1. TOP
  2. 空想未来研究所2.0
  3. 5万8000人が生活した超時空要塞のスマートライフ
空想未来研究所2.0

5万8000人が生活した超時空要塞のスマートライフ

超時空要塞マクロスに住む人々の生活について考察してみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「スマートシティ」。1980年代を代表するSFアニメ『超時空要塞マクロス』で5万8000人が住んでいたマクロスの中の生活がどんなものだったのかを考えてみました。

宇宙を航行する究極の生活スタイル

最近「スマートシティ」という概念が注目されている。IoTなどを駆使したエネルギーや資源の有効利用によって、環境への負荷を軽減する都市計画のことだ。

これを聞いて思い出したのが、アニメ「超時空要塞マクロス」(1982~83年)である。その劇中で行われた驚くべき試みに、筆者はいまでも感動している。

舞台は西暦1999年。南アタリア島に宇宙から巨大な物体が落下した。それは、全長1200mという巨大な宇宙戦艦だった!これによって、人類は異星人の存在と、それが交戦状態にあることを知り、異星人の攻撃に備えて世界統合政府を樹立し、落下した宇宙戦艦を改修することを決定した。

2009年、宇宙戦艦の改修は完了し「マクロス」と名付けられた。ところが、進宙式の最中に、宇宙からの攻撃を受ける。離陸して応戦するが、歯が立たない。そこで、南アタリア島に帰還すると見せかけて、月の裏側へのフォールド(瞬間移動)を敢行する。

ここで、予想外の事態が発生。マクロスは南アタリア島を含む周囲の空間ごと、冥王星軌道付近に飛ばされてしまったのだ!南アタリア島には、シェルターに避難していた5万8000人の住民がいた。そのうえ、フォールド装置が消滅。マクロスは全員を収容し、異星人と戦いながら通常航行で地球を目指す…。

つまり地球に着くまでの間、5万8000人の一般市民は、マクロスの艦内で生活しなければならなくなった。

エネルギーも資源も、水や空気という環境要素も限られている。そのうえ全長1200mとはいえ艦内空間は限られているため、環境の破壊や悪化は、たちどころに自分たちに返ってくるだろう。よほど計画的に運営しなければ、5万8000人の市民は全滅してしまう…。

いまこそ求められるのだ、究極のスマートシティが!さて、この状況下、人々はどのように暮らしたのだろうか。

艦内の空気は足りるのか?

5万8000人の市民たちは、まことにたくましかった。

「船のなかはガランドウだから」と言って、一緒に飛ばされた建物などを艦内に移設し、町を完全に再現したのである。

建物の間を道路が走り、自動車まで走っていた!
街を見下ろす丘も再現されていた!
ヒロインのリン・ミンメイの伯父が経営する中華料理店は、営業を再開した!
リン・ミンメイは歌手になり、大会場を沸かせた!

劇中ではこれらが自然に行われていたが、科学的に考えれば、あまりに地球と変わらない生活を送り過ぎである。

しかし、それが実現できたらスバラシイ。いったいどんなテクノロジーが注ぎ込まれているのか、具体的にいくつか考えてみよう。

まず、気になるのは空気である。

マクロスは、要塞艦(船の形)から強攻型(人型ロボットの形)に変形できるのだが、要塞艦時のサイズは全長1210m、全幅465m、全高335m。もし直方体なら体積は1億8800m3になるが、ブリッジなどの凹凸もあるので、内部空間はその半分と考えよう。

また、艦内にはエンジンや主砲があるから、居住空間はさらにその半分ぐらいか。その場合、居住空間の容積は4700万m3だ。

空気の体積も、これと同じと考えていいだろう。

ここで5万8000人が暮らすとなると、1人あたりの空気は810m3となる。

人間は平静時、1回の呼吸で0.5Lの空気を出し入れし、1分に14回の呼吸をする。ここから計算すると、1日に呼吸する空気の体積は10m3。1人あたりの810m3とは、たったの81日分!

マクロスは地球への帰還に1年かかっていたけれど、これで足りるの!?

水の浄化は可能だろうか?

続いて心配なのは、水である。

人間は、生命を保つために1日に2.5Lの水を必要とし、そのうち1.5Lは食べ物や代謝水(呼吸などで発生する水)から、残る1Lを飲料水から摂っている。洗濯や入浴などで使う水も合わせた生活用水は、1日あたり1人250Lといわれる。

マクロスの人々は、地球とまったく変わらない生活をエンジョイしていたから、やはり1日に250Lを使っていたのではないだろうか。

すると、5万8000人で1万4500tである。これは25mプール32杯分であり、1年間だと1万2000杯分。そんなに大量の水を備蓄していたとは思えないから、循環させる必要があるだろう。

国際宇宙ステーションでは、尿などを浄化して水の35%を循環させている。宇宙飛行士1人が1日に使う水の量は3.5Lで、人数は6人だから、浄化装置では1日に7.35Lの水を作っていることになる。

1日に1万4500tの水を使うマクロスでは、この浄化装置が200万台必要だ。浄化装置は大型冷蔵庫ほどの大きさだというから、1m2に1台置くとすれば、必要な面積は200万m2=2km2である。

マクロスの艦内は、見渡す限り浄化装置、浄化装置、浄化装置……。

エネルギーはやはり太陽光発電

もう一つ、エネルギーについて考えよう。

日本の発電量は、およそ1億kW。資源エネルギー庁の資料によれば、そのうち33.8%が「家庭部門」と「業務部門」で使われている(2011年発表)。

ここから考えると、1億2700万人が暮らすには、工業や輸送を行わなかったとしても、3380万kWが必要ということになる。5万8000人なら、1万5400kWだ。

国際宇宙ステーションでは、太陽光発電で電力を供給している。マクロスも市民が生活するためのエネルギーを太陽光発電で確保していると考えたらどうだろうか。

現在の太陽光発電パネルは、光のエネルギーの20%を電力に変換する。地球軌道付近の宇宙空間には、1m2あたり1360Wの太陽光が降り注いでいるから、1m2あたり272Wの発電が可能になる。

これで5万8000人が暮らすための1万5400kWを得るには、5万6700m2の太陽光パネルがあればよい。

マクロスを上から見たときの断面積は56万m2だから、その10分の1でいいわけだ。おお、これなら楽勝!

……と思ったが、それは地球軌道付近での話。マクロスの望郷の旅が、冥王星軌道付近から始まったことを忘れてはならない。

冥王星は楕円軌道を描いており、太陽からの距離は、太陽-地球間の40倍もある(平均値)。太陽から受ける光のエネルギーは、距離の2乗に反比例するから、1600分の1の光しか届かないことになる。

それで1万5400kWの発電をするには、1600倍の面積の太陽光パネルが必要になる。それは91km2と今回最大の面積であり、マクロスの断面積の160倍!

うーん。もう宇宙戦艦が飛んでいるのか、太陽光パネルが飛んでいるのか、分からないかも。

もはやスマートシティの対極の話になったけど、一般市民5万8000人を無事に地球まで届けるとは、これほど大変なことなのだ。

こうした背景のもと、夢や愛や人間の心の弱さを描いた『超時空要塞マクロス』。人間の想像力は、まことに素晴らしい!

※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 空想未来研究所2.0
  3. 5万8000人が生活した超時空要塞のスマートライフ