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自然災害から日本を守る! 国内最大手の損害保険会社が見据える防災の未来

東京海上ホールディングス株式会社 デジタル戦略部長 楠谷 勝氏【後編】

前編ではMaaS時代に対応する新しい損害保険の姿、補償を支払う事後だけでなく事前のリスクを軽減する保険会社のスタンスについて、東京海上ホールディングス株式会社 デジタル戦略部長の楠谷 勝氏に話を伺った。後編では、私たちの誰もにリスクのある自然災害への対策、人工衛星などを使った最新鋭の防災、被害を甚大化させないための取り組みを聞いた。

人の力とテクノロジーを活用

近年、激甚化している自然災害──。

地震や水害、台風などが毎年のように列島各地を襲い、大きな被害をもたらしているのはご存じの通り。さらにマグニチュード8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率が70~80%(2020年1月24日時点/政府の地震調査委員会)とされる南海トラフ地震、首都機能に甚大な影響を与える首都直下地震など、高い確率で将来発生することが予想されている自然災害もある。

個人向けの損害保険がカバーする範囲といえば、自動車保険などのモビリティ分野、ケガなどに対する傷害保険、建物の火災保険など多岐にわたるが、自然災害のリスクに対する保険もその一つだ。

ちなみに地震保険は「地震保険に関する法律」に基づいて政府と損害保険会社が共同で運営し、火災保険とセットで契約されるもの、と規定されている。

楠谷氏によれば、東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)にとって東日本大震災での経験は、現在でも大きな教訓となっているという。

「広大な範囲にわたって甚大な被害をもたらした自然災害に直面し、私ども損害保険会社としても総力を結集しました。社員が被災現場へと赴き、雪が降り積もる中でご契約者さまと一緒に損害範囲の確認をするという、まさに人海戦術でした。なんとしてでも迅速に保険金をお届けするという目標を立て、社員一丸となって取り組んだ経験が現在に生かされています」

※【前編の記事】次世代モビリティの普及×「保険」! モビリティ大変革の時代に求められるリスクマネジメントのサポート

「テクノロジーの進化が事前の対策と事後の対応の両分野に生かされます」と語る楠谷氏

当時、保険金支払いにまつわる事務作業は紙で管理しているものが多く、現地で対応せざるを得なかった。当然ながら自身や家族が被災者となった社員もいたはずだ。

その経験から専用システムの開発を早急に進め、全国どこの地域に災害が発生しても、被災地以外の社員が遠隔操作で保険金支払いのための手続きを行える体制が構築されたという。

あれだけ大規模な被害範囲だったにもかかわらず、迅速に対応することができたのは社員たちの高い士気、人的エネルギーによるものだったに違いない。

だが、南海トラフ地震ではさらに広範な被害が発生する可能性もある。そうした万一の事態に備え、先進技術も積極的に活用しながら、よりスピーディに、より効率的に安心を届けられる仕組みを作ろうというのが東京海上のスタンスだ。

東京海上日動の震度連動型地震諸費用保険「地震に備えるEQuick保険」は、加入申し込みや保険金受け取りといった手続きを全てスマホで完結できる手軽さが特徴だ

「EQuick保険」の提供も昨年から新たに始まった。

これは大きな地震が発生すると、気象庁が公表する震度データに基づいて自動的に、即座に保険金が支払われるというもの。契約者は地震発生から最短3日で保険金を受け取ることが可能となる。損害状況の確認は必要とせず、入金などの事務作業には人の手を全く介さない。まさにIT時代の新しい保険と言えよう。

被災状況を宇宙から確認する時代へ

「自然災害によるリスクを下げ、事後の手続きを迅速に行うための施策に関しては、テクノロジーを活用できる余地がまだまだ残されているはず」と楠谷氏は言う。

その一つが人工衛星の観測データを使った被災状況の把握だ。

東京海上では2017年から人工衛星の画像から水害発生時の被害エリアや浸水の高さを把握する取り組みを行ってきた。当初は実証実験から始まったが、実際に被害エリアと契約者の所在地情報を照らし合わせ、契約者に保険金請求の手続きを促すことで無事に保険金を支払えた事例もあるそうだ。

2020年には国内外の衛星企業3社(フィンランドのICEYE、株式会社パスコ、三菱電機株式会社)との協業をスタート。

さらに、今年2月には夜間や雲に覆われた場所も撮影できるレーダーを搭載した衛星を自社保有するICEYEと新たに資本業務提携を結んだ。

同一地点を同一条件で24時間ごとに撮影し観測する技術を、世界で初めて人工衛星に実装したICEYE。高精度な衛星画像で定点観測できる衛星ネットワークを持つ世界でも希有な衛星企業である

