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クボタが北海道のボールパークに農業学習施設を開設した狙い

株式会社クボタ KESG推進部 北海道ボールパーク推進課 野上哲也【前編】

農業機械の製造を軸に、食と農業の未来を切り開く株式会社クボタ。2023年3月、同社は北海道北広島市の「北海道ボールパークFビレッジ(以下、Fビレッジ)」内に「KUBOTA AGRI FRONT(以下、アグリフロント)」を開設した。先進的なアグリテックを集め、食と農業の魅力・可能性を楽しくおいしく学び、未来を考える場の創出を目指した農業学習施設は、どのような思いから、なぜ北海道に誕生したのか。同社KESG推進部 北海道ボールパーク推進課の野上哲也課長に話を聞いた。

きっかけは、世界がまだ見ぬボールパーク実現への思い

2023年3月、プロ野球・北海道日本ハムファイターズ(以下、ファイターズ)の新拠点としてオープンした「エスコンフィールドHOKKAIDO(以下、エスコンフィールド)」。

Fビレッジは同球場を中心に、宿泊施設やアスレチック、保育園、レジデンス、教育施設などが集まった本格的なボールパークとして注目を集めている。

Fビレッジ全景。エスコンフィールドを中心にさまざまな事業者が参画し、「共同創造空間」を構成。アグリフロントは画像中央やや下に位置する

画像提供:株式会社クボタ

この球場を中心に広がる街の中に、クボタはアグリフロントを開設した。

「学生時代、旅行で北海道に1カ月半以上滞在し、入社後の配属先が北海道支社であったことなど、北海道との縁を強く感じています」という野上氏は、2021年2月にKESG推進部に異動。以降、施設の立ち上げから運営までを任された。同氏が施設の開設に到る経緯を説明する。

「Fビレッジを運営する株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(以下、FSE)さんに『ボールパーク事業に参画しませんか?』とお声掛けをいただいたのが始まりです。ファイターズさんと何か接点やご縁があったというわけでもありませんでしたので、最初は本当に驚きました」

FSEはボールパーク構想のテーマに“次世代を担う青少年の育成”、そして“持続的に成長するまちづくり”を掲げていた。野球観戦、食事を楽しみホテルに宿泊する既存の観光では得られない体験機会・価値を創出し、ファンと企業、地域が一緒にボールパークを地域の活性化につながる「共同創造空間」に育てていく──。そんな強く熱い意志を持っていた。

「そうした構想の中で、FSEさんは北海道の基幹産業である農業にも着目し、ボールパークの中に農業の持続可能な発展に寄与できる場を整えたいと考え、ボールパーク構想のアドバイザーを務めていた北海道大学大学院農学研究院の野口 伸教授にパートナー企業探しについて相談されました」

ビークルロボティクス、農業ロボット分野の権威である野口教授は、農業従事者の高齢化、農家の担い手不足などへのソリューションとして自動運転農機の開発を推進し、また、グローバルに事業を展開していたクボタを紹介した。

「FSEさんの『世界がまだ見ぬボールパークを実現させたい』という熱い思いに共感したこと、また『あらゆるステークホルダーの皆さまからの共感・参画をいただくべく、クボタの取り組みを発信・訴求する』との考え方から、具体的な社内検討が開始されました」

※クボタに関する記事:次世代の成長産業に! 自動運転コンバインで見えた“スマート化する農業”の未来

目指したのは“食と農業”の未来を志向する仲間づくりの場

このころクボタは、BtoB製品を主たる事業としていることもあり、農業関係者や自治体からの認知度は高い一方、食を享受する一般層、とりわけ若年層からの認知度が低いという課題感のもと「国内ブランド強化プロジェクト」を推進していた。

また、2021年以降は、経営方針で示された「クボタらしいESG経営=K-ESG経営」の一環としてプロジェクトは継続されている。

「ブランド強化プロジェクトではさまざまな発信を行ってきましたが、BtoC(一般の方々向け)の施設運営は実は会社にとって初めてのこと。施設のコンセプトから中身まで本当に白紙状態、まさにゼロからのスタートでした」

