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次世代モビリティの普及×「保険」! モビリティ大変革の時代に求められるリスクマネジメントのサポート

東京海上ホールディングス株式会社 デジタル戦略部長 楠谷 勝【前編】

MaaS(Mobility as a Service)という新たな概念の誕生をはじめ、自動運転の技術進化や現実味を帯びてきた空飛ぶ車など、まさに今“人の移動”が大きく変わろうとしている。時代の転換期を迎える中で、移動のリスクに対する備えである保険にも変革が求められている。今回は、まだ日本で自動車が走っていなかった時代から移動のリスクに向き合ってきた東京海上ホールディングス株式会社のデジタル戦略部長である楠谷 勝氏に、これからの保険のあり方を聞いた。

電動キックボードを損害保険会社がバックアップする理由

今年4月19日、道路交通法の改正案が衆議院で可決された。これは、新たに電動キックボードの車両区分などを含めた画期的な内容だ。

「特定小型原動機付自転車」という新たな区分が設けられ、最高速度20km/h以下など一定要件を満たす電動キックボードについては「16歳以上なら免許不要」「16歳未満は乗車不可」「ヘルメットの着用は任意」「車道も自転車専用通行帯も自転車道も走れる」というルールが適用される(施行開始は2年以内)。

現時点では電動キックボードの安全性について賛否はあるものの、多くの人にとってファーストワンマイルやラストワンマイルの移動(駅から自宅などの短距離移動)がより便利になるのは間違いないだろう。

これまで国土交通省は新たなモビリティの容認に極めて慎重だったが、その姿勢も変わりつつあるようだ。

そうした中、東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)は既に動きを見せ始めている。

2021年10月、東京海上と電動キックボードなどのシェアリングサービス「LUUP(ループ)」を展開する株式会社Luupが資本業務提携を締結。電動キックボードの安全性、社会受容性向上、適切な補償の検討に向けて、サービス提供会社を損害保険会社がバックアップし、互いに協力し合う形だ。

楠谷氏は東京海上がLuupと提携した経緯を次のように語る。

「電動キックボードのような新しいモビリティの登場は人々の生活をより便利にしますが、一方でこれまでの乗り物とは異なるタイプの事故、トラブルが起きてしまう可能性もあります。事故やトラブルがあまりに多く発生してしまうとサービス自体が立ちゆかなくなり、社会全体の進歩もありません。そこで私たちがLUUPをサポートし、より安全安心な乗り物となるように手助けしていきます。事故が起きてしまった場合に備え、損害保険商品を提供することにより解決までスムーズに案内するのはもちろんですが、受け身の姿勢でなく、そもそも事故が発生しにくくなるようなルール作りや電動キックボードの認知促進に向けて積極的に支援していきます」

"街中を「駅前化」するインフラをつくる"をミッションに、電動キックボードのシェアリング実証実験を行ってきたLuup。今回の道路交通法改正にも大きな役割を果たしている

東京海上は今から140年以上前、明治時代に当時急成長していた海運・貿易業を支える目的で設立された日本最初の損害保険会社「東京海上保険会社」を前身に持つ、歴史の長い会社だ。

乗り物にまつわるリスクについて、これほど長きにわたって包括的な知見を積み上げてきた国内企業は他になく、Luupとしては頼もしいパートナーを得たといえる。

昨年から電動キックボードの安全運転講習会をLuupと共同開催するなど、実践的なアクションもスタートしている。

「電動キックボード自体の台数が少なく、改正道路交通法も施行されていない現時点では、どのような状況、どのようなタイミングで事故が起きるのか、といったデータを収集している段階です。電動キックボードがより普及している海外のデータを参考にしますと、事故全体としては転倒など自損事故の割合が高く、時速40km以上になると重篤な事故につながりやすいといった傾向が少しずつ分かってきました。事故を未然に防ぐためには、一定以上速度が上がらず、転倒しにくいようなハードウェア側の工夫、安全運転の啓蒙(けいもう)が必要だと感じています。損害保険商品を提供するためのデータについてはまだ十分にそろっているとは言えませんが、道路を走行する以上、損害保険がない状態では安心して利用できません。まずは新しくて安全、クリーンエネルギーなモビリティが社会に浸透することを目指して、いち早く損害保険を提供することが大切だと思っています。欧米から日本に自動車がやって来て、初めて自動車保険が提供された当時も、おそらく同じような状況だったことでしょう」

「新たなモビリティの登場に対して、損害保険会社がある程度のリスクを取ることで交通社会の発展に貢献してきた歴史がある」と語る楠谷氏

電動キックボード向けの損害保険商品としては、まずLuupなどのシェアリングサービスとフリート契約(法人単位で複数台の保険を一括契約すること)を結ぶ。

利用者は個別に契約しなくても自動的に損害保険に加入している状態となるので、安心だ。そこで知見を積み重ね、電動キックボード特有のリスクなどが明らかになったところで、個人利用者向けに最適化された商品が新たに生まれる可能性もある。

