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2023.11.14
日立造船が構築する海水の淡水化、上下水処理サイクルのクリーンシステムが島国を脱炭素化に導く
日立造船株式会社 環境事業本部 設計統括部 水処理設計部長 小林英正/同本部 海外環境ビジネスユニット 環境海外営業部 部長代理 宮城大洋【後編】
日立造船株式会社がモルディブ共和国で新たにスタートさせた海水淡水化の実証プラント事業。100%再生可能エネルギー(以下、再エネ)を用いる先進的な取り組みだ。同実証が将来的に目指す姿について、また多様なエネルギー、環境関連事業を手掛ける日立造船が見据える脱炭素社会の在り方について、前編に引き続き同社環境事業本部の小林英正氏と宮城大洋氏に尋ねた。
別事業への入札が出発点
モルディブ共和国の地勢や経済状況を踏まえて、海水淡水化装置に「逆浸透膜(RO膜)法」を採用しつつ、必要となる電力を太陽光発電+蓄電池で賄うことによって、省エネルギーな海水淡水化プラントの建設を目指すという実証の概要を前編で紹介した。
この実証は2022年10月から既にスタートしている。このプロジェクトを行うことになった背景には、意外なきっかけがあった。
「実は2020年にモルディブ共和国で実施された、ごみ焼却発電施設の入札が本実証を行うきっかけになりました。当社も入札に参加したのですが、事業の検討を重ねるうちに発電施設の発電量が8MWあるにもかかわらず、島の電力需要が約3MWしかないことが明らかになりました。せっかく8MWの電力を作っても、5MWは無駄になってしまう計算だったんですね」(宮城氏)
電力を有効利用できないとなると期待される売電収入が得られず、せっかくごみ焼却発電施設を造っても採算が合わない。安定稼働を図るために大型蓄電池導入による系統電力の負荷調整なども検討されたが、電力の大部分をディーゼル発電に頼っている現状を鑑みると、余剰電力を海水の淡水化に充てた方が良いだろうという結論になったという。
※【前編の記事】太陽のエネルギーで海水を淡水化! 日立造船がモルディブで実証を行う理由
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「ROによる海水淡水化プラントを単に実証するだけでなく、ビジネスモデルとして成立させることが重要」と語る宮城氏
脱炭素化で世界の島しょ国をけん引
ごみ焼却発電施設の建設については残念ながら受注に至らず、焼却エネルギーを淡水化に生かす企画は実現しなかった。だが、そのときの調査を通じてモルディブ共和国とのネットワークが深まり、現地のニーズに合った海水淡水化プラントを新たに提案する流れに行き着く。転んでもただでは起きない、同社のたくましい企業風土が垣間見える。
その結果として、自然災害を考慮した上で系統電力から切り離し、自立した太陽光発電+蓄電池によって稼動する海水淡水化施設というプロジェクトが生まれたというわけだ。
ちなみにモルディブ共和国では人が居住している全ての島において、今回と同様の方式を含む淡水供給システム(水道管路施設)を整備する計画がある。また気候変動政策にも島しょ国のリーダー的存在として積極的に取り組んでおり、グローバル目標を大幅に前倒しする「2030年のカーボンニュートラル実現」という独自の目標を掲げた。
「具体的な施策の中でRO施設については電力の30%を再エネ化することが義務付けられていますが、当社としては規制を満たすだけでなく、まず100%再エネで稼働するものを実証で造り、その上で実稼動する段階では何%系統電力を混ぜるのが妥当か検討をしていこう、という提案にするつもりです」(宮城氏)
宮城氏の言うように、将来的には系統電力と接続し、デマンドレスポンス※1に応じて電力使用量を調整するアイデアもある。実証ではあるがビジネスとして採算性の合うシステムを構築することも目的の一つだ。水を生産するだけでなく、売水事業、レンタル事業、長期メンテナンスなどのサービスも合わせて提案しているという。
また、日本との間で二国間クレジット※2の協定を既に結んでおり、カーボンクレジット販売による追加収入も視野に入っている。
※1…デマンドレスポンスについて解説した記事:「デマンドレスポンス(DR)」を3分解説!※2…二国間クレジット制度(JCM)は、相手国への優れた脱炭素技術・製品・システム・サービス・インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価し、日本の削減目標の達成に活用する制度のこと。2023年10月末現在、28か国が署名している
