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2021.12.27
遠くない未来の物流業界に起こるイノベーション! キーワードは「エネルギー×モビリティ」
日野自動車株式会社 BR EV開発推進室 室長 チーフエンジニア 東野和幸/株式会社CUBE-LINX 代表取締役 兼 最高経営責任者 桐明 幹(きりあけ つよし)【後編】
2022年初夏、同社初の量産EV(電気自動車)トラックとして『日野デュトロ Z(ズィー) EV』を発売する日野自動車。併せてEVトラックやバスの導入・運用における課題に対してソリューションの提供を目指して設立された日野自動車出資の新会社CUBE-LINX(キューブリンクス)の事業も本格的に始動する。CASE、MaaSなど自動車業界全体が大きく変わる中、貨物輸送はどう変わるのか? 前編に引き続き、日野自動車チーフエンジニアの東野和幸氏とCUBE-LINXの桐明 幹氏に話を聞いた。
CASE:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(共有化&サービス)、Electric(電動化)
MaaS:Mobility as a Service
EV導入のハードルを一掃する、事業者向けのサービス
これまでの自動車メーカーは文字通り、“車を作る”ことが仕事だった。
しかし、従来の自動車と仕組みが全く異なるEV(電気自動車)の場合、単に製品を提供するだけでは市場が拡大しない。事業用車両をカーボンニュートラルに寄与するEVに切り替えたいが、運用面で不安が残ることから二の足を踏んでいるという運送業者は少なくないだろう。
株式会社CUBE-LINXは、そうした事業者からの声に応えてEVの導入サポートを行うために設立された新会社だ。
事業内容は大きく、「電動車および付帯設備についての導入コンサルティングサービス」「車両や充電設備といったハードおよびITシステムの一括提供サービス」「電動車稼働およびエネルギー利用の最適化マネジメントサービス」の3つ。事業形態や車両の使い方に合わせた最適なソリューションをパッケージ化し、ワンストップのサービスとして提供する。ハードウェア、ソフトウェアとも月額定額制で契約できる点もユニークだ。
※【前編の記事】「日野自動車がラストワンマイルを支えるEVトラックを開発! 物流の未来を見据える国内メーカー最前線」
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日野自動車では「日野デュトロZ EV」以外にもう一台、小型EVの「日野ポンチョZ EV」を2022年春発売予定。こちらの導入サポートもCUBE-LINXが受け持つ事業の一つだ
「これまでは車両を提供するだけで誰もが不自由なく使うことができましたが、EVではそう簡単にいきません。特に大手の運送事業では自社敷地内に給油スタンド=インタンクを設置するのが一般的なので、EV車両導入に当たっても皆さん、自前の充電設備を設置することになるでしょう。しかし多くの事業者はEV未経験なので、車両数に対してどれだけの充電器が必要か、受電設備はどのように増強すべきか、電力使用契約をどうすべきか、といったノウハウを当然持ち合わせていません。そうしたソリューションをまとめて提供することが当社事業の一つです」とCUBE-LINX 代表取締役 兼 最高経営責任者に就任した桐明氏は語る。
桐明氏はもともと日野自動車株式会社の社員で、中長期商品戦略部商品事業戦略室に在籍していた人物だ。以前、小型トラックの商品企画を担当していた経験があり、「日野が将来EVを手掛けるなら、小型トラックからに違いない!」と踏んで、EVについての知見を早くから蓄えてきたという。
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海外戦略、商品企画など日野自動車で培った幅広い経験と知見を生かし、CUBE-LINX代表となった桐明氏
「もし仮に30台EVを導入したけれど充電済みで稼働できるのは10台だけ、といったことが起これば運送事業者にとって大きな機会損失となってしまいます。そこでEVを効率良く稼働させるにはどうしたらいいのか、車両運行や充電、電池残量を考慮した走行ルートの生成など、トータルに管理するシステムの開発や提供を当社で行います。
さらに、運行形態に合わせて可能な限りエネルギー消費やコストを抑えるマネジメントシステムを提供するのもポイントです。例えば、電気代が安い時間帯になるべく充電するといったことですね。事業者にとってはコスト削減に、社会全体にとってはエネルギーの節約に貢献できる取り組みとなります。手前みそになりますが、自動車メーカーがEVのマネジメントにここまで踏み込んだ事例は今までになかったと思います」
予見性を高めることでエネルギーを最適化
