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日野自動車がラストワンマイルを支えるEVトラックを開発! 物流の未来を見据える国内メーカー最前線

日野自動車株式会社 BR EV開発推進室 室長 チーフエンジニア 東野和幸/株式会社CUBE-LINX 代表取締役 兼 最高経営責任者 桐明 幹(きりあけ つよし)【前編】

日野自動車が2022年初夏に発売開始する同社初の量産EVトラック『日野デュトロ Z(ズィー) EV』。物流のラストワンマイルに適した車両総重量3.5t未満、前輪駆動の小型EV(電気自動車)トラックだ。それに併せて、EVトラックやバスの導入・運用における課題に対してソリューションを提供する日野自動車出資の新会社CUBE-LINX(キューブリンクス)も設立された。今、日本の物流業界が大きな転換期を迎えている。『日野デュトロ Z EV』のチーフエンジニアである東野和幸氏とCUBE-LINXの桐明 幹氏に物流の未来を聞いた。
ラストワンマイル:「最後の1マイル」という距離的な意味ではなく、“顧客にモノ・サービスが到達する物流の最後の接点”を指す

ユーザーにとってもメーカーにとっても悲願だった国産EVトラック

日本におけるCO2総排出量のうち、運輸部門(自動車・船舶・航空・鉄道など)から出るCO2が占める割合は18.6%。その中でトラックなどの貨物自動車から排出されるものが36.8%で、日本全体の6.8%となっている。
※2019年度時点での数字。参考資料:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」

これは決して少ないとは言えない割合だ。

ちなみに現在の貨物車用燃料において大半を占めているディーゼル(軽油)は原油からの精製工程や車での燃焼工程において、ガソリンよりもCO2排出量が少ないエネルギー源ではある。

ただし、2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けた要求は高く、貨物車も乗用車同様にCO2排出量削減が求められているのが現状だ。

物流のラストワンマイルを支えるEVトラックとして、ゼロから開発された『日野デュトロ Z EV』。住宅地の中まで入っていける機動力を考慮し、トラックとしては珍しい前輪駆動が採用された

日本のトラック・バス業界最大手である日野自動車株式会社では、これまでも大型トラックである「日野プロフィア」、小型トラック「日野デュトロ」などでハイブリッド仕様をラインアップしてきた。しかし、2022年に発売される『日野デュトロ Z EV』は同社初の量産ピュアEV(電気自動車)であることが最大のトピックだ。

車両総重量3.5t未満のいわゆる1t積みクラスで、ボディーサイズとしては現行デュトロよりも一回りほど小さい。実はこの分野においては、中国の新興自動車メーカーが若干先行している。2021年10月には、国内物流大手企業に向けて2022年から中国製EVトラックが大規模導入されるというニュースも報道された。

そうした中、市場投入される「日野デュトロ Z EV」には当然大きな期待が懸かるが、日野自動車 BR EV開発推進室 室長 チーフエンジニアの東野和幸氏はその誕生を次のように振り返る。

「これまでは当社も含めて国産の量産EVトラックはほぼ存在しなかった状況ですが、物流業界からは“車両からのCO2排出量を削減したい”“できれば信頼性の高い国産メーカーの車両を使いたい”という声が上がっていました。今回、『日野デュトロ Z EV』を開発したことで、ようやくお客さまのニーズに応えられるようになりました」

「EVとしての環境性能だけでなく、先進安全性能にも注力して『日野デュトロ Z EV』を開発した」と語る東野氏

日野自動車では既に2011年の東京モーターショーで「eZ-CARGO」というコンセプトカーを出展。さらに2013年には前輪駆動・小型EVトラックの試作車を開発して公道実験を行うなど、EVトラックの研究開発を他社に先駆けて行ってきた。

物流業界においてEV需要が増してきたのはつい最近のことだが、長い年月をかけて育ててきたものがいよいよ世に放たれる。開発者として、そうした思いがある故の「ようやく」なのだろう。

特徴の一つが、これまで同社のラインアップに存在しなかった前輪駆動であること。永久磁石式同期モーターを乗員が搭乗するキャブ下に搭載し、40kWhのリチウムイオンバッテリーは車体中央部分床下に配置される。従来のトラックが採用していた、車体中央にプロペラシャフトが通る後輪駆動ではなし得なかったレイアウトだ。

荷台床下にすっきり収まる薄型バッテリーを採用したことで、超低床の荷室が実現された

「バッテリー選定に当たってはあらかじめボディー側の幅と長さが決まっていたので、その範囲に収まることが大前提でした。そこでバッテリーを薄型とし、超低床を実現しているのもポイントです」(東野氏)

モーターによる駆動は出足から最大トルクを発揮できるのが長所であり、ストップ&ゴーの多い都市部や重量物を載せての登坂走行にも適している。前車軸付近にモーターを搭載しているが、最小回転半径についても前輪駆動の小型乗用車より優れているという。

日野自動車出資の新会社である株式会社CUBE-LINX 代表取締役 兼 最高経営責任者の桐明 幹氏は、「パワーやトルクの面では、タイムラグのあるディーゼルよりも圧倒的にEVが優れています」と述べると、続けてその優位性を次のように説明した。