「これまでは風水害が発生すると査定担当者が立会調査を一件ごとに実施していたため、保険金をお支払いするまでにある程度の時間が必要でした。ところが、人工衛星の観測データを活用すれば、より迅速に被害の状況を確認できるようになります。現在はこの技術をもう一歩推し進め、地盤の変化など災害の予兆を検知してアラートを発信するサービスを開発中です。自然災害の発生を防ぐことはできませんが、被害を最小限に抑えることはできます。それが私たち保険会社の使命です」と楠谷氏は語る。

事後の対応をスムーズに行うだけでなく、事前の対策を万全にし、被害を軽減する。その姿勢は2021年11月に東京海上日動が発起人となって立ち上げた「防災コンソーシアム(CORE)」にも表れている。

「ハザードマップに代表される災害リスクに関する情報は、世の中に数多くあります。一般的に広く公開されている情報だけでなく、例えばダムに関する情報、トンネルに関する情報、地盤の情報のように専門性の高い情報もたくさんあります。そうしたデータは個々の企業や関係機関が保有し、分散しているのが現状で、防災の総合商社のような、あらゆる情報を網羅している機関はありませんでした。そうした背景もあって、当社が発起人となってCOREを立ち上げました」

CORE分科会では、避難につながる災害の事前予測など5つのテーマが設定されている。今後もテーマは増えていく予定だ

COREはそれぞれの企業や機関が保有している情報やノウハウを集約し、防災・減災に活用することを目的に創立された。

今年4月時点でJR東日本、日本郵政、NTTグループなど多種多様な業界から40以上の法人が集結。災害の事前予測、リアルタイムハザードマップ(従来の静的なハザードマップから進化した動的ハザードマップ)の開発などをテーマとした分科会も立ち上がり、早くも本格始動している。

これまで避難情報など防災・減災分野では国や自治体が主導してきたが、COREでは官民一体となり、それぞれの得意分野や固有の情報を掛け合わせることで共創を生み出すのが特色。

“どんなリスクが目前にあり、どこに逃げるのが最も安全なのか?”といった包括的かつ具体的な情報を、区や自治体と連携しながら構築する斬新な取り組みだ。

自然災害のリスクと向き合い続けるための秘策

損害保険会社にとっての本業である保険商品に改めて目を向けると、自然災害を対象とするがゆえの難しさも見えてくる。

交通事故などと違い、一時に膨大な数の契約者に対して保険料を支払う可能性があるためだ。

だからこそ地震保険は国と民間保険会社によって共同運営され、被害を軽減するための策が練られているわけだが、それでもひと度、大規模な災害が発生したときには、損害保険会社の経営状況、事業存続に大きな影響を及ぼしかねない。

ちなみに地震保険の世帯加入率は年々上がっており、阪神・淡路大震災発生直後の1996年では13.1%だったが、2020年末時点では33.9%にまで上昇。地震保険付帯率(火災保険契約数における地震保険契約の付帯割合)に至っては68.3%という高さだ(世帯加入率、付帯率とも東京海上を含む損害保険各社の平均)。

「地震保険加入率は増えたものの、まだ100%には遠い。今後も普及活動を強化、継続していく必要があります」と語る楠谷氏

「損害保険会社をビジネスモデルとして見ると、事業に大きな影響のない範囲のリスクだけを引き受けようという思考になりがちです。しかし、日本のような災害大国においてその論法は通じません。地震や台風など広範囲に損害を及ぼす災害が発生した際にも、私たちが安定的にリスクを引き受けられる強靱(きょうじん)な体制を作ることが大切です」

そのために必要なこととは何だろうか。

「答えは事業のグローバル展開でした。事業ポートフォリオ(複数にわたる事業内容の組み合わせや配分)を国内だけでなく、海外に大きく広げて分散することによって日本も、世界も守ることができる。当社では2008年以降、2兆円以上の費用を投じて、海外保険会社のM&Aを行ってきました。国内保険事業と海外保険事業の利益バランスを近づけることで、大きな自然災害が発生したときでも確実に保険金を届けられる。そうした体制作りに目下取り組んでいます」

例えば日本に大きな台風が上陸したとき、太平洋の向こう側でも同時に大きな災害が発生している可能性は極めて低い。逆もまたしかりで、日本だけにメリットがあるわけではなく、世界の国々を救う仕組みであることは自明だ。

万一の事態に損害を補償する損害保険会社元来の事業領域にとどまらず、世界に広く安心を届ける。

未来に向けられたまなざしに、140年以上にわたってリスクと向き合ってきた企業の気概を感じた。

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