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冷凍食品の常識を変える! ニチレイフーズが挑む食品ロスへの取り組み

株式会社ニチレイフーズ サステナビリティ推進部長 佐藤友信【前編】

今や日本の食生活を支える存在にまでなった冷凍食品。スーパーやコンビニに並ぶ冷凍食品の豊富なバリエーションとおいしさには目を見張るばかりだ。そんな冷凍食品業界も今、脱炭素化やSDGsへの貢献が求められている。業界をリードする株式会社ニチレイフーズで進められている取り組みについて、同社サステナビリティ推進部長の佐藤友信氏に聞いた。

食生活の変化が需要を後押し

戦後、日本人の食生活は大きく変化した。食事は家庭で調理し、家庭で食べることが当たり前の時代から、高度経済成長期を経て外食や出前が一般化。近年は核家族化や女性の社会進出、単身者世帯の増加といった生活様式の変化に伴って、食事もおいしさだけでなく、調理時間の短さやバリエーションの豊富さといった要素がより強く求められるようになった。

一般社団法人 日本冷凍食品協会が2023年に実施した調査によると、日本人の男女で冷凍食品を「ほぼ毎日」もしくは「週2~3回」利用するヘビーユーザーは3割を超えるという実態が明らかになっている。

冷凍食品はいかにしてここまで広く一般に普及したのか──。

株式会社ニチレイフーズ サステナビリティ推進部長の佐藤友信氏は次のように語る。

「冷凍食品の歴史は意外に古く、日本でも戦前から既に存在していたのですが、1964(昭和39)年に開催された五輪東京大会が普及に大きく貢献したと聞いています。選手村では開催期間中、毎日数千人もの選手に食事を提供する必要があったわけですが、食材を全て東京都内で手に入れようとすると生鮮品の相場が高騰してしまう恐れがありました。そこで当時、選手村の食堂運営を任されていた帝国ホテルの料理長と協力し、冷凍食品を活用することになったそうです」

業務用冷凍食品の営業職に従事した後、ニチレイフーズのサステナビリティ推進部長に就任した佐藤氏

1964年の五輪東京大会での好評により、冷凍食品は全国のホテルやレストランへと波及。その後、家庭に普及した電気冷蔵庫、電子レンジに対応する商品が出たことで冷凍食品も幅広く利用されるに至った。レンジで加熱するだけで簡単に食べられ、しかもおいしい冷凍食品は、日本人にとってもはや食生活の一部といえる。

現在、ニチレイフーズが製造する家庭用冷凍食品は120種類以上、業務用に至っては2000種類以上もあるという。コロナ禍の外食できない状況で、冷凍食品の需要が伸びたというニュースも記憶に新しい。

保存料なしでも長期保存が可能

ところで冷凍食品の利点は単に“便利でおいしい”だけにとどまらない。長期保存が利き、そのときに消費する量だけを調達しやすい、つまり食品ロスが生じにくい特性を備えているのも長所だ。

これは2030年までの食品ロス半減(2000年度比)をターゲットとしているSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」だけでなく、目標1「貧困をなくそう」、目標2「飢餓をゼロに」などに貢献できる資質でもある。

「例えば、農作物は供給過多や需要低下が起きると廃棄せざるを得ない状況になってしまいます。しかし、冷凍食品の食材として利用すれば、取れ過ぎたときには余った分を冷凍保存しておき、不作の年に供給するといった調整も可能で、収穫した農作物が無駄になりません。また、冷凍食品には『-18℃以下で保存することで微生物が活動できず、保存料を使わなくても長期間保存することができる』という優れた特徴もあります」

福岡県宗像市に新設された環境配慮型の米飯専用工場では、炒飯の製造をメインに行っている。既存の船橋工場(千葉県船橋市)と生産能力を分割し、BCP(事業継続計画)を高める狙いもある

