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空想未来研究所2.0

識別怪獣兵器(ナンバーズ)の威力/怪獣8号

『怪獣8号』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるのは『怪獣8号』。怪獣から日本を守るために戦う防衛隊員が装着する、戦闘用スーツのスゴさをエネルギーの観点から考察しました。

『怪獣8号』は、もし怪獣が本当に出現したら……をリアルに描く物語だ。

怪獣の出現が「災害」と見なされ、人間が対処している世界。その歴史は古く、1657年に明暦(めいれき)の大怪獣が現れ、1972年に札幌市が怪獣2号によって壊滅寸前に追い込まれた。
日本防衛隊・第3部隊副隊長の保科宗四郎(ほしなそうしろう)は、室町時代(1336~1573年)から続く怪獣討伐隊の一族。人類と怪獣との戦いは、700年近くも続いている。 この壮大な物語の中で、注目したいのは「防衛隊のスーツ」である。
怪獣たちの強さは、Ft.(フォルティチュード)で表される。多くの災害では、Ft.6.0を超える「本獣」と、それ以下の「余獣」多数が出現し、Ft.8.0以上は「大怪獣」と呼ばれる。Ft.9.0以上は「識別怪獣」として別格扱いとなり、「怪獣●号」という識別番号が与えられる。主人公の日比野カフカは、口に怪獣が飛び込んだことで、自分も怪獣に変身するようになった。そのFt.は最大9.8! ここから、「怪獣8号」と呼称されている。

防衛隊のスーツは、怪獣の筋繊維や細胞を組み込んだ生体兵器で、装着すると隊員の戦闘能力が大きく上がる。その中でも、識別怪獣から作った強力なスーツが識別怪獣兵器(ナンバーズ)なのだ。それだけに適合者しか着られないが、モーレツに強力で、怪獣たちとも互角に渡り合う!

装着することで、人間が生身で怪獣に対抗できるとは驚きである。その性能に、エネルギーの視点で迫ってみよう。

ノーマルスーツもすごい!

隊員が標準装備するスーツは「ノーマルスーツ」と呼ばれる。ある隊員によると「筋力が数段上がったような実感がある」という。

実際、隊員たちは「スーツの補助なしだとクソ重い」(カフカ:談)装備を身に着けて戦うし、第1部隊隊長の鳴海弦(なるみげん)は、100kgを超えそうな銃剣を軽々と振り回し、第3部隊隊長の亜白(あしろ)ミナに至っては、それさえも上回りそうな重火器を持って現場を駆け巡る。

これは深々と納得できる。例えば、人間と同じ体形で、身長50m=人間の30倍の怪獣がいたとしよう。もし筋繊維の強さが同じなら、筋肉が出せる力は、筋肉の断面積に比例して30×30=900倍になるが、体重は30×30×30=2万7000倍になるから、全く動けない。しかし、怪獣たちは人間以上の運動能力を見せる。ここから考えると、筋繊維1本1本の強さが人間の筋肉の30倍を超えることに! これを装着するのだから、驚異の怪力になって当然なのだ。

だが、それだけに危険も伴う。10分という制限時間があり、これを超えると、駆動限界(オーバーヒート)となり、鼻や口、そして目からも出血する! 打撃も受けないのに、これらの部位から出血するということは、血圧が危険なレベルにまで上昇するのではないだろうか。

識別怪獣兵器は、これ以上に強力で、危険である。
それが語られたのは、日本防衛隊の長官・四ノ宮功(しのみやいさお)が、自ら識別怪獣兵器2を装着し、怪獣9号と戦った場面だ。現場で長官のバイタルなどをチェックし、支援していたオペレーターは言う。「識別怪獣兵器の全解放は 負荷が強すぎて使用者の命を削る…!! だが対価として得られる力は 人の姿をした大怪獣の出現に等しい」。
また、カフカと同期入隊の市川レノが、識別怪獣兵器6の適合テストを受ける前、上司は忠告した。「識別怪獣兵器は(中略)使用者の半数は除隊前に命を落としている」。 一体、どれほど危険で強力なの!?

エネルギーがすご過ぎる!

それは、実戦に表れている。3つの識別怪獣兵器を見てみよう。

四ノ宮長官の識別怪獣兵器2は、札幌市に大打撃を与えた怪獣2号から作られた。これが最大の威力を見せたのは、先ほど触れた怪獣9号との戦いだった。長官が突き出した拳から、何かが放たれる。オペレーターが「指向性エネルギー攻撃!?」と脂汗を流し、副長官が独白&発言する。「札幌を壊滅させた2号の主攻撃力(メインバースト)!!」「人間の体でそんなものを放てば」「お前の身が保(も)たんぞ功…!!」。だが、既に放たれたそれは、9号の体を貫いた上に、背後のビルに、巨大な穴を開けた!

その穴というのがとてつもない。ビルそのものは30階建てぐらいなのだが、穴の直径は16階分! 1階分を3mとすれば、直径48mである。ビルの前後の幅はその半分ほどで24m。一般的なビルでは、全体積の20~25%を建材が占めるから、ここではコンクリートに注目し、それが全体積の20%を占めるとしよう。そして、コンクリートの密度は、2.45[t/m3]。破壊した重量は2万1300tである!

しかも、破砕したのではなく、熱で蒸発させたように見える。コンクリートの主成分である炭酸カルシウムは、825℃に加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに分解する。二酸化炭素は空中に逃げ、酸化カルシウムは粉末と化すから、蒸発したように見えるだろう。このとき、長官の指向性エネルギーが放った熱は、次の式で求められる。

熱[J]=比熱[J/kg・℃]×質量[kg]×温度上昇[℃]

コンクリートの比熱は1050[J/kg・℃]、2万1300t=2130万[kg]、気温が20℃だったなら、825℃までの温度上昇は805℃。ここから計算すると、1050×2130万×805=18兆J! 平和利用を考えて電力量[kWh]に直すと、1[kWh]=360万[J]から、500万[kWh]。日本最大級の富津火力発電所(最大出力516万kW)が58分間フル稼働して生み出す電力量である。これを四ノ宮長官は、一瞬で放ったのだ!

