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33階のビルの高さまでジャンプ!? 少年・孫悟空が秘めるエネルギー/ドラゴンボール

『ドラゴンボール』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「孫悟空のエネルギー」。2022年公開の最新映画で、あのレッドリボン軍が復活すると話題の『ドラゴンボール』(マンガ1984~1995年)。せっかくなので懐かしい幼少期を振り返り、主人公・孫悟空が見せた驚異の行動をエネルギーの観点で考察してみました。

孫悟空は幼い頃から強かった

今更説明するまでもない『ドラゴンボール』だが、あえて20字以内で説明するなら、「孫悟空がどこまでも強くなっていく物語」となるだろう。

尻尾の生えた少年が、じいちゃんに鍛えられ、亀仙人の下で修業し、カリン塔に登り、超神水を飲み、天界で修業して、実はサイヤ人であったことが明らかになり、一度は死んだが界王星で界王拳を習得し、ドラゴンボールの力でよみがえり、100倍の重力室で鍛え、瀕死の重傷を負うとサイヤ人の特質で強くなって復活し、ついに超(スーパー)サイヤ人となる!

さらに、「精神と時の部屋」で強くなり、また死んだが期間限定でよみがえって、フュージョンで強くなり……どこまで強くなれば気が済むの!?

そんな彼にも、幼少期があった。そして、改めてマンガを読んで驚いたが、当時から十分に強いのである。 

第1話の冒頭では、直径2m、厚さ80cmほどの輪切りにした丸太を空中に放り上げ、キック一発でバラバラにして「薪(まき)割りおしまいっと!!」と言っている。薪に適したカシなら、そのサイズだと2tもあるのに!

直後、ブルマにピストルで額を撃たれたが、「いって~~っ!!!」で済んでいる!

「栴檀(せんだん)は双葉より芳し(かんばし)※」とは、彼のためにある言葉だ。そんな悟空が幼少期に見せた驚くべき行為を、エネルギーの観点から分析してみよう。

※大成する人は幼少時から優れているということわざ

ウサギを月に運んだ孫悟空

幼少期の悟空は、コミックス2巻で既に驚異的だった。ウサギ団との戦いである。

その首領は、サングラスをかけた人間サイズのウサギで、名前は兎人参化(と・にんじんか)。その名の通り、触れた人間をニンジンに変えて食べてしまう。

しかし、悟空は問題にせず、ウサギ団3人を縛り上げ、如意棒を地面に突き立てて「棒よ!! うんとのびろ!!」と叫ぶや、縄を腰に巻いて「うんせ うんせ」と伸びた如意棒を登っていく。翌日「ただいま―――っ」と言いながら降りてくるのだが、なんとウサギ団を月に置いてきたという!

地球の表面から月の表面まで、最短37万6283km。普段1mほどの如意棒が、そこまで伸びたのもすごいが、これを往復したのはもっとスゴイ! しかも行きは成人サイズ3人を運んだのだから、天高くそびえるカリン塔に単独で登るより、はるかに大変だったはずである。

このとき発揮したエネルギーは、どれほどか。

ここでは地球の自転を無視して、地球と月の間を長さ37万6283kmの棒でつなぎ、その間を往復するという行為を考えてみよう。

問題は、スピードだ。「うんせ うんせ」という掛け声のイメージから、どんなに速くても、人間が歩くのと同じ時速4kmぐらいではないだろうか。だとすると、片道10年9カ月、往復で21年6カ月! とても翌日には帰ってこられないどころか、悟空の幼少期のエピソードでなくなってしまう。

悟空は翌日帰ってきたのだから、所要時間を24時間とするなら、必要な平均速度は秒速8.7km=マッハ26。「うんせ うんせ」とは、あまりに懸け離れている気が……。

だがここで、高く上るほど地球の重力が弱くなることを思い出すと、話は全く違ってくる。

重力の強さは、「地球の中心からの距離の2乗」に反比例する。地球の半径と同じ高さに上ると、中心からの距離は地上にいたときの2倍になる。すると重力は地上の4分の1=0.25Gに減少する。

地球の半径の2倍だけ登ると、距離は3倍、重力は9分の1=0.11G。宇宙飛行士は、重力が0.1Gになれば「無重力」と感じるという。このあたりから感覚的にほぼ無重力ということだ。

そして、地表から月面までの37万6283kmは、地球の半径6378kmの59倍。つまり、悟空の月往復は、ほとんど無重力の旅なのだ。

そうなると「うんせ うんせ」が、またも重要な意味を帯びてくる。そう言いながら登っていった悟空は、自分とウサギ団の体重を超える力を出していたはずだ。

いずれも大柄なウサギ団3人の合計体重を250kg、悟空の体重を30kgと仮定すると、280kg。その力を無重力の宇宙空間で発揮すると、自由落下と同じ勢いでスピードアップできる。

具体的には1秒後に時速35km、2秒後に時速71km、3秒後に時速106km。このペースなら、たった14分48秒で目標平均速度のマッハ26に達してしまう!

