1. TOP
  2. NEXT100年ビジネス
  3. 太陽のエネルギーで海水を淡水化! 日立造船がモルディブで実証を行う理由
NEXT100年ビジネス

太陽のエネルギーで海水を淡水化! 日立造船がモルディブで実証を行う理由

日立造船株式会社 環境事業本部 設計統括部 水処理設計部長 小林英正/同本部 海外環境ビジネスユニット 環境海外営業部 部長代理 宮城大洋【前編】

約1200の島々から成る世界有数の観光国・モルディブ共和国において、現地で暮らす人々の生活を支える海水淡水化プラントの実証を行っている日本の企業がある。太陽光発電とNAS蓄電池を用いた「脱炭素型海水淡水化システム」を手がける日立造船株式会社だ。今回は同社環境事業本部の小林英正氏と宮城大洋氏に、水の未来について聞いた。
(<C>メイン画像:LEICA / PIXTA<ピクスタ>)

世界の水不足危機を懸念し事業をスタート

水道の蛇口をひねれば水が出る──。

私たちは普段、これを当たり前のことと捉えているが、そうしたインフラが成立しない地域が世界には数多くある。砂漠地帯や島しょ部など、地下水や河川がほとんどない地域だ。「水の惑星」とも呼ばれる地球だが、ほとんどは海水であり、淡水の割合は水全体のわずか約0.8%。それも大部分が地下水であり、人が簡単に利用できる河川や湖沼などに存在する水は約0.01%しかないとされる。

「昔からいわれていることですが、地球上に存在する淡水の量は意外と少ないのです。このまま世界の人口が増えていくと水不足に陥る可能性があるので、プラント事業の経験を生かし早い段階から海水淡水化に取り組んでまいりました」と、日立造船株式会社が海水淡水化事業を手掛け始めた背景を小林氏は語る。

「海水淡水化プラントは地域事情にマッチした技術が大切。さまざまな技術を持っていることが強みになる」と語る小林氏

同社は国内企業として早い段階で海水の淡水化に着手してきた。1971年、自社の因島工場(広島県)に第1号プラントを建設。1979年には同社初の海外プラントをサウジアラビアに建設した。

自社での技術開発、他社との技術提携によって海水淡水化の方法を進化させ、より大型のプラントも建設できるようになった。この半世紀ほどで国内外に完工した施設の数は45にも上る。

それにしてもなぜ、“日立造船”がプラントを? と不思議に思う方もいるだろう。日立造船は1881(明治14)年に北アイルランド出身の実業家エドワード・ハズレット・ハンターが創設した「大阪鉄工所」を母体として造船事業で身を立てた会社だが、国内造船業の不況により2002年には祖業を切り離した。代わりに主力事業としたのが、それまで培ってきた高い造船技術を応用した、ごみ焼却発電施設や海水淡水化施設などのプラント建設だった。

「社名に造船と付いていますが、当社は古くから手広くさまざまな事業を行ってきました。その一つに化学プラント部門があり、水を蒸発させたり、凝縮させたりする技術を持っていたんでですね。当社の海水淡水化装置には、そうした技術が応用されています」(宮城氏)

海水淡水化プラントだけでなく、ごみ焼却発電施設の建設などにも幅広く携わってきた宮城氏

ちなみに日立造船は2024年10月1日に社名を「カナデビア株式会社(英文表記:Kanadevia Corporation)」へと変更する予定。これは“造船”だけでなく、“日立”との資本関係も既に解消されており、実情にそぐわなくなったためだ。

新社名の由来は、“奏でる”(日本語)と“Via”(Way/道・方法という意味のラテン語)を組み合わせた造語とのことで、“人類と自然に調和をもたらす新しい道を切り開いていきたい”という思いが込められている。

低いエネルギーで水を作れるROとは?