「モーターのトルクが強大であることは、巨大な建造物である跳ね橋を動かすのにもモーターが使われている事実を知れば一目瞭然です。一度EVトラックに乗るとディーゼル車に戻れなくなると話すドライバーさんもいらっしゃるんですよ」

CUBE-LINX設立に伴い、日野自動車から同社代表取締役 兼 最高経営責任者に就任した桐明氏

走行音が静かというEVの特性も早朝から夜間まで住宅街を走行する宅配業に適しており、今後、小型トラックの分野ではEVの選択が当たり前になる時代もそう遠くないようだ。

環境問題だけでなく労働課題の解決にも

実はこの「日野デュトロ Z EV」、日野自動車初の量産EVであること以上の意味を持っている。

同社のラインアップを見ると最もコンパクトな車種であり、普通自動車運転免許(2017年3月12日以降)で運転できる車両総重量3.5t未満・最大積載量1t以上を至上命題として開発されていることは明らかだ。

「ECでの商品購入が当たり前になったことで、現代は宅配の需要が急速に伸びています。コロナ禍で需要がさらに加速する一方で、宅配業界は深刻な労働力不足に悩まされるようになりました。ドライバーを一人でも多く確保したいというニーズに応えるには、普通自動車運転免許で運転できる小型トラックが必要だったのです。EV化は目的ではなく、運送業全体の困り事を解決する手段の一つ。排出ガスゼロによる環境問題への対応、ドライバー不足の解消、労働負荷の低減。『日野デュトロ Z EV』にはそうした複数の使命を持たせています」(東野氏)

荷物の積み降ろしがしやすく、ドライバーの労働負荷を下げるウォークスルー構造

床面地上高はこれまでのディーゼル小型トラックの約半分となる400mm。ドライバーが荷室とキャビンを自由に行き来できるウォークスルー構造も採用された。これらは前輪駆動を採用したEV化によって初めて実現できたことで、地球環境と労働環境の課題解決に貢献するアイデアだ。

日野自動車は現代社会に欠かせない物流・人流を支えるトラック・バスの製造を担うメーカーだ。完成車はもちろん、製造工程、CSR活動などでさまざまな社会課題、ユーザー側の課題を解決するための取り組み、SDGsが目指す17のゴールにつながる取り組みを行ってきた。

今回の『日野デュトロ Z EV』も、そうした課題解決に向けたソリューションの一つなのだろう。

EVトラックの拡張性、将来性は?

日野自動車における販売上の主軸となるのは、やはり最大積載量2~10t以上のトラックだ。EV用シャーシを他車種に展開することは可能なのだろうか?

「今回のシャーシは専用設計したものですが、基本設計を大きく変えずに幅広い車体サイズや最大積載量の大きい車種に適用させることは可能だと思っています。ただ、車体が長くなると重量バランスの面から前輪駆動とすることは難しくなります。また、長距離移動を前提にすると容量の大きなバッテリーが必要となり、充電に時間がかかる上にエネルギー効率も落ちるという問題もあります。大型のEVトラックを開発すること自体は技術的に可能ですが、お客さまの使用実態に合うかどうかが問題です。現実的にはピュアEVに固執せず、市場からのニーズに合わせて最適なシステムを選んでいくことになると思います」(東野氏)

日野自動車は「日野環境チャレンジ2050」の中で「新車CO2ゼロ チャレンジ」を目標に掲げているが、EVだけでなくPHEV(プラグインハイブリッド車)やFCEV(燃料電池自動車)なども含めたものとしている。重量物を積載し長距離を移動する使命を持つ貨物自動車の未来を、乗用車と同じ論法で語ることはできない。

しかし、桐明氏はそうした状況が今後変わっていく可能性があるとも指摘する。

日野自動車の「日野環境チャレンジ2050」では、2050年までに新車、ライフサイクル、工場の全てにおいてCO2排出量ゼロにすることを目標に掲げている

「技術的な成立性、市場からのニーズといった面では確かに東野の言う通りです。また、BEVに対してHEV(ハイブリッド車)はエネルギー源を短時間で補給できる、燃料のエネルギー密度が高い(エネルギー源用のスペースがコンパクト&軽量)、FCEVには充填時間が短いという大きな利点があります。現在は給油所の数も激減しており、将来的にはこれまでと同じように燃料を必要とする動力源、運行管理手法ではうまくいかなくなる可能性があります。極端な話をすれば、EVは電源さえあれば、どこでもエネルギー補給できます。このメリットは見逃せません」(桐明氏)

より大きなサイズで長距離移動を前提とする大型貨物自動車も含めて、いつの日かEV化に大きくシフトせざるを得ない状況が来るかもしれない。

さまざまな可能性がある中では、自動車メーカーとしても最適な方法を模索していかざるを得ないということなのだろう。

後編では、EVトラックやバスの導入サポートを行う「CUBE-LINX」の事業について深掘りする。



<2021年12月27日(月)配信の【後編】に続く>
EVトラックやバスの導入・運用における課題に対してソリューションの提供を目指して設立された日野自動車出資の新会社「CUBE-LINX(キューブリンクス)」の事業とは?

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