食品廃棄はすなわち、農作物などを作るのに要したエネルギーの無駄であるともいえる。将来的に野菜を作る農家と冷凍食品メーカーが連携し、そのような生産調整ができれば食品ロスを大幅に減らすことができるようになるだろう。

食品ロスを減らす取り組みとして他にも佐藤氏がユニークな技術を紹介してくれた。これはニチレイフーズがグループ会社である株式会社キューレイ(福岡県宗像市)敷地内に昨年新設した米飯専用工場で採用されたものだ。

「炒飯を炒める工程でどうしても発生してしまう『こげ』。これを従来は人の手で取り除いていましたが、この工場では新たにAIで『こげ』を検知し、ロボットアームで自動的に取り除く技術を取り入れました。

人の手で作業していたときは焦げていない部分まで余分に取り除いてしまっていたのですが、AIの『こげ』除去を採用したことで精度が高まり、廃棄量の半分減少を見込んでいます。この技術は他の工場でも、鶏肉から血合いの部分を取り除く工程などに採用されています」

ライン上を流れる炒飯をカメラで撮影した画像からAIで「こげ」を検知し、ロボットアームで吸い上げる画期的な技術

温暖化対策に有効な自然冷媒の導入

持続可能な社会の実現を目指す上でも大いなるポテンシャルを感じさせる冷凍食品だが、ある側面では課題も抱えている。

その一つが冷凍食品の製造に欠かせない「冷媒」の問題だ。

ご存じのように、冷蔵庫や冷凍庫、エアコンなどの機器では特定のガスを圧縮して液化させた後、急激に膨張する際の気化熱を利用して空気を冷やしているが、そのガスを冷媒と呼ぶ。

冷媒には長らくフロンが使われてきたが、従来用いられてきた特定フロンは地球のオゾン層を破壊することから、1987年に採択されたオゾン層保護を目的とする国際的な取り決め「モントリオール議定書」で製造・使用が規制された(日本は1988年に加盟)。

代わりに用いられるようになったのが代替フロンだ。現在では特定フロンを含むオゾン層破壊物質の99%が削減され、世界のほとんどの地域で1980年のレベルにまでオゾン層が回復する見通しであると、国連の専門家委員会から報告されている。

しかし、その代替フロンも地球温暖化への悪影響があり、大気へと排出された場合には二酸化炭素(CO2)の数十倍から1万倍超もの温室効果をもたらすことが判明。2000年代に入って国際的に規制する動きが強まり、モントリオール議定書の内容も「代替フロンの生産・消費を先進国では2036年までに基準値(2011~2013年の平均)から85%削減すること」へと強化された経緯がある。

そこで代替フロンに代わる、地球環境に優しい冷媒として注目されているのが「自然冷媒」だ。自然冷媒ではフロンガスに代わり、CO2やアンモニアなど自然界に元々存在している物質を冷媒として用いる。

「冷凍する能力で社会課題を解決してきたのが当社の歴史です」と語る佐藤氏

「2022年度の実績で既に56%の冷凍設備で、自然冷媒への切り替えが完了しています。冷凍設備は生産ライン全体の操業に影響するため、特定の機器だけを入れ換えれば済むものではありません。当然、コストもかかります。新設・増設する工場や倉庫で導入するのはもちろん、既存設備も順次、自然冷媒へと切り替えていきます」

代替フロンから自然冷媒へと切り替えられたフリーザー。冷媒漏れ防止にも取り組んでいる

既存工場は常にフル稼動。生産ラインを止めての切り替えとなるため、投資計画に基づいて着々と自然冷媒への切り替えを進め、2030年には全ての工場の生産冷凍設備が自然冷媒となる予定だ。

後編では、同社が取り組んでいるクリーンエネルギーへの転換、エネルギー削減について深掘りする。



<2024年8月20日(火)配信の【後編】に続く>
AIや最新機器を導入した新型工場で環境配慮型の企業を目指すニチレイフーズ

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