日立造船が手掛ける海水淡水化装置の種類は主に、水を蒸発させる方式と半透膜を利用する方式がある。蒸発させる方式はさらに「多段フラッシュ法(MSF)」と「多重効用法(MED)」の2種類に分けられる。

MSFは加熱された海水を減圧された蒸発器で沸騰、蒸発させ、その発生蒸気を凝縮して淡水を生産する技術となる。大型化に適しており、超大型プラントに対応できる、海水の水質に左右されにくいなどの特徴がある。特に中東では海水淡水化設備とともに発電設備が併設される場合が多く、発電設備の余剰蒸気を利用できるために多く採用されているという。

一方でMEDは蒸発室(効用缶)を複数並べ、 最初の効用缶で海水を加熱、発生した蒸気を次の効用缶の加熱蒸気として使用し、これを繰り返して海水を淡水化する技術だ。2つ目以降の効用缶では前の効用缶で発生した蒸気から熱を得るため、伝熱効率が高い。MSFに比べてエネルギー消費が少なく、作れる淡水の量が多い点や、最高温度が低いため比較的安価な材料でプラントを造れるなどの特徴がある。

半透膜を利用する海水淡水化技術は、それら蒸気を利用したものとは全く異なる方式だ。海水を加圧して半透膜を通過させ、淡水化するというシンプルな方法で「逆浸透膜(RO膜)法」と呼ばれる。

モルディブ共和国に導入されるものと同型のROコンテナ。常温の海水をそのまま使えるのがROのメリット

「MSFやMEDでは水の加熱や蒸発器の減圧に大きなエネルギーを使いますが、ROは海水を給水し、加圧だけで済みます。エネルギーコストが比較的安価な中東では今まで蒸発法が主流でしたが、逆浸透膜の性能向上やコストダウンにより、世界的にシェアを拡大しつつあります」(小林氏)

2022年10月からモルディブ共和国で始まった実証では、このROが採用された。海水を淡水化するためのエネルギー源は、太陽光発電による電力で全て賄う。また太陽光発電による余剰電力を蓄電池に蓄え、日射のないときは蓄電池より供給される電力で海水を淡水化。これら再生可能エネルギー(以下、再エネ)を有効活用する方式が脱炭素化に貢献するとして、日本の環境省が公募する「コ・イノベーションによる脱炭素技術創出・普及事業」に採択された。

※日本と相手国との協働を通じて「双方に裨益(ひえき)のあるイノベーション(コ・イノベーション)を創出することにより、もって二国間クレジット制度を通じたわが国の温室効果ガス排出削減目標の達成に資するとともに、将来的に国内への技術の還流及び国内のCO2排出削減につなげていくことを目的」として創設され、環境省が補助金を交付する事業

旧態依然としたシステムからの脱却

モルディブ共和国は大小さまざまな約1200の島々で構成されており、人が居住している島だけで200近くある。そのため、大規模な発電施設を持っていない。

「モルディブ共和国では各島に小さなディーゼル発電機がたくさんあり、それで海水淡水化のエネルギーも、電力も賄っているのが現状です。燃料となる軽油は島外から運んでくる必要があり、発電効率も悪いので電気代も日本の倍以上します。そうした背景があるために島内では電力消費も設備投資も最小限に抑えられてきたのですが、水と電気が不十分な地域はどうしても発展しないんですね。そこで今回のプロジェクトではエネルギーコストを抑えつつ、島民の生活に十分な量の淡水を生産できる設備の開発を目指しました」(宮城氏)

太陽光発電の出力に追従させながら、水の需要量や貯水量などに応じてROの出力を調整するシステムが本実証の鍵を握る

RO自体はこれまでの方式と同様のものだが、再エネを有効活用するエネルギーマネジメントシステムの開発に腐心しているという。一般的なROでは常時一定の出力を保って稼働させるのが前提となっているが、今回のシステムではROの出力を太陽光発電の出力に追従させる。余剰に発電した分はバッテリーに蓄電し、夜間など日射のない時間帯にエネルギーとして利用。水需要やバッテリー残量、貯水量に合わせてRO出力を綿密に制御するシステムとした。再エネを余すことなく、不足することなく使うための工夫だ。

また商用の電力系統から切り離し、独立して稼働させることによって災害などによる停電時にも淡水製造を継続することができるという。

太陽光をエネルギー源としたのはCO2を出さず、モルディブの環境に適した発電方法であるから。

今回の実証はグリファル島で行われるが、将来的に他の島、世界中の他の地域にも広く適用することができるだろう。

後編では多様なエネルギー、環境関連事業を手掛ける日立造船が見据える脱炭素社会の在り方について、引き続き両名に話を聞いていく。



<2023年11月14日(火)配信の【後編】に続く>
カーボンニュートラルな未来を思い描く日立造船のビジョンに迫る

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. NEXT100年ビジネス
  3. 太陽のエネルギーで海水を淡水化! 日立造船がモルディブで実証を行う理由