しかも帰りは自分1人だから、もっと速い。地表から月面まで完全に無重力だったとすると、行きは3時間26分、帰りは1時間8分、往復で4時間34分! 実際には、地球と月の重力が働くが、そこまで精査しても往復5時間41分!

なんと体重30kgで280kgの力が出せて、地球と月をつなぐ棒があれば、6時間足らずで月まで往復できるのだ。

では、これに必要なエネルギーはどれほどか。

大変なのは250kgを抱えての往路で、重力を考慮した場合、孫悟空は2時間54分後に地球から19万2000kmの地点でマッハ177に達する。安全に月面に下りるには280kgの摩擦力でブレーキをかける必要があるが、その段階では悟空は如意棒を握っていればよく、エネルギーを出す必要はない。登り棒を滑り下りるのは、登るよりずっと楽なのと同じだ。

エネルギー[J]=力[kg重]×重力加速度[m/秒2]×距離[m]

の関係から、悟空が発揮したエネルギーはこうなる。

エネルギー[J]=280[kg重]×9.8[m/秒2]×1億9200万[m]=5270億[J]

エネルギーの一般的な単位である[kcal]に直すには、これを4184[J/kcal]で割って、1億2600万kcal。コンビニのおにぎり(179kcal/120g)にして70万個、84t分!

幼少の頃よりこんなエネルギーが出せる人が、猛烈な修業を積んだら、そりゃもうビックリするほど強くなったのも当然だろう。

亀仙流の修業の成果は?

この悟空が、亀仙人のもとで修業を積んだわけである。初出場する天下一武道会に備えて、クリリンと共に厳しい修業に明け暮れた(3巻)。

そのメニューは、「ランニングしながら牛乳配達」「手で畑を耕す」「道路工事のアルバイト」「大きな岩を動かす」「サメのいる湖を10往復」「縄で動きを制限されて蜂から逃げる」。20kgの甲羅を背負ってはいたものの、一見地味だった。

ところが7カ月後、悟空はものすごく強くなっていた。直径6.5m、高さ7mのドーム状の大岩をズズズと動かしたのである。推定重量500tを!

しかも、地面の土をかき分けながら岩を動かしている。硬い床の上で岩を滑らせるのなら、重さの半分ほどになる摩擦力を越えれば動かせるが、このようにズズズッと土をかき分けるとなると、おそらくは重さに匹敵する力が必要だろう。

このとき、悟空が出したエネルギーは、先ほどと同じ式で求められる。滑らせた距離を1mとすれば、こうだ。

エネルギー[J]=50万[kg重]×9.8×[m/秒2]×1[m]=490万[J]

これは1170kcalであり、おにぎり6.5個分。えっ、たったそれだけ!? と思った方は、アタマがウサギ団化しているので、ご用心。

1170kcalと言えば、体重70kgの人が16.7km(=1170÷70)走らないと消費できないエネルギー。悟空はこれで、体脂肪130gを一気に燃やしたはずなのだ! 

同じことを、クリリンもやっていた。後に「地球人最強」と呼ばれる男の片鱗を早くも見た!

そして、天下一武道会に出かける朝、亀仙人は悟空とクリリンに甲羅(このときは40kg)を外させて「おもいきりジャンプしてみろ」と言う。2人が跳ぶと、ばひゅーんと上昇。2人は「オ オレたち……」「じぶんでとんだんだよな…」と驚きながら降りてくる。

時間の分かるアニメで測ると、滞空時間は9秒。空気抵抗を無視すれば、4.5秒上昇して、4.5秒で降りてきたことになる。

これはすごい。2人が跳んだ高さは、次の式で求められる。

ジャンプ高度[m]=1/2×重力加速度[m/秒2]×上昇時間[秒]2

計算すると、99.225m。33階のビルの高さ!エネルギーは、

エネルギー[J]=体重[kg]×重力加速度[m/秒2]×ジャンブ高度[m]

で求められ、2人の体重を30kgとすれば、2万9200Jとなる。ウサギ団化している方には、物足りないと思うが、他の数値を見れば意味がお分かりいただけるかと思う。

・跳び上がった速度:時速159km=プロ野球の投手のストレート並み!
・走る速度:時速318km=東海道新幹線(時速285km)より速い!

