ランダムに折った大屋根は、駅の周りを歩くと、それぞれの場所から違った表情が見えるんですよ。また、この屋根は下から見ると障子を想起させるようなデザインになっています。これは外国人の方に日本の魅力を知っていただくという役割も果たしているんです」(福田氏)
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駅と街をつなぐ吹き抜け空間。屋根は下から見ると障子を連想させ、やわらかな光と木の温もりを感じさせる空間となっている
駅の中にはイベントスペースがあり、駅と街がコンコース2階のデッキでつながる予定だという。また、駅の特徴的なガラス面のデザインによって、イベントの様子が街から見えて、駅からも街が見える。まさに、駅と街が一体となる『エキマチ一体』の街づくりを実現するデザインだ。
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駅構内には、車両基地を見渡すことができるイベントスペースがあり、そのにぎわいは駅の外からも見えるようになっている
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街区側の外観。駅から街を見通すことができる大きなガラス面になっている
「お客さまがたくさん集まる駅は駅ビルを建てることがよくあるのですが、この駅ではあえてそういったビルは造らず、大きな商業施設を建てることもなく、『駅は街の一部、歩道の一部』というコンセプトで造っているんです」(大野氏)
開発エリアは土地の形状が細長いので、『歩いて楽しめる街』を目指しているという。『移動』というテーマにもあるように、歩いて楽しく、そして新しいモビリティーも築いていく。かつての東海道や宿場町でのにぎわいを新たに生まれ変わらせる「新東海道」をはじめ、多彩なアクティビティが生まれる予定だ。
「ただ新しくするだけではなくて、歴史を感じさせるというか、古いものをむげにしないということも意識して街づくりに取り組んでいくつもりです」(大野氏)
過去から現代、そして未来へと続く、持続可能な街づくりを
持続可能な街づくりのために、「環境」を意識することも、このプロジェクトを進める上で重要なテーマの一つとなっている。
「例えば、駅舎屋根に膜材を使用することで照明電力を約1割削減できると試算しています。また、膜材には消雪機能のため散水装置を取り付ける予定で、これは夏になれば打ち水効果で膜の温度を低下させられると考えています。
それから、実はこの駅には空調を入れておりません。自然の風の流れでうまく気流をつくって換気することで、電気の力に頼るのではなく、自然の力を使ってチャレンジしていこう、と。このような先人達の知恵ももっと勉強していきたいですね」(福田氏)
「また、環境というテーマの中で、私たちが取り組むことを宣言しているのが、東京都や横浜市を含む世界91都市が組織する『C40(シー・フォーティー)』と呼ばれる世界大都市気候先導グループが推進する『クライメット・ポジティブ開発プログラム』です。これは温室効果ガスの排出を限りなく抑制する低炭素都市の実現に向けたモデルとなる開発事業を認証する制度で、『品川開発プロジェクト』は国内で初めてこの開発プログラムの候補にノミネートされました」(大野氏)
世界に向けてさまざまな取り組みに着手し始めた街。ここで気になるのは、そんな新しい街の中心となる新駅の駅名だ。街と一体化した駅の名前は、どのようなものになるのだろうか。
「現時点で駅名についてお答えするのは難しいですね。山手線の駅としても約50年ぶりに造られる駅なので、社内外からの期待は相当なものになっています。山手線のブランドも大切にしたいので、慎重に検討しているところです」(大野氏)
駅名が決定するのはまだ先のお楽しみになりそうだ。
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2020年の新駅「高輪ゲートウェイ」駅の開業、街びらき、国際交流拠点としての成長を見据えたスケジュール。将来は多彩な人種が行き交う街になるだろう
最後に、このプロジェクトについての意気込みを聞いた。
「新駅自体も含めて『チャレンジの足掛かりにしていきたい』という思いがあります。これから超高齢社会を迎えるにあたって、自動車の運転ができない人も増えていく。そんな中、当社は鉄道会社としての役割を果たし、住みよくて仕事がしやすい街づくりに貢献しなければならないと思います。
エネルギーの観点でも、可能な限り、チャレンジできるものは積極的にチャレンジしたい。このプロジェクトを成功させ、ここでのノウハウを東京だけでなく地方へも波及させることが当社の使命でもあるんです」(大野氏)
「街づくりがしたいとの思いはもちろんですが、全て自社主導で進めていくこのプロジェクトは、私たち社員が力をつけていくチャンスでもあります。新駅ばかりが脚光を浴びがちですが、新駅は大きな街の中の一つであって、この街をどう育てていくか、またどう挑戦していくかが当社の大きなテーマ。
まだまだお伝えできることは少ないですが、世界に向かってすでに手を挙げていることは確かなので、『鉄道会社がつくる未来の街はこういう街です!』と示していきたいですね」(福田氏)
鉄道会社のつくる街は徐々にその輪郭を現わしていく。まずは2020年春の新駅「高輪ゲートウェイ」駅暫定開業を期待して待ちたい。
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text:阿部めぐみ(questroom inc.) 画像提供:東日本旅客鉄道株式会社
※2018年12月4日加筆