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2021.1.29
分別も不要になる? “ゴミの資源化”がもたらす未来社会のエネルギー事情
積水化学工業株式会社 新事業開発部 BRグループ長 細川秀拓、新事業開発部 BRグループ 事業化ユニット長 加納正史【後編】
微生物を使って可燃性ゴミからエタノールを作る積水化学工業株式会社のバイオリファイナリー・エタノール技術。2014年から実証実験を始め、2017年に技術を確立した。発表から3年がたった今、プロジェクトは次のステージへと移行している。前編に続き、同社新事業開発部の細川秀拓氏と加納正史氏に今後のプロジェクト展開の詳細を聞く。
新プラントが2021年度に稼働、2025年度の事業化を目指す
2020年4月、積水化学工業は産業革新機構から分割発足した株式会社INCJとの間で、合弁会社積水バイオリファイナリー株式会社を設立した。
これは積水化学と米国LanzaTech(ランザテック)社が共同開発したバイオリファイナリー・エタノール(以下、BRエタノール)技術の実証事業および事業展開を行うための新会社だ。
現在は岩手県久慈市に新たな実証プラントを新設中で、2021年度末には稼働をスタートさせ、新たな実証実験を行う予定となっている。その上で自治体やゴミ処理関連企業、プラントメーカーなどから広くパートナーや投資を募り、2025年度には事業化を目指すという。
「前回のパイロットプラントでは標準的なゴミ処理施設が処理できる廃棄物の1000分の1程度の量を分けてもらい、小規模な実験を行いました。しかし、久慈市に建設する今回のプラントでは大幅にスケールアップし、10分の1の量(1日約20t)をBRエタノール処理する予定です。これは事業化に向けた第一歩。施設の詳細設計を詰めながら、今から稼働開始までの期間が正念場になりますね」(細川秀拓氏)
※【前編】の記事「微生物でゴミからエタノールを生成! 資源循環型社会を描く積水化学のキーテクノロジー」
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「久慈市の実証プラントを通して、より多くの人にBRエタノール技術を知ってもらいたい」と語る細川氏
2014年の実証実験開始から、2021年で7年。BRエタノール技術を確立してから4年。
今回の実証プラント建設にあたっては多くの自治体が先進的で社会課題を解決する技術に関心を示したが、最も意欲的で、かつ諸条件が整っていた久慈市に決まったのだという。
国や地域と二人三脚で進める必要性
ここまで来たなら一気にスケールを拡大し、日本中にある約1000カ所に及ぶゴミ処理施設全てにBRエタノール変換プラントを導入したいところだが、そう一足飛びには話が進まないゴミ処理独特の事情がある。
「地域全体の廃棄物を処理できる専用プラントを新たに建てるとなると、まずは地域住民の理解を得なくてはなりません。それにはある程度の時間が必要となるでしょう。さらに建設のタイミングも重要です。大規模な工事になるので処理施設の改修時期に合わせる必要があり、そのスパンは短くても10~15年という単位。そのため、2025年度の事業化についても施設の稼働ではなく、専用プラントの受注を開始する時期と想定しています」(細川氏)
ゴミ処理施設の廃棄物処理方法にも課題がある。
BRエタノール処理を行うには、廃棄物をあらかじめ熱分解(ゴミを燃やさずに蒸す)してガス化するのが大前提。しかし、ガス化炉を採用している処理施設は全体の1割弱ほど。ほとんどの処理施設ではストーカ式と呼ばれるゴミを燃焼させる方法で処理している。
そのため、ガス化炉なら低コストでBRエタノール変換プラントを導入できるが、ストーカ式の場合はゴミ処理施設全体を建て替えなければならないのだ。
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加納正史氏は「CO2排出量を低減し、ゴミを資源化することのできるBRエタノール技術は今後ますます需要が高まるはず」と語る
「微生物でエタノールを生成するにはCOとH2が必要なのですが、廃棄物を焼却するストーカ式の場合はCO2になってしまいます。そのため、専用プラントを造るのに施設を丸ごと建て替えなくてはなりませんから、そこが一つ大きなハードルになると考えています。ただご存じのとおり、現代ではCO2排出量の削減が世界的な課題になっており、日本もその方向で進んでいますから、今後、既存のゴミ処理施設がストーカ式からガス化炉に置き換わる可能性は十分に考えられます。BRエタノールプラントを普及させる上では、有利な社会背景といえるでしょう」(加納氏)
そのため、まずは10分の1プラントで十分な実証を行い、できるだけ早い段階での専用プラント受注を目指すというのが現実的なプランというわけだ。
10年、20年という時間をかけて着実な社会浸透を目指す一方で、現段階でも複数の地方自治体や海外企業がプラント建設に関心を寄せているとのことなので、今後の展開には大いに期待できるだろう。
ごみを資源化することのメリットとは