EV導入を全包囲網的にサポートするCUBE-LINXの事業。商用モビリティとエネルギーをつなぐハブのような存在になりたいと桐明氏は語る。
ただ、事業者によって求めるサービスはさまざまだ。車と充電器だけでいい、という場合もあれば、配送管理まで含めたフルサービスを求める事業者もいるだろう。パッケージとしての提供となるが、サービスの組み合わせはユーザー側が自由に選択できるようにするという。
「こうしたEVマネジメントシステムにはサードパーティーのベンダーも存在しますが、私たちの強みは大きく2つあると考えています。一つは車両メーカーである日野自動車の強みを生かして、車とのコネクテッドが綿密にできること。もう一つは利用者の稼働計画に基づいて、エネルギー使用量を最適化できることです。エネルギーの最適化は、予見性が重要なんですね。例えば、電力会社が1時間ごとの電力使用量を正確に予測することができれば、発電送電の計画を綿密に立てられます。充電切れを起こさず、かつ稼働を妨げないEV車両の運行管理を行うと、使用電力も予見することができ、結果として系統電力の負荷も下げられる可能性があるのです」(桐明氏)
この仕組みが広く運輸業界全体に普及すれば、単純にEVを導入する以上のCO2削減効果が見込めるに違いない。
さらに特筆すべきは、このプラットフォームがOEMフリーであること。つまり、他社製品を含む商用モビリティ全体を対象としている点だ。
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CUBE-LINXは車両メーカー、設備メーカー、電力事業者などさまざまなステークホルダーが参加する、商用モビリティ利用のオープンプラットフォームとなる
「将来的には、商用モビリティを使うならCUBE-LINXのプラットフォーム、と言われる存在を目指していきたいです。自動車はもちろん、将来的に電動キックボードを配送に使う事業者が出てきたら、それも対象になるかもしれません。そこまでサービスを拡張していけたら面白いですね」(桐明氏)
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CUBE-LINXの事業は、日野自動車が目指す「豊かで住みよい持続可能な社会」と直接的につながる取り組みでもある
日野自動車がことしから始める取り組みは、単に商用車のEVシフトを促すためのものではなかった。
エネルギーと商用モビリティとを結び付け、物流・人流にまつわる社会全体の在り方を変える可能性すら秘めていたのだ。
100年後の物流と人流はどう変化するのか?
一度に何十台、何百台といった規模での導入が期待され、綿密な運行管理・充電管理を必要とする商用モビリティの分野だからこそ発想は無限に広がる。
最後に運輸業界における次の100年を見据えたとき、自動車メーカーとして、プラットフォーマーとしてどうあるべきと考えているのかを2人に聞いてみた。
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日野自動車初の量産小型EVトラック「デュトロZ EV」の開発に携わった日野自動車 BR EV開発推進室 室長 チーフエンジニアの東野和幸氏
「私たちが関われるのは自動車分野でも商用車に関することだけですが、荷物を積み込んで運転して配送先に届けてまた戻るという工程、あるいは車を作るという工程の中にも改善できる余地はまだ多く残されていると感じています。自動化、効率化は当然進めるべきと思いますが、それらの変化をカーボンニュートラルなどさまざまな社会課題の解決に結び付けて考えることが大切ですね。単にEVを作ればいい、CO2を減らせばいいということでなく、SDGsで言うところの17のゴール全てに目を向ける必要があると思っています」(東野氏)
「テクノロジーの進化を推し進める、テクノロジーを他の何かと掛け合わせて新たな価値を生み出すことが私たちの使命であることは今後も変わりません。さらにもう一つ、いつの日か、人々のマインドチェンジを促すような仕組みを作れたらいいな、と思っています。今、荷物は丁寧な梱包で定刻に届くことが重視される風潮にありますが、そうした価値観以上に、どんなプロセスを経て届いたのか、持続可能性といった視点が重視されるような気運を作り出す。そんなことをサポートできるようになったらいいですね」(桐明氏)
人類が有史以来、営んできた物流や人流の仕事──。
どのように社会が変化したとしてもそれらの仕組みが消滅する、あるいは根本から覆るといったことはあり得ない。
日野自動車とCUBE-LINXは、確かに先の未来を見据えている。
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text:田端邦彦 photo:安藤康之
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