二国間クレジット制度について:https://gec.jp/jcm/jp/about/
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実証は工業用地として整備予定のグリファル島で実施される。PVと書かれているのが太陽光発電施設、ROと書かれているのが海水淡水化施設だ
上水から下水まで一気通貫したシステムに
さらに、日立造船のビジョンはビジネスモデルの構築だけにとどまらない。水を作る今回の実証とは別に、島の人々が使った水の処理方法までを検討している。
「モルディブ共和国には現在、下水処理場が存在しません。人々が使用した水をそのまま海洋放流しているのが現状です。水を作るだけ作って、後のことは知らないよ、ということでなく、最終的には海水淡水化から下水処理まで含めた総合的なシステムにチャレンジしたいと考えています。モルディブ共和国に提案したところ、そこまで考えてくれているのか、と興味を示してくれました」(宮城氏)
もしも将来的にこの提案がモルディブ共和国に受け入れられれば、取水から淡水化、下水処理まで一貫したクリーンな水の循環システムが構築されるだろう。ちなみに日立造船では上水だけでなく、下水処理システムについても豊富なノウハウと実績がある。
下水処理を行う際に、目下課題となっているのは汚泥の処理方法だ。現在、多く採用されている汚泥処理方法ではCO2の298倍という地球温暖化係数を持つN2O(一酸化二窒素)が発生してしまう。そこで日立造船ではその発生を大幅に抑えつつ、さらに回収した熱で発電も行う「ストーカ式下水汚泥焼却発電システム」の研究開発を進めてきた。2019年からは東京都下水道局と共同で「第二世代型焼却炉適合に向けた共同研究(ストーカ炉の下水汚泥燃焼適合技術)」の実証実験に取り組み、2022年には技術承認を取得。本格稼働に向けて動きだしている。
幅広いフィールドで脱炭素化を目指す
最新の汚泥焼却発電システムのバックボーンとなる技術は、同社が世界ナンバーワンの実績(処理能力の世界シェアおよび世界最大級の施設の納入実績)を誇る、ごみ焼却発電技術を応用したものだという。それも元々は、配管や電線、ポンプ、タンクなど複雑な構築物を取り扱う造船技術から派生したもの。1965(昭和40)年、国内ではいち早く大阪市に第1号施設となる旧「西淀工場」を納入して以来、ごみ焼却発電技術の改良を重ねてきた。現在のごみ処理施設の受注実績は国内554施設、海外934施設(ライセンシー実績含む)、合わせて1488施設にも及ぶ。
他にも、資源リサイクル施設やメタン発酵システム、木質バイオマス発電システムなど多岐にわたる事業を日立造船は手掛けてきた。果てはマサバの陸上養殖事業にも取り組んでいるという。
「赤潮などの問題から、近年は海上での養殖が問題視されるようになってきました。そこで当社では株式会社ニッスイ様と協力し、マサバを陸上で養殖する実証事業に取り組んでいます。地下海水で育てたマサバにはアニサキスが存在せず、生で食べられるのが特徴。脂がのっていてこれが抜群においしいんです」(小林氏)
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小林氏は「長年にわたって実績あるごみ焼却発電分野だけでなく、下水汚泥焼却でのストーカ炉など新規参入分野にも積極的に取り組んでいきたい」と語る
水槽内の水から残餌や排せつ物などを除去し、浄化して再び水槽に水を戻すシステムには、同社が水処理で培ってきた技術が生かされているそうだ。
あまりにも多様かつ多分野にわたる同社の事業内容。
唯一共通しているのは、エネルギーや資源を活用し、人々の生活に資するもの、ということだろう。
「当社では現在、カーボンニュートラルの実現に向けた施策を最重要課題に位置付けており、2022年4月に脱炭素化事業本部を新設するなど、組織的な取り組みを強化しているところです。今回のモルディブにおける実証プロジェクトのように、国や地域の事情を考慮しながらカーボンニュートラルやSDGsの実現に貢献できる事業を国内外で積極的に展開していきます」と小林氏は語る。
創業から長い歴史を経て、また新たなスタートを切る日立造船。
これからの脱炭素社会実現においても、大きな役割を果たすことが期待される。
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text:田端邦彦 photo:安藤康之
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