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遠隔操作ロボットの巨大試験場を見学

実は誰でも使える!?「楢葉遠隔技術開発センター」の全貌

水深5m巨大な水槽や、16台もの高速度カメラがズラリ!2016年4月に本格運用を開始した「楢葉遠隔技術開発センター」。施設名に違わぬロボット試験用の最先端の設備がそろっているようで、しかも民間にも門戸が開かれているらしい。いったいどんな場所なのか?

福島にある遠隔操作ロボット専用研究施設

今回、取材班が訪れた場所は、福島県楢葉町。東日本大震災以降、2015年9月に避難指示が解除された地区だ。

最寄り駅の常磐線木戸駅からは、事前に予約したタクシーに乗れば5分ほどで着く。

「楢葉遠隔技術開発センター」は、福島第一の廃炉作業で必要不可欠な遠隔操作ロボットなどの開発・実証試験を行う施設で、国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構が運営している。

といっても、廃炉作業に携わる専門家や企業だけではなく、民間にも解放されており、“ロボコン”の準備に励む高等専門学校生が利用することもあるらしい。研究開発とは少し離れるが、文部科学省が主催したロボットコンテストも施設内で開催されている。

普段はなかなかお目にかかれない最先端の設備や技術と触れ合えそうなチャンス。さっそく取材班は施設内に潜入した。

VR実験でロボットの精度を上げる!

「まずはバーチャルリアリティシステム(VR)を備えた研究管理棟にご案内します」

出迎えてくれたのは、同施設の副センター長である小島久幸氏だ。

最新ゲーム機やアミューズメント施設で使われることが多いVRを、どうやってロボット開発に役立てているのだろうか?

「人の立ち入りが制限される原子炉建屋内の様子を、バーチャルで正確に再現しています。例えば、ロボットが通れるスペースが施設内にあるのか、実体験に近い感覚を得ながら作業計画をシミュレーションすることができるのです」(小島氏)

百聞は一見にしかず。さっそく、取材班はVRシステムを体験させてもらうことに。

三次元を再現するメガネを装着して、指定された壁の前に立った瞬間……思わず息を飲んだ。

目の前に、無数の配管が現れたのである。

肉眼で見ると白いスクリーンで囲われた空間に原子炉建屋内が投影されているだけなのだが、メガネを通して見ると本当に現場にいるような立体感を味わえる。

サポート役のスタッフが手元のコントローラーを操作することで移動ができ、スクリーン上に近付けば配管などのちょっとした隙間の距離を測定体験することもできる。

また、画面の隅には時間の経過とともに放射線量を表示する機能も。

バーチャル空間を利用して作業者の模擬訓練を行えるだけでなく、開発中のロボットのデータを取り込めば、VR画面内を走行させること可能だという。

言わずもがな、最先端の技術を盛り込んだロボットは高価なため、壊れたからといって簡単に作り直せるものではない。

だからこそ、VR内で階段を走らせてみるなど、「どれだけハードな使い方に耐えられるのか」といった仮想実験をしておくことが大切なのだ。

「ロボットを遠隔操作するためには、非常に繊細な技術を必要とします。炉内で実機を稼働させる前にシミュレーションを重ねることで、より精度の高いロボットの開発を目指すことが、このVRシステムの役割です」(小島氏)

ロボットを試験する実寸大模型

仮想空間での訓練を終えて、次に向かったのはリアルな環境で実証試験ができる設備。研究管理棟を出て、向かいに建つ試験棟に移動した。

ひと言で表現すると…

とにかく、でかい。

高さ40m、幅80m、奥行き60m。もちろん内部にガンダムが格納されているわけではなく、待ち構えていたのはスケールの大きな数々の設備だ。

中にあるのは…

巨大な筒。

直径4.5m、深さ5mのこの筒は水中ロボット試験用の水槽で、60℃までの海水や濁水の条件を模擬的に作り出すことができるらしい。

水槽の小窓から見える水中ロボット。撮影している映像はモニターに出力されている

この日も水槽内では、遠隔操作で動く水中ロボットが稼働しており、モニターにはロボットが撮影している内部の様子が映し出されていた。

水槽の外で水中ロボットの映し出す映像を見ながら操作する

続いては、さながらフットサルの練習場のような網張りのエリア。

ここには16台もの高速度カメラが設置してあり、幅10m、奥行10m、高さ2mの範囲なら±1.5mmの誤差で、全方位から動作を捉えるモーションキャプチャが可能な場所だ。ロボット開発に欠かせない最先端の実験施設を備えていることが分かる。

モーションキャプチャ(右)エリアなどは、移動式のカメラによって映像を記録している

また、現場での稼働を想定したモックアップも用意されている。

さまざまな階段を再現できるエリアや…

傾斜や幅を調整できる階段のモックアップ

実際の現場に近い状態に近付けた階段で、ロボットの昇降などの動きを試すことができる

瓦礫が散乱した場所の凹凸を積み木で再現するエリアがあり…

瓦礫が散乱した凸凹を再現したエリア

段差やスペースなどを調整してロボットの走行テストに活用する

その周囲には訓練に臨む試験機たちが待機中。

今後、状況調査用や除染作業用など、あらゆるタイプのロボットの試験がこの場所で進められることになるそう。

研究開発された状況調査用ロボットや作業用ロボットなどの走行実験が行われる

状況調査用ロボットには放射線を測定できるカメラも

さらに、試験棟内で存在感が際立っていたのが…

原子炉内の圧力抑制室(サプレッションプール)の実寸大模型を、8分の1にカットしたもの。

目下、重要視されている止水技術の開発に使われている場所だ。

かなり専門性の高い設備がそろっているが、前述の通りこのセンターは民間にも開放されている。

例えば試験用水槽は1日あたり4560円、モーションキャプチャーは2万1375円で使用することが可能だ。また、中小企業や教育機関に半額となる特別措置もある。設備投資に大金を回せないスタートアップ企業も、ロボットの実証実験に踏み切りやすいのではないだろうか。

「未来のためには、人材育成も重要ですので、学生さんはもちろん、今後はさらに幅広い方々に使っていただきたいですね。また、地元企業がセンターの最新設備を使ってロボット開発に成功すれば、新たな事業がおこり、地元での採用が増えるかもしれません。われわれは、地域の復興に貢献できることも目指しています」(小島氏)

楢葉遠隔技術開発センターは、震災後に失われた浜通り地域の産業基盤の再構築を目指す「福島イノベーション・コースト構想」の一翼を担っている。

最先端の設備を備えた“場”に多くの“人”が集まり、育つことが、今後の大きな希望となるのだ。

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