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微生物でゴミからエタノールを生成! 資源循環型社会を描く積水化学のキーテクノロジー

積水化学工業株式会社 新事業開発部 BRグループ長 細川秀拓、新事業開発部 BRグループ 事業化ユニット長 加納正史【前編】

さまざまな社会課題を乗り越えた先には、どんな未来が待っているのか──。SDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれる中、積極的に技術革新に取り組む企業にインタビューし、次の100年間で新たなスタンダードとなるビジネスや暮らしの形をひもとく新連載企画。記念すべき第1回は、積水化学工業株式会社が2017年に確立したゴミを丸ごとエタノールに変換する世界初の革新的生産技術をフィーチャーする。ゴミを“都市油田”に変える夢の技術としてEMIRAでもこれまで複数回にわたって取り上げてきたが、本当にゴミを資源化することは可能なのだろうか。同社新事業開発部を訪ね、技術の核心を聞いた。

ゴミをガス化し、エタノールを生成する技術とは

環境省発表の「一般廃棄物処理実態調査結果」令和2年版によると、日本で出るゴミの総量は年間4272万t(生活系ゴミと事業系ゴミ、処理場への直接搬入量の合計。平成30年度の数字)。そのうち853万tはリサイクルされているが、直接資源として回収(マテリアルリサイクル)される割合は50%以下。残りの大部分は焼却した際に発生する熱を発電に利用するサーマルリサイクルとされている。

ペットボトルや紙といった特定ゴミではマテリアルリサイクルが進んでいる一方で、それ以外のほとんどのゴミは燃やされる。つまり、プラスチック製品などの多くは新たに石油を使って作られていることになる。

「100年後には、もしかしたら石油が枯渇しているかもしれません。廃棄物が直接的な資源として残らないサーマルリサイクルの今後が疑問視されている現在の状況において、私たちが開発した廃棄物をエタノール化するシステムは、新たな資源を生み出す技術になると期待しています」

そう語るのは積水化学工業株式会社 新事業開発部でBR(バイオリファイナリー)グループ長を務める細川秀拓氏だ。

「微生物を触媒に使ってエタノールを生成する技術は、ゴミの資源化という社会課題を解決する手段になる」と語る細川氏

同社は2014年より埼玉県寄居町で稼働中のゴミ処理施設内にパイロットプラントを建設し、実証実験を重ねてきた。約3年かけて確立されたエタノール生成技術(バイオリファイナリー技術)の概要はこうだ。
※2020年5月時点における開発状況の記事「ごみを丸ごとエタノールに変換! 世界初技術の本格導入で脱原油を目指せ」

まずはゴミを低酸素状態でガス化し、分子レベル(CO、H2)にまで分解する。ちなみに、可燃性の廃棄物であればどんな材質でも問題なく、紙や生ゴミなどと、プラスチックを分別する必要もない(※不燃物とは分ける必要あり)。

2014年に実証実験を開始した寄居町のパイロットプラント。廃棄物処理業者であるオリックス資源循環株式会社協力のもと、実証実験が行われた

ここまではゴミ処理施設がもともと有する技術であり、作り出されたガスは発電システムの燃料などとして使われている。

同社のエタノール生成技術では次のステップとして、このガスを精製し、夾雑物質(きょうざつぶっしつ/ガスに混じった不純物)を取り除いた後で微生物に与えるのである。

微生物がゴミ再資源化のカギ

この微生物は開発パートナーである米国LanzaTech(ランザテック)社が保有する特殊な株で、CO、H2などを含むガスを発酵させ、エタノールに変換するという特殊な能力を持っている。ガスを変換する反応速度が自然界に存在する原生微生物の10倍以上と非常に速く、特別な熱や圧力も必要ない。化学触媒などと比べても、低いエネルギーでエタノールを生産できるのが特徴だ。