BRエタノール技術のように、ごみを資源化する開発が私たちの未来にもたらすものとは何だろうか──。
CO2排出量の削減や石油資源の温存など、地球環境保護につながることは先述したとおり。それ以外でいえば、化石燃料への依存度が減ることで樹脂材料の安定的な供給につながるかもしれない。
日本は一次エネルギーのほとんどを化石燃料に依存し、中でも最大のエネルギー源である石油はほぼ100%、海外の石油産出国に頼っている。樹脂製品についても多くはナフサなどの石油が原料。これらの供給量や価格は国際情勢の変化に影響を受けやすいため、代替品の自給率を高めることは地下資源の少ない日本にとってメリットになり得るだろう。
さらに加納氏は、「より消費者目線に立つならば、可燃性ゴミを分別する必要がなくなる可能性も考えられる」と語る。
「私たちが開発した方式ですと、可燃性の廃棄物であればある程度混ざった状態でも処理できます。ゴミを細かく分別していただく必要がなくなるのは、消費者にとってはメリットの一つになるかもしれませんね。もちろん、既存のゴミ処理工程の中では分別がシステムとして成り立っており、収集日などの問題もあるので、実際にゴミの分別をやめるかどうかは地方自治体ごとの判断になると思いますが。また、ペットボトルやビン、カン、金属などはマテリアルとして再利用することが可能ですので、引き続き分別する必要があるでしょう」
つまりは、一企業が推し進めるのではなく、地域や国と協力しながら共に歩みを進めるべきプロジェクトということだ。
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アルコールの一種で身近な材料であるエタノール。樹脂製品の原料になるほか、燃料としての市場も大きく、汎用性が高い
さらにもう一つ、エタノールを原料とした新たな産業への期待もある。
同社は2020年2月、ゴミを原料としてプラスチックの一部であるポリオレフィンを製造する技術の社会実装に向けて、住友化学株式会社と協力関係を構築することの合意を発表した。BRエタノール技術を確立した積水化学工業と、ポリオレフィンの製造に関する技術・ノウハウをもつ住友化学が協力することで、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の取り組みを推進する目的だ。
これは住友化学だけでなく、今後生成されたエタノールを原料として樹脂素材などを作るビジネスが新たに誕生すれば、日本経済の活性化につながるかもしれない。
「経済への好影響は当社も将来的に期待している部分になります。そのためにもまずは早期の専用プラント建設を実現し、エタノールを大量に作れる態勢構築が必要です。さらに10カ所、20カ所と生産拠点数を増やしていきたいですね」(細川氏)
バイオリファイナリーが次世代の社会に与える影響
さて、微生物触媒によるゴミの利活用技術は実はまだ先がある。
2つ目の実証プラント建設を目前に、既に次のステップにまで視野を広げているという。
「今回、確立した技術はゴミからエタノールを生成するものです。エタノールからポリエチレンは作ることができます。しかし、繊維製品や自動車部品などに利用できるポリプロピレンは効率的に作ることが難しいので、次のステップとして、同じガスからポリプロピレンの原料となるイソプロパノールを生成する技術も同時に研究しています。イソプロパノールは工業分野において天然および合成樹脂の溶剤、医療分野では消毒剤として汎用されているアルコールの一種です」(細川氏)
ポリエチレンは生産高第一位のプラスチック原材料で、ポリプロピレンは同第二位。微生物の種類を変えることで両方の原材料を作れるようになれば、より多くのプラスチック製品にゴミ再生資源を使えるようになる。ちなみに同社で手掛ける合成樹脂製品の半分近くは、ポリエチレンとポリプロピレンから作られているそうだ。
取材の最後に、次世代に向けて遺していきたい未来を尋ねてみた。
「BRエタノールのようなケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルが積極的に導入され、できるだけ化石燃料を使わずに物を作れる未来になっているといいですね。資源循環が当たり前の社会になることに期待しています」(細川氏)
「石油の用途として最も大きいのはやはり燃料としてのエネルギー利用であり、樹脂製品の原料として利用される割合は一部にすぎません。ですが、樹脂製品の製造こそ私たちの本業。そこで資源循環を促し、持続可能な社会づくりに貢献することが大切だと考えています」(加納氏)
日本全体から出る廃棄物の総量をエネルギー換算すると、国内の樹脂製品生産を十分に賄える数字になるという。
人間が生活する限りは必ず発生するゴミを資源として循環・利活用する社会は、そう遠くない将来に必ずやって来るはずだ。
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text:田端邦彦 photo:安藤康之
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