時速318kmで助走して、時速159mで跳び上がれば、走り幅跳びの記録は723.8m。長径350mの国立競技場を2つ跳び越えられる!

常人ならすっかり満足するレベルだが、悟空もクリリンもさらなる高みを目指した。もはや尊敬に値する少年たちである。

忘れがたい悟空vsチャパ王戦!

幼少期の悟空のプレーで筆者の胸に残るのは、2度目に出場した第22回天下一武道会の予選、チャパ王との試合である。前回の武道会から、3年がたっていた。

チャパ王は、以前に出場した天下一武道会で、対戦相手に一度もかすらせずに優勝をさらった超強豪。対する悟空も、カリン塔での修業を終えていた。

開始直後、悟空はジャンプからの正拳突きでチャパ王をよろめかせる。これで本気になったチャパ王は「八手拳」を出す。あまりに速い動きで、腕が8本に見えるという驚異の技だ。

これはおそらく、残像による現象だろう。人間の網膜に残像が残る時間は0.1秒。その間に8発のパンチを出せば、止まった瞬間の腕が8本見えることになる。

ということは、1発あたり0.0125秒。超長身のチャパ王が1発のパンチで拳を90cm動かすとしたら、速度は秒速72m=時速260km。

ただしこれは平均速度であり、パンチのように静止した状態から始動する場合は、最高速度は2倍となって時速520km。通常のボクサーのストレート(時速40km)の13倍である!

これを悟空はことごとくよけ、ふっと消えて高々とジャンプした。0.0125秒おきに迫るパンチにかすらせもしなかったということは、悟空はその一瞬で自分の身長分を上昇したということだ。

このときの悟空の身長を140cmとすると、離陸速度は秒速112m=時速403km。そのまま上昇すれば、高度640mに達していた。3年前(99m)の6倍を超える!

もちろん、試合場(予選は屋内)の天井はそんなに高くなく、悟空は天井を蹴って急降下。ここでチャパ王はほくそ笑む。「空(くう)では自在には動けんぞ!! 狙えといっておるようなものだ!!」。

これはまさにその通りで、空中ではスピードや方向を変えることはできない。天井がチャパ王の攻撃エリアより10m高く、そこから離陸速度と同じ秒速112mで降下すると、その0.089秒後、悟空は秒速112.9mでチャパ王の攻撃エリアに突入する。0.0125秒でパンチが出せるチャパ王にとって、まさに「狙えといっておるようなもの」であろう。

ところが悟空は、チャパ王がパンチを出すと同時に「はっ!」と叫ぶ。すると悟空の体には空中で「キッ」とブレーキがかかり、チャパ王のパンチは空振り! 見ていた亀仙人は脂汗を流してつぶやく。「爆風のようにはきだした息で自分を一瞬とめおった……!!」。ななななな、なんですと~!?

人知を超えて修業を積んだ悟空の肺活量を10Lとしよう(成人男性は3~4L)。肺の中の空気の温度を体温と同じ36.5℃とすれば、その密度は1L当たり1.14g。すると悟空が吐いた空気は11.4gとなる。

前回から3年たった悟空の体重を40kgとすれば、それは吐いた空気の3500倍だ。その重さで、秒速112.9mで降下する自分を静止させるには、降下速度の3500倍の秒速396km=マッハ1160で息を吹き出さないと!

これに必要なエネルギーは8億9400万J。それでもやっぱりウサギ団を月へ運んだときの5270億Jに比べれば……と落胆した方は思い出していただきたい。

ウサギ団の移送で、悟空は2時間54分かけて5270億Jを出した。「1秒当たりのエネルギー」=「仕事率」に直すと、5万50kWである。小型の水力発電に匹敵し、さすがサイヤ人だが、対チャパ王戦で悟空は一瞬で8億9400万Jを出したのだ。

悟空の口の直径を5cmとすれば、10Lの空気をマッハ1160で吹き出す時間とは0.0000129秒。仕事率は695億kW。亀仙人との修業とカリン塔登攀はムダではなかった!

元々とてつもなく強い若者が、修業を重ねて果てしなく強くなっていく。こうした物語が多くの人々の魂を揺さぶるのは、我々の胸にも「向上心」というものがくすぶっているからではないだろうか。空想の物語は、そんなことにも気付かせてくれる。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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