同社BRグループ事業化ユニットのユニット長である加納正史氏は、本技術の本質を次のように語る。

「微生物が生育するのに良好な環境下でガスからエタノールを生成する技術は、既にLanzaTech社が確立していました。しかし今回のプロジェクトで相手にするのは、さまざまな物質が混ざり合ったゴミから作られたガスです。そのため、ガス中の夾雑物質を徹底的に除去し、精製する工程や何が起きるか分からないゴミの成分変動にアジャストさせながら培養を制御しなければいけません。その技術に、われわれのノウハウが詰まっています」

「夾雑物質の排除にどこまでエネルギーを使うか、そのさじ加減が技術開発の焦点だった」と振り返る加納氏

言うまでもなく、生ゴミや紙、プラスチックなどの廃棄物にはさまざまな物質が含まれる。

しかも、それらの成分は一定ではない。ゆえに、廃棄物から作られるガスの成分も変動的で、毎回大きく異なってしまう。

これは安定的に微生物を培養し、エタノールを生成する上で大きな課題となった。

余計なものだけを取り去り、微生物を活性化する独自のノウハウ

そこで同社では、実証実験を通してガスに含まれる約400種類もの夾雑物質を特定。それらを徹底的に除去・精製する技術と、夾雑物質の状態をリアルタイムでモニタリングして微生物に影響のある物質のみを効率的に取り除く制御技術を確立した。

また、ゴミ成分の組成変動に応じて微生物の生育状態を調整し、活性を一定に維持する技術も開発された。

「寄居のパイロットプラントでさまざまな実験を行った結果、どのような物質が微生物の活性、増殖に大きな影響を与えるのかが分かってきました。夾雑物質を完全に取り去ってしまうことも技術的には可能なのですが、除去するのにもエネルギーが必要です。できるだけエネルギーを使わず、資源として活用できるエタノールを生成するために、微生物に大きな影響を与える物質だけをモニタリングし、消していくという綿密な作業をしています」(加納氏)

いろいろな物質が混ざり合い、成分が変動するゴミ由来のガスを綿密にモニタリング制御することで、微生物が活動するのに適した環境を作ることに成功した

劣化のない資源循環の仕組みとは?

これまで廃棄物のリサイクルを阻害していたのは、成分の雑多さと不均質さだった。プラスチックとして分類されたゴミであっても、実際にはさまざまな物質が混ざり合っているため、新品原料と同レベルのマテリアルとして再利用することが難しかったのだ。

ところが、廃棄物をガス化して純度の高いエタノールへと変換するこのシステムなら、高効率のリサイクルが可能になる。さらに、エタノールを新たな原料として供給できるため、通常のマテリアルリサイクルのような再利用による劣化もなく、全てを新品から作る場合と同品質の製品を作り続けることができる。

また、一連の工程でのCO2排出量削減など環境価値に加え、コスト面でも前述の工夫によって生産効率を高めたことで、従来の石油から作ったエタノールと比べて競争力を発揮することが将来的に期待できるという。

「大まかなイメージで、人口30万人ほどの都市だと1日に300tほどの廃棄物が出ます。プラントが本格的に稼働すれば、その廃棄物から年間2万klほどのエタノールを生成できると考えています」(細川氏)

エタノールは汎用性の高い物質で、そのまま燃料などとして使用することも、エチレンなどに変換してさまざまなプラスチック製品に加工することも可能。現在、プラスチック製品の多くは石油由来のナフサを原料として作られ、年間約3000万tもの量が消費されているが、ゴミを資源化することで消費量を大幅に減らすことができる。

仮にこの技術を日本全体のゴミ処理施設に適用したなら、プラスチック製品需要の2~3割を廃棄物から作れる計算になるという。

石油資源の温存につながり、温室効果ガス排出も抑制でき、ゴミ問題解決にも貢献できる。まさに夢の技術だ。

だが、本格的な事業化、普及に向けてはまだまだ課題も残されている。

後編は、次のステージへと移行した実証プラントについて、ゴミ処理特有の社会背景の話を聞く。



<2021年1月29日(金)配信の【後編】に続く>
ゴミ処理施設の改修タイミングや各施設で異なる廃棄物の処理方法など、課題解決には問題が山積?

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