施設のコンセプト「“食と農業”の未来を志向する仲間づくりの場」は、“次世代を担う青少年の育成”というボールパーク構想のテーマもあり生みだされた。

「農業は今、食料自給率の低下、就農人口の減少、農業が引き起こす環境破壊、さらに食品ロス問題など多くの社会・環境課題と向き合っています。クボタも農業機械メーカーとして課題解決に取り組んでいますが、一企業にできることは限りがあります。未来の農業は、これらの課題をさまざまな立場の人々が協力し解決する必要があります。そのための“仲間づくりの場”を、子どもたちにフォーカスを合わせて整えることになりました」

「過去に従事していた東日本大震災の復興支援を通じて、社外の多くのステークホルダーから意見を聞き、また、仲間としてご協力をいただき、現地のニーズにより合致したものを提供するという経験が今回のプロジェクトでも非常に役立ちました」(野上氏)

画像提供:株式会社クボタ

次は、コンセプトに即した中身をどうするか。

「第一に食と農業への関心を抱き、行動変容や実践につなげていけること。子どもたちに将来、食と農を職業の選択肢の一つとしてもらうことを考えました。そのためには食と農の未来を見据えた展示やプログラムで、新たな発想、新しい技術をしっかり発信したい。それにより、農業のイメージを変えたい。以上のような構想が固まり、本格的なスタートが切れました」

2021年10月、クボタはFSE、北海道大学とFビレッジ内における農業学習施設の設置についての3者連携協定を締結。川村浩二FSE社長(当時・左)、北尾裕一クボタ社長(中央)、寳金清博(ほうきん きよひろ)北海道大学総長(右)

画像提供:株式会社クボタ

仲間たちの協力で、画期的な農業教育施設が誕生

クボタがコンセプトの検討を始めた2021年春、エスコンフィールドは2023年春の開場に向けて既に建設工事の真っただ中だった。施設も開設時期を合わせるため、展示の企画検討は建屋の着工と並行させるスケジュールを敷いた。

「方向性が定まったことで中身の準備は一気に加速しました。最先端のアグリテック展示は各スタートアップ企業、農業経営ゲームは農業経営コンサルタント、スマート農業の実践は農業経営者、施設内のカフェはメニュー開発のプロなど、まさに食と農業に向き合う多くの仲間のご支援をいただき、アグリフロントが誕生しました」

こうしてクボタ初のBtoC向け施設である農業学習施設アグリフロントは、2023年3月に開設。館内は7つのエリアで構成され、来館者は所要時間約30分、または約80分いずれかのツアープログラムに沿って館内を周る。

アグリフロント全体図。施設は1階のTECH LAB、TABLE、CAFE、2階のTHEATER、FIELD、STUDIO、屋外のPOTAGE GARDENの7つのエリアで構成されている

資料提供:株式会社クボタ

THEATERでは「食や農業の素晴らしさ」と、そこに関わる課題をフードバリューチェーン全体で解決する大切さを知る映像プログラムを上映。正面左右の壁面に加え、床面にも映像が投影される没入型映像空間だ

画像提供:株式会社クボタ

FIELDでは農業経営シミュレーションゲームを通じ、子どもたちが食と農業への興味関心を深める(シミュレーションゲームの詳細は後編で解説)

画像提供:株式会社クボタ

TECH LABで栽培されるイチゴ。潅水(かんすい)と施肥は株式会社ルートレック・ネットワークスが開発したシステム「ゼロアグリ」によりAIで最適化。来館者は、アグリテックが農業の社会・環境課題を解決する様子や栽培プロセスを間近で見ることができる

画像提供: 株式会社クボタ

「特にTHEATER、FIELD、TECH LABではアグリフロントでしか体験・見学できない、食と農への関心を深める展示やプログラムを提供しています。こうした企画は幅広いステークホルダーの皆さまの声を聞き、その声に仲間の皆さんの協力で応え、形にすることができました。農業機械メーカーであるクボタだからこそできることとは? その検討の結晶だと考えています」

後編ではアグリフロントで体験できるツアープログラムの詳細、さらにクボタがアグリフロントで実現させたい地域貢献、未来のビジョンを掘り下げていく。



<2025年6月18日(水)配信の【後編】に続く>
開設から2年、クボタが「KUBOTA AGRI FRONT」で得た新たな絆と可能性

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