事業性が担保されるか定かでない未知のモビリティに対しても臆することなく、むしろ積極的に飛び込んでいく。

東京海上をはじめとする損害保険会社には、古くからそうした体質があった。だからこそ今、利便性が高く、安全な現代社会が成立していると言っても過言ではないだろう。

損害保険会社がMaaSの提供者になる未来

現在、東京海上では来るべきMaaS時代への対応として、Luupとの提携以外にも多岐にわたる取り組みを行っている。

MaaSのプラットフォーム開発、コンサルティングなどを事業とするMaaS Tech Japanや、自動運転向け技術、車両開発を手掛ける米企業May Mobilityとの資本業務提携、JR東日本とのMaaS社会実装推進に向けた業務提携など枚挙にいとまがない。

「MaaSを極めてシンプルに解釈するなら、“A地点からB地点まで、最適な乗り物に乗って移動する”ということです。移動全体を通して、どのようなリスクが生じ、どのような補償が必要なのか?現在はさまざまな事業体と共に実証実験を行いながら、データを蓄積しているところです」

損害保険会社自身が、MaaSのサービス提供者になる可能性もあるという。

「例えば、現在でもご契約者さまの車が事故で使えなくなったときに、当社で代替となる移動手段を手配することがあります。移動手段を提供するという意味では、今後はこうしたサービスにもMaaS的な視点を導入していくことが必要かもしれません」

状況ごとに適切な移動手段を選択できるようにし、なおかつシェアリングモビリティなどを含めた複数の移動手段を一つのサービスとして捉える仕組みがMaaSだ

こうした交通サービスを提供するときに大切な視点となるのが、「事故で被った損害を補償するだけでなく、事故を未然に防ぎ、契約者に安心感を提供すること」だと楠谷氏は語る。

「自動車事故を起こしてしまったばかりの方の中には『しばらく車は運転したくない』という方も当然いらっしゃいます。利便性や安全性、コストだけでなく、お客さまのそうした心理にも配慮しながら、適切な移動手段をご提供することが大切だと考えています」

予兆をキャッチして事故を未然に防ぐ

IoTなど先進技術を積極的に活用しながら、人に寄り添った交通サービスを提供する──。

東京海上のそうした取り組みの中でも特にユニークなのが、ドライブレコーダーを活用した事故予兆通知システムの実証実験だ。

東京海上グループ3社(東京海上ホールディングス株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、東京海上ディーアール株式会社)は2021年11月、自動車事故の予兆通知サービスの提供に向けたグローバルベースでの実証実験をスタートした。

これはドライブレコーダーから得られる運転性向のデータから事故の予兆を検知し、ドライバーに通知して事故リスクを軽減させるというもの。

事故予兆を分析するアルゴリズムはハワイに本社のある同グループ会社のFirst Insurance Company of Hawaii、東京海上日動、デンソーの子会社であるDENSO INTERNATIONAL AMERICA,INC.が共同で開発している。

「“あなたの運転、今日はいつもと少し様子が違いますよ。事故につながるリスクが高い状態かもしれないので気を付けましょう”ということを、ドライブレコーダーが教える仕組みです。事故につながるような偏差、つまり“何か様子がおかしい”ことをセンシング、分析することは非常に難しい技術なのですが、既にハワイでの実証実験を終え、実装化に向けた研究開発段階に入りました。まずは、2022年度中に法人契約者向けのドライブレコーダーのサービスとして、提供を目指しています」

東京海上日動が提供するドライブレコーダー付き自動車保険「ドライブエージェント パーソナル」は単に事故映像を記録するだけでなく、運転者が万一、事故で意識を失ってしまったときなどの救済にも役立つサービスだ

東京海上日動では、損害保険契約者に通信機能付きオリジナルドライブレコーダーを貸与し、事故の強い衝撃を検知したとき事故受付センターに自動連絡したり、事故の映像を自動送信したりするテレマティクスサービス「ドライブエージェント パーソナル」を業界に先駆けて展開してきた。

既に普及しているドライブレコーダーから収集したデータを活用し、その機能をさらに強化、事故リスクの低減に役立てようという試みだ。

事故の損害を補償するだけでなく、事故を未然に防ぐための取り組みを同社は以前から行ってきたが、「IoTなどデジタル技術の進化によって、ようやくビジョンが具体的になってきた」と楠谷氏は語る。

損害保険会社の使命とは、人々と社会の「いざ」を支えることに他ならない。

だが、今やそのフィールドをはるかに超え、「いざ」という事態を起こさず、「いつも」安心して暮らせる社会の実現へと事業領域が拡大している。

それは自動車などモビリティに乗っているシチュエーションだけとは限らない。

後編では、防災と保険の新たな関係に注目する。



<2022年5月20日(金)配信の【後編】に続く>
自然災害から日本を守る! 国内最大手の損害保険会社が見据える防災の未来

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