指向性エネルギーとは、一つの方向に放たれるエネルギーのことで、その実体が何であれ、必ず反作用が発生する。それが最も小さくて済むのはレーザー(※)だ。その場合の反作用は、次の式で求められる。

反作用[kg重]=エネルギー[J]÷時間[秒]÷光速÷重力加速度

光速は3億[m/秒]、重力加速度とは重力の強さを表す数値で、地上の場合は9.8[m/秒2]。ここから、四ノ宮長官が0.1秒で18兆Jのレーザーを放ったとすると、その反作用は、18兆÷0.1÷3億÷9.8=6万1200kg重=61.2tである!

副長官の言うように、とても身が持ちません。しかし、四ノ宮功長官は立っていた!

※レーザーとは、光の波長と位相(山と谷)をそろえて放つもの。隣の光同士が互いに邪魔をしないので、①減衰が小さい(遠くまで届く)、②細く絞り込める、などの性質がある。①は通信に、②はデータの保存や金属加工などに応用されている。また、何かを同じエネルギーで放つ時、質量が大きいほど、反作用は大きい。光は質量を持たないので、反作用は極めて小さい(ゼロではない)。

娘も負けてはいない!

識別怪獣兵器4の装着者は、四ノ宮長官の娘のキコルだ。

これには物語がある。亡き母のヒカリは、第2部隊隊長で「ワルキューレ」の異名を取っていた。10年前、怪獣6号を倒したが、殉職する。そのとき母が装着していた識別怪獣兵器4を、キコルは受け継いだのだ。

識別怪獣兵器であるから、当然、危険を伴う。筆者が背筋を凍らせたのは、出動シーンだった。
有明りんかい基地ノースエリアから、怪獣が現れた新宿歌舞伎町に向けて「識別怪獣兵器4専用 電磁射出装置」から、楕円形のポッドに収納されて水平に発射された。オペレーターも「これなら一瞬で討伐エリアに現着できる!!」と驚いていた。オペレーターが驚くようなマシンに、人を乗せないで~。

地図で測定すると、有明から歌舞伎町までおよそ11km。「一瞬」といっても、現着までの時間だから、10秒ぐらいだろうか。だとしても、速度は秒速1100m=マッハ3.2!
こんな速度で打ち出されると、加速のときに大きな力を受ける。車が急発進すると、背中がシートに押し付けられる力で、科学で「慣性力」と呼ばれる。「体重の何倍か」を表す単位[G]で求める式は、次の通り。

慣性力[G]=最終速度[m/秒]2 ÷加速距離[m]÷2÷重力加速度

コマから推測すると、加速距離はキコルの身長(157cm)の50倍ほどで78.5m。すると、慣性力は11002 ÷78.5÷2÷9.8=786G。キコルの体重が50㎏なら39.3t! 父が受けた反作用の61.2tには及ばないが、それでもすごい。

人間は、10G以上の慣性力を受けると失神すると言われる。通常の隊員なら失神して現着するところ、キコルは平然と討伐を開始した。さすが、怪獣討伐のサラブレッド!

脳が1分しか持たない!

識別怪獣兵器1の装着者は、第1部隊隊長の鳴海弦で、その能力は「未来視」だ。「生物の運動時 脳から発せられる信号を視覚化することで 本人の体が動くより先に それを察知する」。これはスゴイ! ところが、水をフルオートで動かす怪獣11号が現れた。水は生物ではないから、未来が読めない!

だが、鳴海は能力を進化させていた。「電気信号に加え 全身の眼(め)から 電子の動き 温度変化や地形 この場の全てを把握し 次に起こる現象をビジョンとして予知する 文字通り 未来を視(み)る力」を「自ら開花させ獲得した」という。

「この場の全て」を把握できれば、確かに、次に起こる現象を過たず予測できるだろう。もはや、無敵では!? と思いきや、オペレーターが叫ぶ。「出力異常値です!!」「特に脳神経への負荷が異常だ こんな状態じゃ 隊長の脳は1分と持たない…!!」。え~ッ、脳があと1分!?

だが、これに納得せずして、何に納得しよう。「この場の全て」が見えるとしても、その膨大な情報は、鳴海隊長の脳が処理しているはずだ。生物は、消費したエネルギーを全て利用することはできず、必ず一部は熱に変わる。例えば、筋肉はエネルギーの50%で運動し、残りの50%が熱になる。鳴海の脳においても、情報の処理量があまりに多いため、大量の熱が発生し、脳が危険な状態に陥ったのではないか?

人間の脳は、温度が42℃になると危険だ。詳細は省くが、そうなるのは脳で7.15kcalの熱が発生したとき。熱への変換率が筋肉と同じだとすれば、消費するエネルギーは14.3kcal。すると、このとき鳴海の脳は1分で14.3kcalを消費した!?

これも詳細は省くが、鳴海の体重を70kgとすると、1日に脳が消費するエネルギーは806kcalで、1分あたり0.56kcalだ。その25.5倍も消費したら、「脳があと1分」になっても不思議はない!

災害とも見なすべき危険生物に、どう対処するか。全てはそこから始まったのだろう。そして、駆除するだけでなく、その死骸を資源として利用するという発想を得た。見事な拡大再生産だが、それは使う人間の負担を増大させることでもあった。科学技術の発展と、人間の関係を喝破している、と筆者は思う。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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