
2018.3.9
地球環境に「やさしい」ガソリンって?
エネルキーワード 第28回「バイオガソリン」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第28回は「バイオガソリン」。植物を原料に含むバイオガソリンが果たす役割や、導入の壁となっている問題、そしてバイオガソリンによって変わる未来について考えてみました。
-
TOP写真:沖縄県宮古島市 E3(エタノールを容積比で3%含む燃料)専用給油所 2009年
ガソリンには無鉛とハイオクぐらいしかないと思っていませんか?あなたの知らない間に他の成分が混入していたら…?今回はそんなちょっとミステリアス(?)な話題です。
エタノールがガソリンに?
「エタノール」は皆さん聞いたことありますよね?そう、アルコールの一種で、「エチルアルコール」とも呼ばれます。注射する時の消毒液に含まれています。ヒヤっとするあれですね。もちろんお酒にも含まれています。
その「エタノール」はトウモロコシやサトウキビなどの植物から作ることができます。それを「バイオエタノール」と呼びます。それに石油系ガスの「イソブテン」を混ぜると、「バイオETBT(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)」という物質ができます。これを1%以上配合したガソリンが「バイオガソリン」です(図1)。
-
(図1)バイオガソリンができるまで
なぜこんなことをするのでしょう?
バイオガソリンの役割
ずばり、「バイオガソリン」の役割は地球温暖化防止です。
地球温暖化の原因は大気中の「温室効果ガス」ですが、その中で最も量が多いものが、燃料の燃焼などによって排出されるCO2=二酸化炭素です。
「バイオガソリン」はもともとの原料が植物です。植物は成長過程で光合成によって大気中のCO2を吸収しているため、のちのち燃焼によって発生するCO2は、排出量として計上されないことになっています。この考えを「カーボンニュートラル」と言います(図2)。こうしたことから「バイオガソリン」は「環境にやさしい燃料」と定義づけられているのです。
-
(図2)カーボンニュートラル
地球温暖化対策の観点や、さらには運輸部門の石油依存度を下げるためにも、「バイオガソリン」の導入は、有効な手段の一つなのです。
ではその「バイオガソリン」、どのくらい普及しているのでしょう?
バイオガソリンの導入状況
日本では、2005年4月に「京都議定書目標達成計画」が閣議決定され、輸送用燃料に対して原油換算で年間50万klのバイオマス由来燃料を導入する目標量が設定されました。
石油業界は、政府の要請に応え、2010年度に原油換算21万klのバイオガソリンを導入する計画を立て、目標を達成しています(図3)。
-
(図3)バイオ燃料(バイオガソリン)の導入実績
出典:バイオエタノールの導入に関する これまでの取組と最近の動向 平成29年12月27日 資源エネルギー庁 資源・燃料部 政策課
その後、2010年11月に「エネルギー供給構造高度化法」に基づき、バイオ燃料の導入が法制化されました。定められた導入目標に対し、石油連盟は2017年度も達成の見込みとしています。
一方で、政府はこの導入目標については、当面、原油換算50万kl・年をキープしていく方針だといいます。なぜでしょう?
バイオガソリンを増やせないワケ
実は、バイオガソリンはやみくもに増やすことができないのです。その理由は、バイオガソリンを作るために必要な植物由来のエタノールの供給にあります。
エタノールを製造するためには、その原料となるトウモロコシやサトウキビを作らねばなりません。耕作地には限りがありますから、たくさん作るためには、森林を開墾して畑の面積を増やさねばなりません。広大な耕作地を作る為には、多くの建設機械を稼働させねばならず、その際にCO2が大量に発生します。それでは元も子もありませんよね。
また、日本はバイオエタノールを海外、主にブラジルから輸入しています。海外からバイオエタノールを輸入していたら、その輸送のために化石燃料が使われてCO2が発生することになります。それも本末転倒ですよね。国内で作ればいいのでは?という疑問が湧くのも当然です。
実は国内でもバイオ燃料の製造が行われていました(図4)(図5)。国からバイオエタノール導入に必要なインフラ整備に関する助成が実施されていたのです。しかしその補助金が打ち切られ、現在ではほぼ全ての事業が継続を断念しています。日本にはブラジルのような広大な耕作地はありません。コストを考えるとこの狭い国土の日本でバイオエタノールを量産するのは難しかったようです。
-
(図4)現行の判断基準制定当時の国産バイオエタノール実証事業概要
出典:バイオエタノールの導入に関するこれまでの取組と最近の動向 平成29年12月27日 資源エネルギー庁 資源・燃料部 政策課
-
(図5)各国のバイオ燃料自給率
出典:バイオエタノールの導入に関する これまでの取組と最近の動向 平成29年12月27日 資源エネルギー庁 資源・燃料部 政策課
それではバイオガソリンはこれからどうなるのでしょうか?
バイオガソリンの未来
先ほど述べた通り、バイオガソリンに混合されているエタノールは海外から輸入されています。その原料は食糧となりうる農産物です。それでは本当に地球に優しいとは言えませんね。
そうしたことから、国内では、食糧と競合しない木質系バイオマスなどを原料とした次世代バイオ燃料の開発が進んでいます。増殖スピードの速い「藻」を原料としたバイオ燃料の研究も進んでいます。実用化にはまだ時間がかかりそうですが、量産が可能になれば、地球温暖化防止に貢献することでしょう。
こうした中で、今各国はガソリンエンジン車から、CO2を排出しない電気自動車(EV)へのシフトを急速に進めています。EVやさらに水素を燃料とする究極のエコカー、燃料電池車(FCV)にも熱い視線が注がれています。もちろんそうしたエコカーも、製造段階でエネルギーを使いCO2が排出されることを無視はできませんが、ガソリン車に比べ環境にやさしいことは疑いがないでしょう。
いずれにしても世界を走る車のほとんどがガソリンエンジン車である以上、バイオガソリンが必要とされている現状は変わりません。更なる技術開発でより安く、より効率のよいバイオガソリンが実用化されることに期待が集まります。
-
この記事が気に入ったら
いいね!しよう -
Twitterでフォローしよう
Follow @emira_edit